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オーバーリミット  作者: 柊木隼人
第一章:国立ベール学園
11/32

其の十 判断する者される者

12時40分

第二アリーナ。

「そろそろ終わりにしましょうか」

刹葉はその手に持った武器を下ろす。その武器は黒い光を放って消失した。

それに合わせるようにクライスも自分の銃を下ろす。手元が青く光り、持っていた銃が消える。

「もう時間か。意外と早かったな」

クライスは背伸びしながら言った。右手を広げ、手の平の接続部からエリクサーを取り出すと欠伸をしながら歩き出した。

「向こうも終わったみたいだな」

クライスは手でエリクサーを弄りながら彼女たちに近づいてく。

「そっちも終わり?」

レクリナは水が入ったペットボトルを持ち上げ、口に運ぶ。

クライスはその問いにうなずきながら、

「ああ、今ちょうど、な」

「そっか……午後はどうしよう?」

レクリナのマイペースな呟きを聞いてクライスはいつも通りの彼女であることを確認するように首を小さく縦に振る。

「いつも通りのお前だな……」

「何か分かんないけど馬鹿にされてる気がするんですけど……」

レクリナはペットボトルのキャップを締めながらクライスの言動に対して小言を放った。

「ところでレーバルさん……」

「クライスでいいよ。どうも姓で呼ばれるのは好かないんでね」

「じゃあ、クライス。先ほど僕が能力を使おうとした時、攻撃することで止めようとしましたね。君はかなり勘が鋭いようですが、その勘はどこで?」

その質問にクライスは少し困った表情を浮かべて、

「まあ、どこで養ったかと言われればカードゲームかな。家では父親とよくトランプをしてたからな。勝負師の勘だ」

「そうですか」

でも、建物の陰に隠れていた僕の指の動きを把握して撃ってくるなんて……

「君って実は戦闘慣れしてたりします?」

「まさか。だとしたら脳内だけだよ。そういうマンガとかよく読むからな」

「刹葉、そろそろ行こう」

詩音は出口に向かって歩き始める。刹葉もそれに付いて行く。

「昼はどうしようか」

クライスもそう小さく呟きながら歩き出した。


----*----*----


「あの、第一アリーナって空いてますか?」

ランスリットはアリーナの受付にいた。

「ええ、空いてるわ。先ほどひとりの女の子が入って行ったわね。貴方によろしくって言ってたわ」

リサーナはランスリットの問いに丁寧に答える。

「あれ?ランス、どうしたんですか?」

「刹葉!お前らこそ、アリーナで特訓か?」

第二アリーナから出てきた刹葉たちに声をかけられランスリットは彼らの方を向いた。

「僕たちはこちらの方々の特訓のお手伝いです」

「どうも」

刹葉の後ろから知らない顔の二人が覗き込む。

「ふぅん。お前も大変だな」

「そういうランスこそ、土曜日にわざわざ学校に何の用です?」

刹葉の質問にランスリットは少し気まずそうに、

「ああ、その、なんだ、ちょっと、な。今はそれが終わってちょっとアリーナに誘われたもんで……」

「そうですか」

質問の答えに刹葉は少々素っ気なく反応を返す。

「じゃあ、見学させてもらいます」

「は?別に構わねぇけど……」

刹葉は受付のリサーナに、

「見学をお願いします」

「いいけど、何人?」

リサーナがそう問うと刹葉は周りを見渡した。

「詩音はどうしますか?一緒にいなくてもいいですが……」

詩音は頭の中で考えを巡らせる。

午後は特に用事も無いし、刹葉といられるなら……

「……いいよ。私も一緒に入る。なかなか見られるものでもないし」

「四人でお願いします」

「はいはい、四人ね。アリーナの入り口から入って右手の階段を上ったら観客席に行けるから」

五人はリサーナの案内を聞き、アリーナに入っていった。


----*----*----


アリーナに入ると中は高層ビルが立ち並んでいた。

「なるほど。≪大都市≫ステージか」

ランスリットは街並みを把握しながら少しずつ進む。

街路樹、信号機、横断歩道やコンビニエンスストアまでリアルに構築されている。

ここまでリアルでありながらも設定ひとつで外見をガラリと変える。エリクサーの魔力による完全な構築は原理は分かっていても圧巻である。

「ランスリット様!」

向こうからひとりの少女が近づいてくる。

「イノア・マーリル」

「イノアでいいです。ランスリット様」

ランスリットはイノアの言葉に苦笑いを返す。

「……はは、じゃあ、俺のことも『ランスリット様』じゃなくて『ランス』って呼んでよ。その呼び方恥ずかしいからさ」

イノアはかなり困った様子で、

「い、いえ、しかし……」

「頼むよ。ほら、この通り」

