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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第一章:国立ベール学園
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其の二十一 それぞれの戦い方

向かってくる人ごみを掻き分けて彼らは進む。

巨大なゲートがある方向へ。

「ようやく見えてきやがった。目がいいって本当なんだな」

「信じてなかったのかよ。嘘なんかついちゃねえっつーの」

新鳳の小言にクライスは弁解しながら走り続ける。

走っていると視界の端に避難を促している人間が映る。

何人かは制服を着ている。ベール学園の生徒たちだろう。

やはりこの先にはゲートがある。

「……急ごう」

クライスたちは走り続けようやく辿り着いた。

そこはこの辺で最も広い公園だった。

公園の真ん中には巨大な黒い門が口を開いている。

その中からは化け物、化け物、化け物。

次々に出てくるそれらは瞬く間に増えていく。

「こんなに……!幾らなんでも多すぎる!Level0でもこんな数じゃCクラスでも捌ききれるとはとても思えない……。Bクラスでも何時間掛かるか……」

Level0、グレイドの中でも最弱の部類。

姿は人の形をとっており、色自体は様々。しかしその頭には何も付いていない。

カラフルなマネキンから人間らしい鼻や耳、口などのパーツを無くし、全身に角をつけたような姿だ。

普通の成人の人間でも倒せるほどで身体能力も成人のそれより若干高い程度だが、何しろ数が多い。

過去には一度に1000体以上ものLevel0が出現した記録も残っている。

知能は無いに等しく、産まれたばかりの赤子よりも劣るとされているが、どの器官で認識しているのか認識した人間を所構わず襲う習性がある。

そして大抵は2~3体が束になっているのだ。

多数の人間になら兎も角、一人の人間を喰らうだけの能力は十分にある。

一応Eクラスなら最低でもLevel0を2体同時に戦うだけの訓練は施されている。

ただそれは一般人に毛が生えた程度でしかない。

現在ここに存在するLevel0のグレイドは少なくとも100体以上はいるだろう。

そしてそれは今も尚増え続けている。

「う~ん。軽く見積もっても100体か……。まぁ、俺たちなら簡単だな」

「そうね。Level0だし。この位なら大して時間も掛からないでしょ」

シアと新鳳は軽くそんなことを言ってのける。

レクリナにもクライスにもその言葉を発することができる彼らが信じられなかった。

クライスもレクリナもEクラスでは弱い方ではない。

だが、それでもSクラスとはその口ぶりだけで格の違いを思い知らされる。

「よっしゃ!じゃあ勝負でもしねぇか?先にあのゲートを壊した方が勝ちってルールで」

「いいわね。負けた方は“異性の友達に一日メイド服で尽くす”でどう?」

新鳳はニヤリと笑う。

「決まりだな!」

言って新鳳の両手が黄色に光り始める。

その光の中から現れたのは小手だった。光を放ちながら新鳳の両手を包み込む。

「いいねぇ。ファイナスペリオはそこらへんのグローブなんかよりしっくりくるな」

新鳳はシャドウボクシングを始める。

拳を素早く突き出し戻す。エリクサーの身体能力強化に加わり武器自身の能力も合わさり、その一撃はとても人間のものとは思えないようなものになっていた。

シアの手元と周りにも紅い光が輝きだす。

手元にはその細い腕には似合わない大きなランチャー。そして彼女のすぐ後ろには二機の大きめの自立機動兵器が飛んでいた。

「やっぱり数には火力よね」

見ているだけでも凄まじい武器。

Eクラスの二人には想像もつかない武器だった。

武器は最初からそれぞれ自分自身が使い易いように性能が調整されている。

ただその中でも新鳳が使うような篭手こてはグローブタイプでも扱いが難しい。

魔力が通り易く攻撃力が高いため非常に優秀な武器ではあるが、他のグローブタイプとは違いリーチもあり威力も高い“魔拳”が使えないのだ。

“魔拳”とはその名の通り魔力を溜めて放つ技だが、篭手こては魔力の通りが良すぎる故に魔力を留めることができない。

一瞬で間合いを詰める機動力が無ければ上手く扱えない特殊な武器なのだ。

シアのランチャーも同様に上級者向けの武器であることは間違いない。

非常に高い火力と引き換えに多くの魔力を喰らう武器で、弾は単発式で一発放つごとに魔力で弾を補充する。

そのため弾を当てる技術や魔力の管理など難易度は非常に高い。

そんな武器を彼らは携えていた。

「いくぜっ!」

一歩。たった一歩の踏み込みで新鳳はグレイドの懐に飛び込んだ。

そして一撃。

その一撃でグレイドが吹き飛ぶ。

