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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第一章:国立ベール学園
17/32

其の十六 欲求のままに

「!」

その驚きは当然だった。

「どうした?」

近くにいた一人がもう一人の異変に気が付く。

「馬鹿な……反応が消滅した……!?」

それを聞いた一人はその声に近寄る。

「何だと!?お前の能力で隠したはずだろう!一体何故だ!」

「分からん……人間の反応が少しあった……もしやとは思うが、我々の動きを既に察知しているのか?」

思い切り壁を叩く音が響いた。

壁は一瞬で崩れ、ただの瓦礫に成り下がる。

「俺たちに気付いたのか……!?いや、まさかな……まだ気付かれるほど動いてない」

「そうだとも……我々はここまで戦力を蓄えた。あとは時期の問題だ。今更Level3が一人やられたとて計画に支障は無い」

言って二人は早足に部屋を出て行った。


----*----*----


週末は過ぎ去り、今日は火曜日。

「はい、じゃあ皆歴史学のファイル開いて」

そう言われてEクラスの生徒たちはエリクサーから立体ホログラムの画面を引き出し、歴史学のファイル

画面にする。

歴史学はリアラ・クァールが教えている教科である。

その敏腕さを買われてこの学園に来たと言われており、歴史学におけるその知識は右に出る者はいない。

内容は主に世界中の主な歴史である。

もちろんその内容には第一次、第二次の『悪魔の終日デモンズ・ラグナロク』も含まれている。

「今日は人類の現在の語学について少し触れるからね」

リアラはそう言って教材のデータを各生徒のエリクサーに送信する。

それを受信した者の中にはウトウトと不安定に頭を揺らす者がいた。

「ちょっと、クライス!大丈夫?」

レクリナは小声でクライスに話しかける。

「ん?ああ、大丈夫だよ。ちょっと寝るのが遅かっただけ……」

クライスは目を半開きにしたまま答える。

昨晩何があったのかは分からないがどうやら夜更かししたようで、先ほどから数十秒ごとに欠伸を繰り返している。

彼が朝にあまり強くないのをレクリナは知っている。

「クライス、昨晩なにしてたの?」

予想だにしていなかった質問にクライスは視線をレクリナから逸らす。

「さぁな。眠くてそれどころじゃねぇよ」

またそうやってはぐらかす……

昔から変わんないなぁ……

クライスはウソをつくのが得意な部類の人間ではない。

特に長い付き合いの人間にはすぐに見破られてしまうのだ。

しかしそんなことで引き下がるレクリナではない。

「どうせ日曜日に先生に聞いた『魔眼』とか言う物のことでも調べてたんじゃないの?」

ニヤニヤしながら適当に言ってみる。

「……」

クライスはレクリナに視線を向ける。

その目は観念した時の眼差しだった。

え?当たったの?

レクリナは戻るに戻れないところまで足を突っ込んでしまった。

「あれは私たちに扱える代物じゃないわよ」

「ああ、確かに今の俺たちじゃ無理だ」

クライスはレクリナの意見に賛成の意図を示した。

思っていたのと違う答えが返ってきたのでレクリナは拍子抜けする。

「俺が知りたいのはそれじゃなくて、あのSランクのアレイブが知りたがってた理由だよ」

意外だった。

彼は、

「男に興味があるの?」

「違う!何でそうなる!?」

クライスは前で授業を行っているリアラを横目に見て話を再開する。

「アイツが知ったのには理由があるはずだろ。だって『魔眼』は世間一般には知られてないんだからさ。ってことは、アイツが魔眼を知った原因がある。この学園に『魔眼』の情報をもっている人間がいるんだよ。もしかしたら、魔眼の所有者がいるかも……」