ランスリットは両手を合わせ、頭を下げた。

「そんな!ランスさんはイノアの『王様』ですから、頭を上げてくださいなのです!」

ランスリットはイノアの今のセリフを聞いて笑った。

「お、早速言ってくれたね」

「『王様』の頼みですから……」

するとランスリットは先ほどまでの笑みを消しイノアに向かって、

「……なあ、イノア?その『王様』ってのは……やっぱ俺なのか?」

「はい!もちろんなのです!」

やっぱ聞き間違いってことにはなんねぇか……

「その『王様』ってなんだ?」

そうイノアに問いかけると、イノアは目を輝かせ、

「『王様』は『王』なのです!」

……ああ、やっぱりな……

「……あのさ。やっぱり俺、多分イノアが言う『王様』じゃないわ」

「……?」

イノアは頭を斜めに傾ける。そして自分のエリクサーから一つの画像を取り出した。

そこには容姿が似ている二人の少年が写っていた。茶色の髪の双子だった。ひとりはツンツン頭、もう一人は後ろになびいたような髪型だった。

「イノアにこのエリクサーをくれた人は言ったのです!この二人のどちらか最初に会った方が『王』になるのです!」

イノアは自分のエリクサーを握り締めた。

「……じゃあ、そのもう一人にイノア、お前は会っているはずだ……俺のはずがないからな……」

ランスリットは軽くイノアの頭に手を置いた。

「俺は≪切り札ジョーカー≫なんだ……お前が言う『王』ってのは多分、俺の弟だよ」

ランスリットの表情は少し暗いものになっていた。

「それはイノアが判断することなのです」

「は?」

イノアは右手の親指にある接続部にエリクサーを差し込んだ。

「イノアはランスさんが『王』であるかを確かめる為に、ここに呼び出したのです」

ランスリットもイノアが攻撃態勢に入ったのを確認し身構える。

「我が力は≪エース≫、我の召喚に応えるならば門を叩け!」

イノアが詠唱する。するとイノアの頭上に巨大な魔方陣が現れ、得体の知れない生物が姿を現した。

「グガアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!」

その姿はおよそ悪魔を具現化したような、それでいて何故か理性を感じる風貌だった。

そこに現れたモノはギロリと目を動かしランスリットを見る。

「グランゲイル!命令なのです!攻撃を加えるのです!」

グランゲイルと呼ばれたそれはイノアの言葉に軽くうなずくとランスリットの方を向いた。

ランスさんが本当に『王』であるなら、見えているはず……見えているなら攻撃を避けるはずなのです……

グランゲイルは右手をランスリットにかざした。

「……第三の剣……」

ランスリットがそう小さく呟いた時、彼の周りに大きな爆発が発生した。


「おい!あれまずいんじゃないか!?」

クライスが席を立ち上がる。彼らはアリーナの中にある高層ビルに見立てられた観客席にいた。

「何もまずいことはありませんよ。ランスは強いですから」

刹葉は涼しい顔をして座っている。

「だってあのAクラス、何もしてないのにあの巨大な爆発を起こしたんだぞ!?さっきの魔方陣だって大きいだけで何も出てこなかったし、≪エース≫って何だよ!?」

クライスはひとりで慌てている。上級者同士の戦いで驚いているのか……それとも興奮しているのか……

しかし刹葉は今のクライスの発言に疑問を持った。

「クライス……ここから彼らの会話が聞こえたんですか?」

ここは安全性を考慮された観客席である。戦闘が直接見えるとはいえ、魔力で精製されたガラスで小さな声など聞こえないはずなのだ。

「ん?聞こえないけど?」

「では何故会話の内容が分かったんですか?」

クライスは刹葉の質問にまるで知らないことを珍しがるような顔をしながら答えた。

「え?いや、読唇術だけど……?」

その言葉にレクリナはため息をついた。

クライスってこういう時があるからたまに何者なのか疑わしくなるのよね……

「ここから唇が見えたんですか!?」

刹葉は驚きを隠せない様子だった。

「ああ、俺視力3.7だからさ。ここからなら唇読めんだよ」

話に聞いただけじゃただの一般人のはずなのに……

「なんだ!?アイツ、さっきの爆発を剣で消しやがった!?」

刹葉がランスリットに視線を戻すと、そこには右手に剣を一つだけ持ったまま佇んでいた。


「危ねぇな!隣に観客席になってるビルがあんだぞ!」

ランスリットは右側にあるビルを指差しながら大声を発する。

「大丈夫だ。観客席は他のビルとは比べ物にならないほどの魔力で覆われている。これなら核爆発ほどの威力が無ければ破壊は困難を極めるだろう」

グランゲイルは腕を組みながらそう言った。

「……」

「どうした?小僧?」

「……」

……しゃべってる……

