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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第一章:国立ベール学園
14/32

其の十三 そして重なる

刹葉とブレッドが学園長室で交渉していた頃。

そこは一学年の寮の前にある広場。

広場の真ん中にある時計は十時ちょうどを指し示した。

「……そろそろ時間か」

ランスリットはその大きな時計の下に立っていた。

もちろん、ただ立っているのではない。人を待っているのだ。

「約束の十分前にいるとはな。我は絶対に遅れて来るタイプだと思っておった」

「そりゃどうも」

小柄な背丈、ヘッドフォンを体につけた猫の絵が描かれた白いパーカー、横に黒いラインが入った短パン。

現れたのはグランゲイルだった。

「俺は約束の時間以上に人を待たせるのは好きじゃないんだ」

ランスリットは頭を軽く掻きながら呟く。

その言葉にグランゲイルは、

「へぇ~、なかなかにいい心構えではありませんか。それなら我の主の多少の粗相も許してくれるんだろうな」

「別にそれくらいどうってことねぇよ」

彼は上を見上げる。

「今日はいい天気だな」

「嵐の前の静けさでなければ良いがな」

「ふ、不吉なこと言うなよ……」

グランゲイルは不敵に笑っている。

冗談に聞こえねぇ……

ランスリットはその発言に苦笑いすら作れなかった。

「すいませ~ん!」

寮の方から一人の栗色の綺麗な髪を持った少女が走ってくる。

「走らなくていいぞ!」

ランスリットはそう言ったが、彼女はそのスピードを緩めることなくランスリットの元へ来た。

「申し訳ありません!“王”をお待たせするなど……、はぁ……はぁ……」

少女は息を切らせて下を向いている。

「いいよそんなこと。人を待つのには慣れてるし」

「しかし……、はぁ……はぁ……」

「いいって。ゆっくり息整えてさ。完全にスタミナ切れてるし」

イノアは深呼吸をして息を整える。息を吸い、吸っては吐きを繰り返す。

その様子をランスリットはじっと眺めていた。

「お待たせしました」

「待ってないって。じゃあ、行こうか」

二人は寮の外へと足を伸ばしていった。

あれ?何か忘れているような……

ランスリットはそんなことを考えながら寮の門をくぐった。


----*----*----


「おい、いつまで俺を連れ回すつもりだ?」

茶髪でオールバックの髪をした少年はあまり見ない若干白みがかった桃色の髪の少女にそう聞く。

「いいじゃない。たまには」

まあ、嬉しそうだからいいけどさ。

少年は荷物を持ちながらそう考えていた。

「やっぱりいいわね都会は。都会育ちにはやっぱり都会が合ってるのよ」

「あれ?お前辺境育ちじゃなかったっけ?」

少年がそう口走った途端に彼女は少年の口を右手の人差し指で制した。

「それは言わないの」

少年が黙ったのを確認すると少女は手を彼の口元から離した。そして一度微笑むとまた前を向いて歩き出した。

少年は少し呆れたような表情でため息をついた。

「どうしたの?まさか、アナタともあろう者がもう疲れたなんて言わないよね?」

少女は振り向いて薄紫色をした柔らかいショートの髪を揺らしながら少年に言う。

「まさか。そっちこそ、“女王クイーン”なんだからもっと笑顔を見せてくれなきゃ俺が困るよ。俺はお前の、アリーネ・レイネルの可愛い笑顔が見たいんだからさ」

少年は恥ずかしがる様子も無く満面の笑みを浮かべて言った。

「~~~っ!!!」

その一方でアリーネと呼ばれた少女はそのセリフを聞いた瞬間、顔を一瞬で真っ赤にした。

「ば、ばば、バカじゃないの!?そんなこと言われたって嬉しくないわよ!アンタなんてただの婚約者なんだからね!勘違いしないで!」

「出たな!天然ツンデレ女王!今日という今日こそはデレさせてやるぜ!」

少年は彼女に向かって声を出す。ノリノリである。

「うるさい!もう行くわよ!」

アリーネは顔を真っ赤に染めたまま速度を上げて歩き出した。

「おい、七星の商店街は逆だぞ」

少年がそう言うとアリーネはピタリと止まりそのまま180度反転して再び歩き出した。少年はその後ろを追う。

「ちょっと待てって。そこ、左だぞ!」

「わかってるわよ!」

本当にわかってんのかな……

少年は少し心配になりながらアリーネについて行った。


「ここがアーケード!?」

アリーネは瞳を輝かせながらその風景を見つめる。

「アーケードって俺たちがいたタガカリアには無かったもんな」

アーケードの北口。彼らの瞳には多数の店が軒を連ねるこの情景がとても新鮮なものに映っていた。