「レーバル!話を聞いているのか!」

リアラの声がクライスの耳を貫く。

見るとリアラは前で眉にしわを寄せこちらをじっと見つめていた。

「今言ったところから問題を出すぞ」

リアラの声と共にクライスの立体ホログラムが強制的に閉じられる。

ネットワークが学園の物である為にできる所業だ。

「第一次の後、人類は幾つに、どう分かれた?」

「はい、人類はユーラシア大陸とアメリカ大陸の二つに分かれました」

クライスは一問目に難なく答える。

「良し。じゃあ、人類が第一次の後に一番に改善に取り組んだ問題は?」

「言語です。世界中の人間が集まった為互いに意思疎通が難しい境遇ができてしまい、新たな言語を作り定めることで事態の改善を図りました」

「その通りだ。と言っても簡単なことでは無く、長い年月が経ってようやく改善されたといえるな。もういいぞ」

言われてようやくクライスは肩の力を抜く。

レクリナは小さな声で、

「よく聞いてたわね」

するとクライスは、

「ああ、十人とまではいかなくても六人くらいなら話も同時に聞けるしな」

変な特技のお陰でその場を凌いだクライスは安堵のため息をついた。


----*----*----


「刹葉」

「はい?」

時刻は放課後に移り、ここはアリーナの入り口前。

刹葉はリサーナに頼まれた仕事をこなしている最中だった。

「一体どうしたんですか、ランス」

刹葉は首にかけたタオルで顔を拭きながらランスリットの表情を伺う。

「お前ともう一度闘いたいんだ」

「僕と、ですか?」

刹葉が考えもしなかったことをランスリットは言った。

刹葉はあれで終わったと思っていたが、ランスリットはそう思ってはいなかったのだ。

刹葉はランスリットに申し訳なさそうに、

「すいません。今ちょっとリサーナ先輩に仕事を依頼されてしまって、いつ終わるか分からないんですよ」

頬を指で掻きながら言った。

ランスリットは冷静な面持ちで、

「いや、別に今すぐじゃなくていいんだ。ただこの前はちゃんと終わらなかったからさ。ちゃんと決着をつけたいんだ」

「それは……」

刹葉はランスリットを真っ直ぐ見つめる。

ランスリットはその目を見て息を呑んだ。

彼の目はおよそ感情を感じ得ないものだったからだ。

「それはちゃんと学園のルールに則った模擬戦闘ですよね?」

「……」

ランスリットはその瞳に圧倒されて返事さえ忘れた。

彼には解らなかった。

刹葉のその表情の理由が。

その表情はまるで感情を諦めたように見えた。

「ランス?」

「ん、ああ、そうだ。命なんてもったいなくて落とせないしな」

刹葉の一言でランスリットは現実に引き戻された。

なにか、深い沼から引き摺り出されたような感覚をランスリットは味わっていた。

刹葉は笑っている。それはいつもの顔だった。

「ん~、でもアリーナで模擬戦闘をするにも色々ありますし、絶対って保障はできませんよ?」

「ああ、それでいいよ。俺はいつでもいいから時間決めてくれ」

刹葉は顎に手を添え唸る。

先ほどまでの雰囲気が嘘のようで、その姿は少し嬉しそうですらあった。

「じゃあ、土曜日にしましょう。時間は一時から空いていたはずです」

「よし、決定な」

ランスリットは笑って右の拳を左の手の平に納める。

刹葉はランスリットの様子を笑顔のまま見守る。

いつも通りの彼らだった。

そこにあるのは日常。彼らが笑っていられる日々だった。

彼らは化け物と戦わなければならないこと以外は普通の学生と何ら変わらないのだ。

「もしかしたら断られるんじゃないかと思ってドキドキしたよ」

「え!?断って良かったんですか!?」


ランスリットと再戦する約束を交わしてから三十分後。

「……終わった」

刹葉は倉庫の備品整理をようやく終わらせた。

生徒兼公務員の彼は他の生徒や教師からたまに手伝いなどを頼まれることがある。

その為休み時間などが削られることもあり、それなりに多忙な毎日を送っているのが彼の現状である。

「あとは報告して終わりか」

刹葉は額の汗をタオルで拭う。

柔らかい感触が刹葉の顔を包み込む。

「刹葉!」

後ろから聞き覚えのある声がする。

刹葉が後ろを振り返ると目の前からペットボトルが回りながら接近してくる。

「ふぐっ!」

ペットボトルは刹葉の顔面を直撃し、彼は盛大に倒れる。

投げた本人は呆然とその光景を眺めていた。

「あ、あれ?」

遠くから誰かが走って来る音が聞こえる。

「シア、別に走っていかなくても……ってわぁ!刹葉!?」

