其の二十二 占い同好会の解決屋
遅くなりました。
先月は忙しさにかまけて執筆を全くしなかったのは時空間でもお伝えしたとおりです。
すいませんでした。
今回は若干短めとなっていますが大事な話になっています。
これからもよろしくお願いします。
時間は過ぎ、現在は6月9日。
トーナメントまであと丁度一週間となった。
新しく増設されたアリーナもトーナメント開催と同時に開放され、三つのアリーナで行われることになっている。
アリーナはこの時期ではあらかじめ予約を入れておかなければ入ることは難しいだろう。
「ほら!早くしないと予約時間に間に合わないぞ!」
「ああ、もう、ホームルーム長すぎぃ!」
などの声がアリーナ辺りではよく確認される。
そんな様子を見ているのはリサーナら体育委員たち。
急ぎ過ぎて転びそうになったりする生徒もちらほらと……
「あうぅっ!!」
「大丈夫ですか、詩音!?」
……実際に転んだ生徒は初めてである。
刹葉に手を取られて詩音は連れられて行く。
あんなに急いで一体どこに行くのだろうか……
「すみません。次の時間に予約取っておいたレーバルです」
「はいはい。ええ、ちゃんと取ってあるわね。あと5分で出てくるはずよ」
こうやってちゃんと時間通りに来てくれる子がいるとこっちも仕事しやすいのになぁ……
なんで皆ギリギリ直前に来るんだろう。
彼女は今まで毎年体育委員を務めているため、参加する側の努力を知らないのだ。
毎年開かれるこの行事では体育委員が運営側に回るので彼女はあまり戦闘を経験していない。
彼女自身も戦闘が得意ではなく、クラスもEクラスに所属している。
はっきり言って戦闘に全く向いていないのだ。
「じゃあ、気をつけていってらっしゃい」
言って彼女はクライスの背中を見送る。彼女はいつもそうなのだ。
彼女は見送る側の人間。だからこそ彼女は自分の責務をまっとうするのだ。
彼女にもいつか大切な人を見送る日が来るのかもしれない……
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さて、先ほどの刹葉と詩音。
一体どこへ急いでいたのかと言うと、
「……占い同好会……ですか」
「差出人不明の手紙に時刻と場所の指定……、なんてお約束な展開、誰が……」
そこは学園の部活動が行われている西館。その一角に存在する占い同好会の部室前だった。
ここには自分ではどうしようもない、解決が難しい問題などを解決してくれるという、言うなれば『最終手段』とも言える『解決屋』と呼ばれる人がいるとされている場所。
こんなところに誰が呼び出したのか。二人には思い当たる節が無かった。
二人の知り合いと言えば、大抵は自分の力でどうにかできる連中ばかりだ。
それとも二人が知り得ない人物が何かで二人を知ってコンタクトを取ろうとしてきたのか。
僕らを呼び出すのに手紙までよこして、更に自分の正体を明かそうとしない。
これで僕らが来なかったら差出人はどうしたのだろう。
何が目的なのだろう。何故この場所なのだろう。
……何故、『僕ら』なのだろう。
そんな考えを巡らせながら刹葉は目の前のドアを右に引く。
部屋の電気に照らされて真ん中に一人の人が見える。大きなローブを着た……
「ああ、客か」
屈強な大男が。
「えー……と、こちらに呼び出されて来たんですけど……」
「おお!そういえば呼び出してたな。すまんすまん。最近忘れっぽくていかんのよ」
言って屈強な大男は見る見るうちに小さくなっていき、最終的に刹葉より一回り大きな身長の女性になった。
彼女はローブのフードを取って挨拶する。
「あたいの名前はゲンジ・ミナノ。趣味は占いで人の過去を覗き見ること。よろしくね」
「会って早々変態趣味全開な人ですね……」
ミナノと名乗った彼女はイスに座ると軽く目を閉じポケットからあるものを取り出す。
それは濃い青の手帳でミナノは中身を開いて二人に見せた。
そこには今まで見かけた人間の占い結果が記されていた。
誰かを狙って行ったものではなく、適当に選んで行ったもののようで、見た目の特徴と結果だけが書かれているものがほとんどになっている。
ただその中でも数人名前が書かれているものもある。
「あたいが占う理由は面白いヤツと会うためだ。今まで色んなヤツを占った。面白そうなヤツのことは色々と調べたしな」
興味持たれたら調べられるんだ。この人危ない。
「で、昨日あんたら二人を見かけた時、どっちかの過去を占ったわけよ。でも見えなかった。過去未来の占いはあたいの得意分野、過去が見えない人間なんていなかったわ」
ミナノは険しい表情でそう言う。
理由は解らないが彼女にとっては重要なことなのだろう。
しかし、彼女は一体何をそんなに気にしているのだろうか。
「あたしにも見られない過去があるなんてねぇ。興味がそそられるじゃないか。お前、一年の転校生、桐無刹葉と一年の篠月詩音だろ。なぁ、いいだろ」
そういうことか。合点がいった。
この人は自分が知ることができない初めての記憶がどんなものなのか知りたいのか。
でも、詩音の記憶ならまだしも僕の記憶なんて見てもなぁ……
「そんなわけであんたらエリクサーのアドレス教えてよ。別に今すぐに教えてもらおうなんて思ってないし。でも今教えてくれるって言うんならあたいはそれでも構わないよ!」
「いえ、僕は今度にしておきます……」
刹葉はちょっと引き気味に断る。
一方詩音は他のことに興味があるようだ。
「でも、占いってどんなこと占うんですか?」
女子らしい反応である。やはりそういうのには惹かれるのだろう。
ミナノも嬉しかったのか得意げになって今まで占ってきた結果やら解決してきた悩みやらを話し始めた。
話を聞くと過去には自分の占いの結果を捻じ曲げたこともあるらしい。
「未来を占う時に出てくるのは、一番可能性が高い未来なんだよ。可能性が高ければ高いほどそれははっきり見える」
「すごいですね!でも、そういうのって避けるのが難しかったりしませんか?」
「そうね。必ず起こることはないけど、ほぼ確実に起こる事象は難しいわ。解決法がひとつしかなかったりするから……。丁度これから来る子もそういう子なのよ。しかも、解決出来ないと死んでしまうわ」
そうミナノは簡単に言う。彼女は今確かに死んでしまうと言った。
しかし、そんな簡単に言ってしまえるということは、少し別の捉え方をするべきなのだろうか。
「って、今から来るんですか!?詩音、僕らそろそろ御暇しましょう!」
「いや待て。折角だ。解決に協力してくれ」
ミナノの言葉に一瞬二人は動きを止める。
この一瞬、動きを止めずに部屋を出ていたら何かが変わったのだろうか。
「失礼し……!?」
「……貴方は!?」
二人が目撃した人物。それは以外な人物だった。
予想などしても分からなかっただろう。
身近な人間にそんな宣告を受けている者がいるなど。