「まだまだ!」

目にも止まらない速さで新鳳はグレイドを打ち砕いていく。

たった一撃。彼にはそれだけで十分だった。

新鳳のエリクサーは“バーチャー”、すなわち“美徳”だ。

この武器はきっと彼の“正義”の体現なのだろう。

つまりは“正義の鉄拳”と言ったところか。

「笑わせてくれるじゃない!チマチマやるより一気に倒した方が早いに決まってるわ!」

シアはその手に持った大筒を構える。

しかしその中から弾は出なかった。

代わりに出たのは魔力で構成された粒子。

紅く光り輝く粒子だった。

シアはそのまま銃身を動かしグレイドを薙ぎ払う。

シアのランチャー、“フォートレスガンナー”は魔力で高濃度の粒子を生み出し、それを弾とする武器だ。

彼女のエリクサーである“ギルティ”。それは“大罪”の意である。

そしてフォートレスガンナーは彼女の“憤怒”の象徴。

紅い粒子で敵の細胞を吹き飛ばす様はまさに怒り狂う悪魔のようである。

「休ませてなんかやらないわ!サテライトビットで追撃よ!」

シアの命令に反応して二機の自立機動兵器は辺りのグレイドを蹴散らす。

その光もまた同じ紅い粒子だった。

“サテライトビット”。それは彼女の“怠惰”から生まれた武器だ。

自分が動かなくても命令ひとつで攻撃が可能なその武器はまさしくそういうものだろう。

そんな二つの武器が動けばLevel0のグレイドなど一瞬だった。

この数秒間だけで二人は合計で20以上のグレイドを倒してしまった。

グレイドは増え続けているがそんなことなど微塵も気にする様子は無く、むしろ二人の競い合いは加速していく。

クライスはグレイドをなんとか相手にしながら呟く。

「まさかここまでなんてな……。こんなの俺たちみたいな一般人から見りゃ……」

お前らの方が化け物じみてるよ……

そんな間にも新鳳とシアはグレイドを倒しながらゲートへ向かって行く。

距離で言えば新鳳の方がゲートに近いが彼が装備している武器では性質上シアの砲撃に間に合わない。

「道を探せ、道を……。“ローディス”!」

新鳳がそう唱えると彼は先ほどよりも速く動き始めた。

まるで最も速くゲートへ着く道が分かっているかのような動きで。

新鳳の能力の一つ、それが“ローディス”。彼の“希望”を視覚に投影する能力だ。

新鳳が危機を脱するための“希望”が色々なものになって見えるのだ。

今回の場合は“メイド服で友達に尽くさなければならなくなる”という危機に対してそれを回避するためにグレイドを掻い潜るゲートへの最速のルートを視覚に投影したのだ。

しかしそれでも、

「遅い!」

先にシアの砲撃がゲートに当たった。

そして新鳳が手の届く距離まで来た時、触れる直前でゲートは崩れて消え去った。

それと同時に辺りを囲んでいたグレイドも全て消えていく。

「……負けた」

新鳳は地面に跪く。

ああ、まさかこんな……

「さあ、約束は守ってもらうわよ。メイド服で誰に尽くすのかしら?」

「ううぅぅぅぅぅ~~~……」

他の事情を知らない誰かにこの恥辱を見られるくらいならいっそ……

「あ、私以外で選んでね」

「考えを読むなこん畜生ォ~~~~~!!」


----*----*----


「はぁっ!」

ランスリットの剣がグレイドを切り裂く。

グレイドは呻き声を上げながら身体を崩壊させていく。

その通りに砂が崩れるように消えていく。

おかしい。ベール学園の生徒が一人も来ないどころか、軍すら来ないなんて……

まさか……

ランスリットは悪い予感を感じながらグレイドを蹴散らしながら辺りを見回す。

どうやら彼の悪い予感は的中したらしい。ランスリットはその口元に苦笑を浮かべた。

「イノア……、気付いてるか?」

「はい……」

二人は既に気付いている。

ここが幻惑系の能力によって遮断されていることに。

しかも……

「かなり強力だ。少なくともLevel3、最悪Level4のグレイドでなければこんな芸当は難しい」

俺たちに見破られる程度だからそれ以上ではないのが救いだな。

それでも状況が不味いことには変わりは無い。

兎に角まずは目の前のゲートを破壊しなければならない。

「主!避難は完了した!」

「ありがとう!早速戦闘に加わって!」

グランゲイルは身体から魔力を出し分身を作り出す。

作り出された3体の分身はそれぞれ本体とは違った姿をしている。

あれって分身の意味が半分失われているような……

そこまで考えたがランスリットは思考を戻した。今はそんなことを考えている場合ではない。

「俺たちだけでやるしかないな」

ランスリットは右手に集中し藍色の光を剣の形に収束させる。

ここにあるゲートは魔方陣型。

ゲートには二種類存在する。実体型と魔方陣型だ。

前者は主に武器による物理で、後者は主に能力よる魔力干渉で破壊するのが一般的である。