倉庫の中で倒れている刹葉を見て詩音は駆け寄り上半身を抱き起こす。

刹葉に意識はあるようで左手で額をさすっている。

「いてて……」

「シア、何をしたの?」

詩音はジト目でシアの方を見る。

シアは詩音から目を逸らし、

「い、いや、ペットボトルを軽く投げたら当たってしまいまして……ごめんなさい」

申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる。

詩音はため息をついてから、

「刹葉、大丈夫?」

詩音が刹葉を起こす。

「流石にちょっと痛かったですね。シアさん」

刹葉はジト目でシアの方を見つめる。

「ちょ、悪かったわよ」

シアは少し後ろに身じろいだ。

「じ~~~っ」

二人はシアをジト目でじぃ~っと見続ける。

「う、ううぅぅ……」

シアはどんどん縮こまっていく。

二人のジト目に精神的に追い込まれていく。

「うわ~ん!意地悪~!馬鹿~!」

シアは遂に泣きながら走り出した。

「あ、ちょ、すいませんでした!冗談ですから!」

「ちょっと待ってシア!悪かったから!」

突如立場が逆転した。

傍から見たら小さな幼女を学生二人が凝視している状態だ。

プレッシャーもかなり掛けたのでこれでは誰がどう見ても二人が悪役である。

友人とは言え少しやり過ぎたかもと思いながら二人はシアを追いかけていった。


----*----*----


放課後の廊下はとても静かだった。

そんな静かな廊下に人影が一つ。

その人影はゆっくりと職員室に向けて移動していた。

「……」

アレイブは足を止めた。

やっぱり気になる……

あと二つの“魔眼”は一体何なんだろう……

まあ、一つは刹葉とシオンの“双対眼セイ・クウィル”だろうけど。

彼の今の行動の原動力は探究心に似た欲求だった。

きっともっと知れば何かの役に立つはずだ。

そしてもしその力が手に入れば僕は……

再び歩き出した。

その為にも緋宮先生の連絡先を手に入れなきゃ。

ルーチェ先生なら教えてくれるだろう。

アレイブはその手で職員室のドアを開ける。

「失礼します」

「あら、ジークス君?」

偶然にもちょうどルリエが目の前を通ったところだった。

「どうしたの?先生にYO?」

「慣れてもないラップ口調は止めてください。緋宮先生のことです」

アレイブは真剣な顔を崩さない。

絡むと面倒なので用件を簡潔に伝えることにした。

「緋宮先生に聞きたいことがあるんです。連絡先を教えてくださいませんか?」

ルリエは予想外の言葉を発した少年を見る。

「まあ、いいけど……。じゃあ、ついてきて」

そう言うとルリエは職員室の左に位置する生徒指導室に入っていった。

「?」

アレイブは疑問を持ったままその後に続く。

「緋宮君の連絡先だったわね。これよ」

そう言ってすっと渡したのは一枚のメモだった。

そこには確かに連絡先らしき文字の羅列が書かれていた。

しかし、

「先生、どうしてここに入ったんですか?」

アレイブは今生徒指導室に入ったことを後悔していた。

「ん、ちょっとね~……」

ニヤニヤしながらルリエが接近してくる。

「お、大声出しますよ」

「大丈夫、防音だから~」

マズイことになった……

これじゃルリエ先生の罠に完全にはまってしまっている!

アレイブは壁にもたれかかる。

もう後ろがない!

ルリエはアレイブに向かってニヤニヤしながら進んでくる。

こええぇぇぇ!この人超こえぇぇーーー!

「……なんて冗談よ」

「へ?」

ルリエはアレイブから距離を取る。

アレイブはその場に座り込んでしまった。

「緋宮君は研究所の看板背負ってるから万が一のことも考えなくちゃいけなかったの。その連絡先もダミーよ。本物はこっち」

そう言うとルリエは右のポケットから違うメモを取り出してアレイブに渡した。

「あ、でもその気になったらいつでも来てね」

「絶対に来ません」


「怖かった~」

職員室を出たアレイブは早速連絡先に掛けようとする。

「……」

別に今じゃなくてもいいか。

アレイブはそのメモを左のポケットに仕舞い込んだ。

ようやく更新日通りに更新!

間に合って良かった~!

柊城は今日も好調です!


ってことで今回はちょっと日常に近い感じになりました。

それでも物語は進んでいるので気長にお願いします。

感想などもお待ちしています。

ではまた次回でお会いしましょう。

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