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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第二章:双子の王子
26/32

其の二十五 詩音の戦い方

随分と遅くなってしまいました。

申し訳ないです。

ランキングトーナメント開催初日の一回戦。

一回戦目は詩音の出番だ。

大丈夫。私なら勝てる。

刹葉の言葉を信じる……

詩音は既に緊張を振り払っていた。

ただただ愚直に刹葉の言葉を信じることによって。

しかし問題はまだ残っている。

相手のことだ。

対戦相手はふすま風守かざもり遥真ようま

通称・紅蓮ぐれんの遥真。

その通り名から解る様に赤のエリクサーを使い圧倒的な火力を操る。

彼自信が武器を使用しているところを誰も見たことが無いと言われ、能力だけで攻撃してくるのだ。

赤なら能力だけというのも珍しい。赤は基本は武器による火力で弾幕を張るタイプが多いはずなのだが、彼は何故か能力しか使わない。

赤は青や緑のように極端というわけでもないので、能力だけでも武器の火力を上回ることもできる。

実際戦い方次第でどちらにも転ぶが、古くから人類に馴染んできた武器の方が解りやすいためかそちらの方が数は多い。

例外ではないにしろ、あまり見るパターンではないのだ。

試合前に刹葉が言った言葉を思い出す。

彼の噂を信用し過ぎないでくださいと。

一体どういう意味なんだろう……

考えながらも彼女はアリーナの中へと入って行くのだった。


----*----*----


ステージは≪港≫。潮風の吹く海沿いのステージ。

時間設定が夕方になっており、海に日が沈みかけている。

辺りを見回せばあるのは色、大きさが様々なコンテナ。他には何もない。

試合は実戦に基づいて行われる。試合開始が作戦開始と位置付けられている。

つまり試合が始まるまで一切の攻撃は許されない。

全ては飽くまでグレイドを倒すためだ。

ただ、ならば何もできないかと言うとそうでもない。

できることは確かにある。

例えば、把握。ステージの構造を把握すること。

詩音はコンテナの隙間に入ってみる。隙間はコンテナの陰になっている。

中はかなり暗く迷路のように入り組んでいた。

ここからなら奇襲がかけられるかも。

試合は多分このコンテナの隙間をどれだけ利用できるかで有利か不利か決まる。

私の能力を使えば相手よりも早く把握できるはず。

ならこれを利用しない手は無い。

詩音は時計に目を移す。時刻は試合開始の5分前。

詩音は近くにある光の円の上に立つ。

この光の円柱は試合において与えられたスタート地点である。

5分前になると現れ、互いに円に立つとその時点でカウントダウンが始まるのだ。

そして今まさに互いに準備が完了したようで、

「全員がスタート地点に着きました。作戦開始まで5、4、3、2、1……作戦開始」

戦闘が始まる。

詩音の右手に白い光が集まる。それは一つのある形を作っていく。

彼女の武器、刀だ。

詩音が持つ唯一の武器。空玖璃カラクリ

魔力次第で長さをどこまでも変化させる能力を持つ。

その刀にはさやつばも無い。まるで空色の鉱石を刀の形に削ったような姿をしている。

この刀を特徴は長さを変えられることだけではない。空玖璃は重さも変わるのだ。

そして壊れない。決してである。

詩音のエリクサーの能力、インフィニティによって無限の耐久度を誇る。

その強さはまさに無双。天上天下を探してもこの一つだけである。

これ以上強くなるのであれば後は使い手の腕次第だ。

そして肝心のその使い手は未だ未熟。まともになるのはいつになるだろうか。

詩音は陰を行く。

その迷路のような隙間を縫って進む。

大体は頭に入った。問題は相手がどこにいるか。

それが掴めなきゃ始まらない。

もっと速くなればきっとその分早く見つけられる。

詩音は自分の能力を自分に使う。正確には自分の速度に。

それは加速だった。無限に加速する。

試合時間の中では無理だろうが、それは限界すらも超える加速だ。

どこまでも、どこまでも、加速する。

彼女の前に「限界」など「無い」のだ。故に「無限」である。

「……おかしい」

詩音はコンテナの隙間を出たところで足を止める。

ここに至るまでには何も無かった。

実際は問題無いはずだが、彼女は違った捉え方をした。

相手が何をしているのか分からない。

彼はどこに行ったの?

