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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第二章:双子の王子
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其の二十九 運営

遅くなりまして申し訳ない。

次回は必ず早めにします。

「いやぁ、良かったな。勝てて」

新鳳(シンフォン)はランスリットの肩を叩きながらそんなことを呟く。

そう言えば、新鳳が勝てば次は新鳳と当たることになるのか。勝てばって言ってもどうせ勝つだろうが。

なんたってSSS(トリプルエス)ランクは伊達ではない。

「お前とは二回戦で会えるさ。そこでお前と戦える」

新鳳の表情は心なしか明るかった。

今まで新鳳とは戦ったことが無かったからな。そう思うと楽しみだ。

「まあ、心配ないだろうが、頑張れよ」

ランスリットは右の拳を突き出す。

「当然!」

新鳳も右の拳をランスリットの拳にぶつける。必ず次の試合で戦おうと。


----*----*----


同時刻の第一アリーナ入り口。そこには刹葉(せつは)詩音(うたね)の姿があった。

二人がそこにいる理由。それは人探し。

「シアー。どこー」

詩音が珍しく声を張り上げている。誰を探しているかはご覧の通り。新鳳の次には試合だというのにいなくなってしまったシアを二人で捜索中である。

新鳳の相手はAクラス。時間までに見つからなければ棄権とみなされてしまう。

しかし、二人には見当など無かった。シアが行きそうな場所は既にあらかた見て回ったがいなかったのだ。

アレイブに頼ろうにも、彼も選手の一人。すぐに試合を控えている身を頼るわけにはいかない。

「詩音はもう戻ってください。多少時間があるとは言え、詩音も選手ですし、なるべく控え室にいた方がいいです」

「ヤダ。一緒に探すって言ったでしょ」

元々は職員として運営する側にいる刹葉だけで探すはずだったのを詩音が半ば強引についてきたのだ。選手を連れ出すのは気が引けたが、シアにとってはそうも言ってられない状況でもあった。

試合が潰れるのは運営としても避けたい事態である。当然人が派遣されるが、今この状況で一番適任だったのが刹葉だった。

「ただの一寮長に過度な期待だとは思いますけどね……」

なんて小言をポツリと放ったのは詩音しか知らない事実だろう。

シアがいなくなってからもうすぐ15分が経とうとしていた。もしかしたらもう新鳳が試合をしているかもしれない。

早く見つけなきゃ……

「あら。シオンと刹葉。何してるの?」

後ろのアリーナの玄関から聞こえてきたのは探していた声。二人はその声に同時に振り返る。

そこにいたのは幼女と勘違いされる容姿を持ったオレンジの髪の少女。間違いなくシア・アーカイプスだった。

「『何をしている』とは心外ですね。こっちは少し出てくると言っていなくなった貴方を探していたというのに……」

刹葉は小さなため息を漏らし、少しばかり抱いた呆れを吐き出す。

さっきの報告もあってか、学園は今慎重な姿勢をとっていた。グレイドがもし近くで動くことがあれば巻き込まれかねない。

慎重にならざるを得ない。

現状がどうなのかは解らないが少なくともシアのエリクサーは普通のエリクサーとは違う。今はまだ種でも失う訳にはいかない。試作品の自分なら兎も角、完成した研究であるシアやランスリット、アレイブ、新鳳たちはこれから更に強くなるはずだ。