「召喚獣がしゃべってるーーー!」

ランスリットはグランゲイルに向かって叫んだ。

「何も問題ないだろうが。召喚獣がしゃべってはいけない決まりでもあるのか?」

グランゲイルは何故か余裕の表情を浮かべている。

「そんなことよりそんな剣一本でいいのか?我の分身は手強いぞ?」

「……いや」

ランスリットは左手を突き出し、手の平を下に向けた。手の平があい色に光り一本の剣が現れた。

「小僧、二刀流とやらか?」

グランゲイルは不敵な笑みを浮かべる。

ランスリットはそんな敵を気にすることなく意識を集中させる。彼の腰の周りが同じく藍色に光り六つの自立機動兵器が付いたベルトを出現させた。

「お前の実力を俺は知らない。ならとりあえず慣れた武装で戦う。これは俺の持論だ」

ランスリットは自立機動兵器を機動させた。

「すごいのです……八本の剣を同時に動かして……」

こんなのに慣れているのですか……

「ほう、初めて見る剣技だ」

グランゲイルは感嘆の声を漏らす。

「当たり前だ!初めてじゃなくちゃ困る!俺が編み出したんだからな!」

ランスリットは二本の剣を前に突き出し交差させる。

「俺の剣を複数使った変則剣術へんそくけんじゅつ。初見の、しかも召喚獣に見破られたとあっちゃ、一年最強の名がすたるんでね」

「じゃあ、我に見破られることなく我の分身を倒せると?」

グランゲイルは手の平をランスリットに向け、大きな電撃を発生させる。

ランスリットは右手に持った剣でその電撃を斬った。

電撃は一瞬で、それも跡形も無く消えた。

「なるほど……その剣は魔力で発生した現象を元の魔力に戻すのだな」

「げ、ゼインリベルラの能力もうバレた」

ランスリットは体を少し前に倒しながらグランゲイルに向かって走り出した。

「アシルレイトは見ての通り自立機動兵器ってだけだし、ファーストは軽いだけだけど……よっと」

ランスリットはアシルレイトの一つに飛び乗り足場にして更に高く飛び上がった。

場所はグランゲイルの真上。

「これでどうだ!」

ランスリットはゼインリベルラを振り下ろしながら重力に身を任せ落下していく。

馬鹿な小僧だ……空中では身動きができない。ならば避けるのは容易い。

そう考えたグランゲイルは後ろに下がろうとした。

すると、背中の方からスバッという鋭い音がした。

グランゲイルは危険を感じ視線をランスリットから自分の周りに移す。

「……!」

グランゲイルの周りではアシルレイトが内側に刃を向けて高速で回っていた。

まずい!間に合わない!

「うおおお!」

ランスリットの一閃が走る。

しかしグランゲイルの方が一瞬速く、アシルレイトをジャンプすることで回避し後ろに飛び退いていた。

「少し甘かったな、小僧」

「そうか?甘いのはそっちじゃね?」

ランスリットはそう言って口元を軽く緩めた。

「……なるほどな。ここまでとは……」

グランゲイルを一機のアシルレイトが貫いた。ランスリットの周りには回転が止まったアシルレイトが四機存在していた。

しかしまだ戦える……四肢を切断されたわけでは無い……

グランゲイルはアシルレイトが刺さったまま着地の体勢に入った。

そこでようやくグランゲイルは疑問を抱いた。

我に刺さっているので一機、小僧の周りにあるので四機、さっき小僧が足場にした一機はどこに消えた?

グランゲイルが地面に迫る。その目にはとんでもない速度で、しかも下半身を全く動かさずに突進してくるランスリットが映った。

「うおらぁ!」

グランゲイルは真っ二つに両断された。上半身と下半身がそれぞれ地面に放り投げられる。

「だから甘いって言ったんだよ」

ランスリットは乗っていたアシルレイトから降りた。両手の剣とアシルレイトが藍色に光り消失する。

「これでいいか?イノア……もう十分だろう?」

ランスリットはイノアに歩み寄る。

「まだ終わってないぞ、小僧」

グランゲイルは上半身だけで襲い掛かってきた。

「だろうね」

グランゲイルの体はランスリットの剣によって再び貫かれた。その剣は黒い影から伸びていた。

「お約束過ぎるんだよ」

ランスリットがそう言い放った時にはグランゲイルはすでに彼の視界から消えていた。

イノアは満面の笑みを浮かべている。

「なんか笑ってるけど、俺は証明したよな?俺が、この力が『王』じゃないって」

イノアは嬉しそうに答えた。

「いえ、確信したのです!イノアの『王様』はランスさんで間違いないのです!」

ランスリットの表情が凍りつく。

「ランスさん、あなたは≪王≫なのです」

其の十、いかがでしたでしょうか。

すごい展開になってまいりました。

自分でも驚きです(笑)

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