ここに来るまでに気配なんて感じなかった。

なんで出てこないの。

どこで何をしているのか全く分からない。

敵は私には見えない場所で私を狙ってる。

瞬間、詩音の足元に赤い魔方陣が広がる。

しまった!

一気に豪炎が立ち上る。

罠だ。既に仕掛けてあったのだろう。

喰らえばガードエリクサーの魔力はかなり削られただろう。

しかしそれは意味を成さなかった。

詩音は加速したその反応速度で瞬時に無限の耐久力を誇るバリアを形成していた。

数秒前に通っていたら反応し切れなかったかもしれない。

それほど罠の反応は早く、仕掛けも詩音が気付かないほどに手馴れていた。

「あれ。仕留め損なったか」

詩音の頭上から声がする。

近くのコンテナの上に彼は立っていた。

赤茶色の髪に気力を感じないが七星人の特徴である少し濁った碧眼。

紅蓮の遥真。

人は彼をそう呼ぶ。

「よお、シオン。早速で悪いが全力でいくぜぇ。お前も俺も同じSSランクだからな」

「そうだね。私も本気でいくよ。ちょっとまだ緊張してるけど……」

私も刹葉と並べるように……

遥真は片手を詩音に向けてかざした。

すると遥真の周りに大量の炎の矢が現れ、詩音に降り注ぐ。

その矢は規則性の無い速度で詩音を襲う。

さっきバリアは使っちゃったからあと十数秒は使えない。

ここは避けるしか……

詩音は矢を一つ一つ確実に避けていく。視認しながら確実に。

「流石やるねぇ。じゃこれならどうだ!?」

遥真の頭上に巨大な炎が出現する。

「うおらぁ!」

まずい!

まだバリアは張れないし、あの大きさじゃ回避も間に合わない。

どうすれば……

詩音は咄嗟に空玖璃を下に向ける。

次の瞬間、炎が辺りを包み込む。周りのコンテナ諸共爆発に巻き込まれ一体は焦土と化す。

「いない……?」

詩音はその焦土にいなかった。

コンテナに隠れた様子も爆発で飛ばされた様子も無い。

「はあっ!」

一撃。詩音の剣が遥真のわき腹をかすめる。

手に持った空玖璃は不自然なほど長く変形し、その一突きは遥真の上から放たれていた。

刀を伸ばして上空に逃れたのか。爆風も利用して俺より上に飛ぶなんて。

でも傷は浅い!

遥真は腹に走る鋭い痛みに耐えながらも右手を腰の辺りに構える。

そして放つ。

彼の炎は真っ直ぐに詩音目掛けて飛んでいく。

しかしその炎が詩音に到達することはない。

彼の炎を掻き消し貫いてくるのは白い弾丸。

真っ白な弾丸だった。

「マジかよ!?」

咄嗟の判断で彼は自分の目の前で炎を爆発させ、爆風で後方へ吹っ飛ぶ。

クソッ!少しガードエリクサーの魔力が削れた!

遥真は受身を取り爆発の煙が立ち昇る方へ向き直る。

「っ!?」

煙を突き破って出てきたのは無数の白い弾丸。

その数は数え切れないほど。

何だコレ!?聞いてねぇぞ!

しかもこの弾丸加速してやがる!

遥真も炎の弾幕を張って応戦するが、正直これでは間に合いそうも無い。

「戦略的撤退!今に見てろ!」

「逃がさない!」

遥真は自分の後ろにあるコンテナの隙間へと入っていった。

詩音の無限の弾幕もコンテナに遮られる。

「くっ」

詩音もまたコンテナの隙間に入って遥真を追う。

やっぱり追って来たな!