『なんとしても活躍してもらう』というのが国の上層部の結論。それを守る義務が国家ライセンスを持つランカーの務めだとブレッドは言っていた。

学生の立場である詩音たちにはまだ関係のない話ではあるのだが。

何にせよ、学園はなるべく危険な目には合わせないようにしたいのだ。そのための捜索。

「ゴメンゴメン。ちょっと知り合いから連絡がきてね」

シアは何も考えずにそう言っているのだろう。そしてそれで良い。刹葉からすればこれは知らなくてもいいことだと思っている。

知ったとしてもきっと何も変わりはしないだろうから。

「さあ、早くしないと新鳳の試合が終わってしまいます。控え室に行きましょう」

兎にも角にも今はこの学内ランキングトーナメントを成功させなければならない。

今の刹葉はそのための職員だ。


----*----*----


会場は蒸し暑い熱気に包まれていた。

開始から5分。試合は既に終わっていた。勝者は新鳳。合間見えてからは2分と持たなかったらしい。

「もう終わったんですか。早かったですね」

戻ってきた刹葉はタオルで汗を拭きながらスポーツドリンクを飲む新鳳に労いの言葉をかける。

「ああ、先に見つけた時相手が後ろ向いててさ。先手必勝とも思ったけど気が引けてな。声をかけて正々堂々勝負しようと持ち掛けたら、相性が悪かったみたいで一方的に勝ってしまった」

確かにそういうことはあるかもしれない。相性はどうしても切り離せないものだ。今回は運が良かったのだろう。

「ともあれこれでランスと戦えるんだ。全力を出し合おうぜ!」

「当然だ!実力見せてもらうぞ」

なんだか熱くなっている二人は放ったまま話は進む。次の試合はシアが出場するのだ。

相手は同じクラス。よく見知った相手なだけに、油断すれば確実に負けに繋がる。実戦のための訓練。まずはここで力を発揮できなければ。

しかし彼女はそんな戦場に行くのにも関わらず、

「大丈夫。私はそう簡単にやられはしないわ」

不敵に笑って見せる。

確かにシアは強いが、相手もまた強力な力の持ち主。この笑みはそれを知っていて出る笑みなのだからそれだけの自信が見て取れる。

「彼も強いですが、シアなら或いは勝てるかもしれませんね」

「そりゃ私の方が強いもの」

言い切る。大した自信だ。

ランスリットとブルレットの試合ですらかなり迫るものがあった。そこまで言うのには余程の根拠があるのだろう。

そうしている間にも時間は過ぎ、試合開始の5分前。シアは控え室を出て会場へ向かって行った。

「でも本当に勝てますかね……」

刹葉は苦笑いを浮かべながらそう呟く。

何と言っても相手は同じクラス。そして同じランクだ。実際のところ勝てる見込みは五分。

彼の弱点に気付けばもしかしたら本当に勝てるかもしれないけど……


----*----*----


数分前、保健室。

「痛っ……!」

わき腹の傷を優しく摩る。先ほどの試合でやられた傷だった。遥真(ようま)は保健室の教師がいないので自分で応急手当てを行ったのだ。

「まあ運動に怪我はつきものだしな。シオンの狙いがもう少し正確だったらバリアも発動してたのかな」

まだ一年目ではそこまで正確にはいかないか。

なんて遥真は考える。怪我自体は大したことはないのだが、学内ならどこでもエリクサーで試合の中継が見られるようになっているので、休みながらでもと企んでいるのだ。

さて、今は俺しかいないし、ベッドでも借りて観ようか。それともいっそのこと寝てしまうかな。

カーテンを開けて誰もいないベッドに座る。エリクサーで中継を開くと丁度試合が終わったところだった。

ああ、新鳳勝ったのか。早かったな。

遥真は中継を消してベッドに横になる。それと同時に保健室のドアが開き、保険医が現れた。ドアからベッドはカーテンが無ければ目の前に見える位置にある。

「どうした。どこかですっ転んだか?」

そんな風にぶっきらぼうに声をかけてくる。保険医はそのまま真っ直ぐに遥真に向かって進み、身体を簡単に観察し、脇腹辺りの手当てを見つけた。

「すまんな、してやれなくて」

「大丈夫ですよ。大したことはないです」

しかしそこは養護教諭。いつ、どこで怪我をしたのか聴取し始める。

時間、場所、原因。全てに間違いなく遥真は答える。

が、聴取を進んでくると徐々に保険医の表情が怪訝なものに変わる。

「そいつはおかしいな」

遥真はその言葉の意味を理解するまでに至らず、養護教諭の方が先に学園長であるブレッドに連絡を入れる。

「どうした?何かあったのかい?」

ブレッドの真面目な声音が軽く響く。そしてその問いに対する答えは、ブレッドの危機感をひどく煽るものだった。

「学園長。“試合中に生徒が怪我をしました”」

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