しかしそれだけというわけでもない。

武器でも魔力を通して攻撃すれば魔力で干渉することが可能であり、能力でも武器ほどではないがゲートにダメージを与えることが可能なのだ。

それらは単なる効率の問題である。

「コバルトヴルッフ!」

ランスリットの右手の藍色の光が剣を形作る。

聖剣はその刃に光を纏い光速で回転させる。

コバルトヴルッフが纏っている魔力はゲートに大きなダメージを負わせるには十分な量だ。

「おい少年!我らを足場に使いやがれ!」

グランゲイルとその分身は戦闘を行いながらも歪な直線を描く。

「おう!」

ランスリットはグランゲイルが出現させた魔方陣や分身を足場にし、高く飛び上がる。

そしてコバルトヴルッフを下に向けながら落下を始める。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

ランスリットの聖剣がゲートを突き刺す。

彼は瞬時に武器を手から放し後ろに飛び退く。

「はああぁぁぁぁぁぁ!!」

ゲートに巨大な雷が直撃する。

放ったのはキリアスヘイムだった。

「目標の消滅を確認しました」

冷静にそれはそう言ってのける。

「危ねー。もうちょっとで俺に当たるトコだった。でも、ナイス判断!」

ランスリットはキリアスヘイムに微笑みながら親指を突き立てる。

キリアスヘイムはゆっくりと地面に降り立つとすっと消えていった。

辺りのグレイドはすっかり片付きいつもの風景が広がっていた。

「今回は結構大変だったな。数が多すぎた」

ランスリットはそう呟きながら思い切り伸びをする。

そんな彼を見て小さく笑いながらイノアは補足を加える。

「でも、ランスさんと一緒だったから何とかなりました。イノアはそう思うのです」

イノアの瞳は真っ直ぐランスリットを見つめていた。

ランスリットも少し笑いながら頬を人差し指で軽く掻く。

そこには二人の笑顔があった。

だから気付かなかったのだろう。

いや、考えもしなかったかもしれない。

ゲートを潜らず直接ここまで来ていたグレイドがいたなんて。

「……フヒ……」

「イノアッ!」

イノアの後ろには既にグレイドがいた。

声が出るよりも先にその凶刃はイノアに振り下ろされる。

「はぁっ!」

その刃が下ろされるより速くグレイドに蹴りが入った。

蹴りを放ったのは背の高い金髪の少年だった。

「シャイナ!」

「油断してんじゃねぇ!」

シャイナの怒号が響く。

グレイドは3体1では分が悪いと判断したらしくその場から姿を消した。

「イノア!大丈夫か!」

ランスリットはイノアに駆け寄る。

イノアは声を出さずに数回うなずく。

「アンタ、どこの誰か知らないがありがとな」

ランスリットはシャイナに礼の言葉を述べる。

シャイナはそんなランスリットをジロジロと睨み付ける。

「おい、イノア。まさかコイツか?」

「そうです。この方がイノアが探していた“王様”なのです」

いきなり変な紹介をされランスリットは一気に緊張感を失った。

しかしシャイナの行動は予想外なものだった。

シャイナは何も言わずにランスリットに殴りかかった。

「……」

ランスリットはそれを難なく受け止める。

ただ彼は完全に先ほどの戦闘の勘を取り戻していた。

「何のつもりだ?」

「こっちのセリフだ」

シャイナとランスリットは互いに睨み合う。

「今、目の前で一番の家臣が死にそうになったんだぞ!本来お前が護るべきものだろうが!目の前のものすら護れずに国を護れるか!!」

シャイナは目の前にいる茶髪の少年を睨みながら掴まれた手を払う。

「俺はお前を認めない。うちの“王”こそが真の王だ。断じてお前では無い」

言ってシャイナはその場から去って行った。

「……大丈夫ですよ!イノアがランスさんが“王”だって証明します!だから……」

ランスリットは俯いていた。

右手を強く握って歯を食いしばっていた……

「……だから、そんな悲しそうな顔しないで下さい」

ランスリットはゆっくりと顔を上げイノアの頭を撫でる。

その表情を変えることなく。


「あぁっ!クソッ!!」

シャイナは左手を壁に軽く叩き付けた。

俺らしくねぇな。他人に説教垂れるなんて。

魔力の反応を追って来てみりゃ避難してくる人はいるくせに街道に辿り着かねぇし、ようやく辿り着いたらイノアは襲われそうになってるし……

おまけにアイツにそっくりなヤツに説教なんてな。

あんなに似てるヤツが寄りによってイノアの“王”かよ。

「……似過ぎだろ、バカ野郎……」

シャイナはため息を吐きながらそう呟いた。

どうも柊城です。

まだまだやること沢山あって困ってます。

誰か……誰か手を貸して……くれ……

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