それぞれが違うものを売り、目を配ればそこには笑いが溢れていた。

「いいわね。こういうのって」

「だな」

二人は笑顔を見合わせる。

「さあ!来たからには全部のお店を見て回るわよ!」

「はぁ!?全部!!?」

「さっさと行くわよ!」

アリーネは少年の腕を掴んで歩き出した。

まあいいか。たまにはこういうのも。

少年はそのままアリーネに連れられて行った。


その後、お約束通り荷物持ちにされたのだった。


----*----*----


ベール学園からそう遠くない場所に位置するアーケード。

「こんなところで何するんだ?」

ランスリットはポケットに手を突っ込む。

イノアとランスリットはアーケードの南口にいた。

「ちょっとお買い物を。寮の管理人さんにも頼まれてる物があって……」

「寮長?前の人が辞めてから新しい人入ったの?」

そのセリフにイノアは驚く。

「知らなかったのですか?」

「ああ、全く。前の管理人が辞めたのだって知らなかったんだぜ」

「新しい寮長さんのことは掲示板に貼ってあったのですが見てないのですか?」

「見てないな」

ランスリットの言葉を聞いたイノアから苦笑いが漏れる。

「とにかく、イノアはお買い物を頼まれたので、それとイノアが欲しいものを見に行きましょう」

「寮長も自分で行きゃあいいのに」

「今日は学園長先生が帰ってくるらしいのです。話があるとか何とかで……」

「へぇ。大人って忙しいのな」

ランスリットは欠伸を掻きながら呟いた。イノアは言葉の意味が解らず疑問符を浮かべる。

「15歳って大人と言えば大人なのでしょうか」

「急になんだよ。15歳はまだ大人じゃないだろ」

「じゃあ、寮長さんは大人ではないのですね」

「意味が分からんのだが」

ランスリットはそう言いながらイノアの方に顔を向ける。イノアもランスリットに顔を向け、

「管理人さんは桐無さんですよ」

ランスリットの目を見てはっきりとそう言った。

「……あぁ~。刹葉か……。-----……ってウソォーーー!」

「本当なのです」

イノアは少し呆れた表情をした。

この人は本当に“王”になる人なのかと疑いたくなるような。

しかしそれでも彼女は疑わない。

いや、疑いようがないのだ。

彼女には時間がいつまであるのか分からない。ただ、近くなくなることは確実だった。彼女を救うことができるのはグランゲイルと共に見つけた“王”だけなのだ。

そして見つけた。

彼女にはランスリットこそが“希望”そのものなのだ。

決められた運命さえ捻じ曲げる。そんな存在。

ようやく見つけ出したそんな存在をどうして彼女は疑うことができようか。

だから彼女は疑いたくなるような眼前の光景の中の人物を、ランスリットを絶対に疑わない。疑わないでいられる確証がある。

「本当にランスさんは可笑しな人ですね」

言ってイノアは微笑む。

屈託のない笑顔。亜麻色の髪がそれに合わせて静かに揺れる。

「……」

ランスリットはイノアを見つめたまま黙り込む。

「ど、どうしたのです?」

イノアは突然黙ったランスリットに視線を向ける。

「いや……ただ……」

「ただ、何なのです?」

ランスリットは真っ直ぐにイノアを見つめ、

「ただ……笑った顔が可愛いなと思っただけだ。大したことじゃない」

ランスリットは真顔でその言葉を口にした。

「----……っ!!」

もちろん言われたイノアが落ち着いていられるわけもなく、顔を真っ赤に染め上げ、

「ふ、ふあぁぁぁぁっ!!あ、あのですねっ!!にゃ、にゃにをいきにゃり!!」

「どうした!?イノア!?」

イノアは一瞬で頭がオーバーヒートしたような、極めて稀に見る慌て方をしていた。

「わわわわわわわ!ふぉD¥%#ナ紋KW&*Qら!!」

「大丈夫かイノア!共用語失ってるぞ!」

「大丈夫じゃないのです!!!」

イノアは半分勢いでそう言った。

「深呼吸しろ!ほら、はやく!」

ランスリットが言うとイノアは正直に深呼吸を始める。

「……」

「……」

「……はぁ~」

「落ち着いたか?」

ランスリットはイノアの頭に手を乗せた。

するとイノアは頬を膨らませた。

「どうした?」

「何でもないのです。それよりも早く用事を済ませましょう」

イノアは早足で先に歩いていく。

「待てよ!怒ってるのか?」

「怒ってなどいないのです!」

「だから待てってば!」


この後ランスリットはイノアに前が見えなくなるほど荷物を持たされた。


「……何でだ」

ランスリットは小さくそう呟いた。


----*----*----


「結構買っちゃったわね」

「いや、買いすぎだ。アリーネ」

茶髪の少年とアリーネはアーケードの真ん中辺りにいた。

先ほどと変化した事と言えば少年の両手には前が見えないほどの大量の荷物が持たされているということだ。