遥真は足の裏から炎を噴出して高速で移動し始める。

これなら追いつけないだろ。

そう思っていたが、予想は外れ詩音は同じ速さで追ってくる。

「おいおい、勘弁だぜ。この速度についてくるのかよ……」

加速してて良かった。

詩音は目前に捉えた敵を追い続ける。

今でこそ同じ速度だが時間が経てば経つほど彼女は加速していく。

いずれは確実に追いつくのだ。

だがこれは戦闘である。そう簡単にいくことではない。

徐々に詩音が速度を加速していく。

そして一歩。その瞬簡に赤い魔方陣が広がる。

「爆発しろ」

巨大な魔方陣が大爆発を引き起こす。

遥真は真後ろの爆風を上手く利用し更に加速して隙間を縫っていく。

やってやったぜ!あれでもう半分は魔力を削ったはず!

あとはこの隙間に張り巡らせた罠で削り切ってやる!

「ごほっ!けほっ!ごほっ!ごほっ!」

煙たい。苦しい。

この感覚、前の、3年前のあの日……

あの日の感覚に似てる……

死にかけたあの日。そして戦いの中に身を置く事を誓ったあの日。

人々が死んでいく中で私たち家族が生き残った日。

この力を手にした日。

あんな地獄みたいな光景を二度と見たくないと思った。

無理だって理解してても願わずにはいられなかった。

自分のために、皆のために、人間のために、何より刹葉と一緒にいるために。

人間によって同じ光景はいずれまた再現されるだろうけど、でも減らすことならできるって、きっと叶うって、そう思いたいから。

詩音は立ち上がる。

まだ強くならなきゃいけない。

だからもっとインフィニティの能力を引き出さなきゃ。

まだ私には使いきれてない能力がある。それを想像する。

想像してカタチにする。

もっともっと引き出して。

「もっと力を!」

詩音は走り出す。

さっきよりもずっと速い速度で。

確かこの先はさっき通った道。

なら地の利は私にあるはず。

詩音は遥真を再び視界に捉える。

「もう追いついてきやがった」

詩音は白い弾丸を放つ。

遥真はそれを道を曲がることでひらりと回避する。

「弾幕にすると恐ろしいが少数だとこの程度かよ!精度がガタ落ちだぜ!」

「まだまだ!」

追いつきそうなところまでいくが、直前で弾丸をかわされ脇に入られてしまう。

遥真はまだこの辺りには罠を張っていないようで本人が直接攻撃してくるが、詩音はそれを弾丸で弾く。

「そこっ!」

放った弾丸は遥真の横を通り過ぎていく。

やっぱり精度が低い。

これならやり過ごせる!

遥真はまた弾丸を避けて脇道に入る。

が、

「クソッ!行き止まりかよ!」

その先は行き止まりだった。しかも周りのコンテナはかなり背が高いものばかり。

「まんまと誘い込まれてくれた」

「計算ずくだったってワケかよ……!」

「そういうことなの。これで終わりにするわ」

上へ逃れても追われて弾幕の嵐。かと言ってこのままじゃ……

遥真が考えているうちに詩音は彼に右手を向ける。

その手の先から小さな白い球が発生した。

その白い球はゆっくりと遥真に向かっていく。

「当たれば終わりよ」

遥真に詩音の言葉が突き刺さる。

俺だってここで負けたくはない!

「最大火力!!」

遥真は背後に手を回す。

後ろにあるコンテナを炎で一気に引き飛ばした。

今ここじゃ部が悪い。一旦体勢と立て直す。

遥真は思い切り後ろに飛び退く。

そうして開けた視界に映ったのは自分の周りに張り巡らされた無数の白い球だった。

「誘い込まれた時点で彼方の負けだったの。ごめんね」

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