其の二十七 学年一位
すごーく遅くなりましたが更新です。
ようやく時間が取れるようになったのでこれからはもっと更新できるかと思われます。
「さて、次は俺か」
控え室の彼はスッと立ち上がる。
茶髪のツンツン頭が部屋と廊下の境を通り抜けていく。
彼はその足でアリーナに踏み込んだ。
今日の見所と言われている組み合わせが始まろうとしていた。
理由は簡単。一年で最も注目を集めているランスリットを見に来るのだ。
一年では確実に最強であるランスリットはかなり名が知れている。
当然見物に来る者も多い。
そんなステージに彼は上る。
歓声の中、スタート地点に着く。
ステージは《大都市》。以前彼とイノアが戦った舞台だ。
相手はAクラスで最も良い成績を収めていると言われるブルレット・ヴァクシーノ。
彼もランスリットと同じく青属性で中距離から布石を打って近接戦闘を仕掛けてくる頭脳派な戦闘スタイルで有名だった。
ランスリットはほとんどの武器が白兵戦用の武器で、先手を取るのは難しいだろう。
アシルレイトは自立機動兵器とは言え、本人の感覚にリンクしている為先制攻撃するには先に相手を視認しなければならず、一対一では奇襲も厳しい。
しかしそれでもランスリットは現一年最強である。負ける気はしていないらしい。
「では一回戦第三試合開始!」
ライカの声は開幕の合図。両者は一斉にスタート地点の円柱から飛び出す。
都市のビルを間を切り裂くように飛び回るのはランスリット。アシルレイトを足場にステージを高速で移動していく。
さて、どこにいるか。まずは先制攻撃を狙わないとな。
ビルの屋上では少し強めの風が吹いていた。
ここからなら見渡せるしすぐに見つかるだろうという安直な考えの下彼は索敵を始める。
そしてすぐに、
「見つけたーーーーー!」
目下から恐ろしい速度で壁面を上がってくる人物が一人。
ランスリットも流石に十階の高さまで壁面を駆け上ってくることは予想していなかった。
一瞬で頭上まで飛び上がったそれは太陽の光を背に閃光を放つ何かを飛ばしてくる。
ランスリットは閃光に対し反射的に飛び退いていた。兎に角危険だということは理解したらしい。
そしてそれは事実そうだった。屋上の床に刺さっていたのは銀色に光るナイフ。
「流石だなブルレット。危なかったぜ」
それでもランスリットはズボンのポケットに手を突っ込んで余裕の笑みをかましてみせる。
一方ブルレットは鋭い視線でランスリットを冷静に見据えた。
そして小さく「はぁ」とため息を一つ。
「ウチ、理数系は得意でね」
ショートの白みがかった金髪、細めの目から見える瞳は常に鋭くニット帽の下からランスリットを捉えていた。
Aクラスで最高の実力者とだけあってランスリットも認めている。彼女は確実に強いと。
「でも数字が戦闘に関係あるのか?」
ランスリットはそんなあからさまに頭の悪そうなことを呟きながら右に二歩動く。ランスリットがいた場所に一秒の間も置かずにナイフが突き刺さる。
「ランスリット。お前ウチをなめとんのか?」
「まさかそんな。それどころか楽しみにしてたさ」
ブルレットの左手には青い光と共に真っ黒な剣が握られる。そして剣を一度振る。それはまるで見えない何かを切り裂くような一閃。
それと同時にランスリットは背中に鈍い痛みを覚え、前方によろける。
マジかよ!斬撃が後ろから!?
「くっ!ゼインリベルラで……」
相手は青属性。自分の属性の特徴くらい掴んでるつもりだ。
青は能力方面には明るくない。なら武器自体の力のはず。
武器だって力を発揮するのに魔力は必要だ。
ランスリットは右手に魔力を集中させる。藍色の光が剣を形作る。
ブルレットはそれを見ると自分の右手前に前の二本と同じ銀色のナイフを投げつける。
「Et conversum mandato Domini(主の命令に背け)!」
三つのナイフが線で繋がる。三つのナイフをそれぞれ角とした大きな三角形。ランスリットはその中にいた。
嘘だろ!?まさか能力が使えるのかよ!
ランスリットは紫色の光に包まれる。光に包まれながら何かが欠落したような感覚を覚える。
何かはわからない。初めての感覚だった。
「何だってんだ!これ!」
いきなりのわけのわからない感覚に驚愕しているとまたナイフが飛んでくる。
こんな時でも冷静に最小限の動きで回避するあたりは流石と言うべきか。
しかし動揺は隠せない。
何よりも生成したはずのゼインリベルラが右手に無かった。
なんで無いんだ!俺は何をされた!?
知らない能力でいきなり武器を封じられランスリットは兎に角生成を続けた。
しかしいくら続けても生成できない。
「クソッ!」
ランスリットはブルレットに向き直る。
彼女はいかにもな表情でランスリットの顔を見る。
「こうも簡単にいくとは思わんかったわ。まさか知らんのか?」
そうしたり顔でランスリットに言った。
青属性は特性上能力を習得しにくく、代わりに武器自体に特殊な能力が付加されやすい傾向が強い。
但し、その特性を努力で覆した例が存在する。
基礎的な能力を身に着けるだけならセンス次第だが最低二ヶ月以上の修行で可能になると言われ、理論上のその数値すらもたった一人だけは例外と位置づけられた。
しかもその例外は現在、正反対である緑属性のLevel5と同等の能力が使えるほどである。
彼女もその努力のために得た能力だった。
Sランク判定を掠めるには十分過ぎる素質が彼女にはある。
「能力使うなんて思ってなかったって顔やね」
「当然だろ……。俺なんてどんなに頑張っても出来なかったんだ。ましてや青属性に使われるなんてよ」
「ウチは十ヶ月間、この学校入る前からずっとやって来たんや!それでもまだ足りん!」
「へへっ……、すげぇな。俺なんかよりずっとすげぇや……」
俺は王宮にいた頃から、二年以上続けて未だに能力の片鱗すら見えねぇってのに……
あの頃のソードにはもう勝てなくなってたな。そういや、アイツも俺に出来ないような能力を使ってたっけ。
やっぱ俺にも能力が使えたらちょっとは変わってたのかな……
あの時の運命も或いは。
ランスリットはただ本当にそう思っただけだった。
だがそれを口に出してはならなかった。それだけは絶対に。
「“才能がある”って、うらやましいよ」
そう呟いた。
ランスリットの目の前でブルレットは黒い剣を振り回し始めた。
一撃一撃は空を切っているが重く、仕留めるつもりの斬撃ばかりを当たらない位置で放つ。
残ってる武器はアシルレイトだけか。これしかないなら仕方ない。
六機のアシルレイトを全て自分の周りに展開し、半分は魔力補充のためにベルトに戻す。
残り三機。これで何とかなるとは思わないが、時間稼ぎ程度には頑張れるはず。
ブルレットはランスリットに向かって踏み込む。
Level1のエリクサーなら身体能力は通常時の約二倍。一歩でも十分な距離を踏み込める。
アシルレイトの妨害を剣で捌きながら近づいて来る。
ランスリットはアシルレイトの一機を手で掴み取りブルレットの剣とぶつけた。
「くっ!」
ぶつかり合った剣同士が一瞬火花を散らす。
力が強い!コイツキレてるのか!