「お陰で前が見えないぞ。ちゃんと代わりに見て知らせてくれよ」

「理解しているわ」

アリーネは少年の左側からそう返事をする。

「なあイノア~。まだ買うのか~?」

「あとは最後に管理人さんからのお使いの品が一つで終わりなのです」

イノアはランスリットに左側から言った。

「全然前が見えないし……」

「ランスさんが悪いのですよ!」

「だから意味が解らないって」

ランスリットは両手で何とか荷物のバランスを取っている。歩くのもやっとのようだ。

「あ、右の方にアナタみたいにたくさん荷物持ってる人いる。荷物に隠れてるけど女の子と一緒みたいね」

アリーネが少年に話しかける。しかし、少年はバランスを取るので必死だ。

「お、そうか」

そんなおざなりな言葉を返す。

「何よその返事」

アリーネが少年の頬を軽く引っ張る。

「悪かったよ。バランス崩れそうだからやめて下さい!」

「ダメなのです!これは罰なのですよ!」

イノアはランスリットの服の裾を掴んで離さない。

「あんま引くと本当に崩れるから!」

ランスリットがそこまで言ってようやく裾を離した。

「……本当に驚いたのですよ……」

「え、何て?」

「何でもないのです!」

言ってイノアは周りを見渡す。するとある光景がイノアの目に飛び込んできた。

「ランスさん、ほら、向こうにもイノアたち同じような人たちがいますよ」

「いや見えないからさ。荷物が多すぎて」

イノアとランスリットは対向線上に歩いていくその二人を通り過ぎる。

「?」

少年は何か違和感を覚えた。だが止まるわけにはいかなかった。普通に止まっただけでも崩れそうなバランスだった。

「……?」

ランスリットもまた違和感を感じていた。彼は振り返って違和感を確認したい衝動に駆られた。

本来ならそうしたであろうが、今振り返ればバランスが崩れ大量の荷物がイノアを襲うかも知れない。

ランスリットは衝動を抑えそのまま前進を続けた。

「誰か来るのですが?」

イノアは目の前に確認した存在をランスリットに伝える。

「誰だ?」

新鳳シンフォン君なのです」

「ランスゥゥゥゥゥ!」

新鳳は声を荒らげながらものすごい勢いで向かって来た。

何だ!?

ランスリットは新鳳の怒りの原因を考えた。


俺は今朝、寝巻きのジャージのまま寮の一階を徘徊していた。

「ランス。引越しの荷物が届いたんだ。片付け手伝ってくれないか?」

「ああ、いいぞ」

「じゃあ、部屋の鍵渡しとくから開けておいてくれ。俺は業者から荷物預かってくるから」

「分かった」

それから俺はポケットに鍵を入れて、それから、

「ここにいたか、小僧」

「グランゲイル?どうした?」

「小僧に頼みがあるのだ。十時に広場の時計の下に来てくれませんか?」

「十時か……。分かった、行くよ」

で、それから……

「行く前に新鳳の部屋開けて置手紙でもしていかなきゃな。はやく着替えようっと」


「……!」

鍵開けて置手紙するの忘れてた!!!

「ランスゥゥゥゥゥ!!」

「すいませんでしたァァァァァ!!」


----*----*----


「ほら、まだ見たいお店あるんだから!」

「まだ行くのか……」

アリーネのセリフに少年は顔をしかめる。そんな顔も彼女からは見えないのだが。

「アリーネ!またお前はコイツに荷物を持たせてたのか!」

そこに立っていたのは金髪で背の高い少年だった。

「あら、シャイナ。用件は済んだの?」

「ああ、まあな。つーかこっちが死ぬ思いしてたってのにお前らはのんきに買い物かよ」

「シャイナ、そこにいるのか?」

呆れているシャイナに少年が荷物越しに声を掛ける。

「お前は大変だったみたいだな」

「理解したなら半分持ってくれ」

シャイナはため息を一つついて荷物を半分に分け、それを自分の両手で抱えた。

「ったく、“女王”の言いなりか?つくづくお前はバカだな」

「本当にな。たまに本当に自分はバカだなぁと思うことがあるんだ」

ほとんど自覚無しか。やっぱりバカだな。

「お前も“王”としての自覚を持ちやがれ」

「そんなものちゃんと持ってるさ。だからここに来たんだ。決着をつけに」

少年は少し微笑む。

「さあ、もうすぐだ。ようやく決着するんだ」

シャイナはもう一つため息をついた。

やっぱりアイツは超えたいんだな。

「前言撤回だ。お前はちゃんと自覚してるよ。自分が“魔王”ソードレット・L・ハイントだってな」

遅れてしまい申し訳ないです。

忙しさにかまけて進めてませんでした。

遅くなりましたがよろしくお願いします。

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