11:15発のバス
雨の中、海に行って駄菓子を食べるお話です。
雨に降られているこの街の中で、この箱だけが私の望む未来へと運んでくれるのではないか。
--そう、思った。
「ねぇ、今日はどこ行こう?」
朝の支度をしながら、
問いかける私に彼は
「海だね。」
柔らかな笑顔で答えた。
十一時十五分発の海の方向のバスに乗り込み、二人横並びで話す。
「今度の休み、私バイトの面接受けに行こうと思ってて。」
なんでもない顔を作り、そう言った。
すると彼は私の手を取り、
「いいじゃん、上手くいくといいね。」
優しく返してくれた。
嬉しくなって、彼の腕にくっつきクーラーの風で冷えた肌の表面が、融解していくのを味わう。
私たちが出会ったのは一年前。
今日向かうビーチと同じ場所だ。
彼はふわふわの茶髪を潮風になびかせ砂浜に転がっていた。
「ねぇ、何してるの?」
仕事を辞め、宙ぶらりんになった私が向かった海で自由そうに寝転がる彼を見て、声をかけずにはいられなかった。
「海の声を聞いてる。なんつって。ちょっとかっこいいでしょ。」
「なにそれ。」
「何となくでいいんだよ。こういうのは、なんとなーく気持ちいいような、気がするから。」
そう言った彼の言葉を信じてみたくなり、私も彼の横に転がった。
夏の太陽は眩しく、目を瞑っても星のように瞬いていた。
バスのドアが開き、思わず顔をしかめてしまった。
けれどまあいいか。とも思い、
「着いたー!!、良い雨だねぇ」
苦し紛れにそう言うと、
「ははっ、これはさすがに良くないよ。」
そう言い私の頭を掴んで、屋根のある駄菓子屋さんまでそのまま引っ張られていった。
「わー懐かしい......。うまい棒って今は十円じゃあ買えないんだねぇ......。」
物価の上昇に嘆いていると、
「まあ俺は大人なので、欲しいものぜーんぶ買っちゃう。」
変なキメ顔と内股のポーズで富豪を気取っている。
「石油王さん!私のも買ってください!」
内股の富豪に手を重ね祈りを捧げる。
「はっはー。いいだろういいだろう。好きなものを選びなさい。」
「わーい!」
帰りのバスを待っている間、バス停で駄菓子を何種類も食べた。
これが大人の特権......。ムフフ
バスは、二人で仮面ライダーごっこをしている時に到着した。
「あー、涼しい......。」
バスのクーラーは気軽に天国へと招待してくれる。
ほとんどトンボ帰りなのに、意外と疲労が溜まってたのか、
彼の肩に頭を乗せたまま寝てしまっていた。
「ねぇ、起きてお姉さん。着いたよー。」
そう揺さぶられ意識を取り戻し、焦ってバスを降りる。
「はー、危なかった〜乗り過ごすとこだったねぇ」
そうぼやきながら夜空を眺める彼に、
「ごめんね、熟睡しちゃってた。」
「大丈夫だよ、今日は何食べる?」
「今日は!すき焼き!」
「贅沢者め!こんな夏に......。それもいいよな〜。」
「やったー!それで決まりー!!」
雨上がりの少しツンとする匂いの道路を手を繋ぎ、スキップで帰宅した。
いつまでも、いつまでも、続きますように。
そう、願いを込めて。
これはthe peggiesさんの「最終バスと砂時計」に影響を受け書きました。曲と一緒に読んでいただけると嬉しいですねぇ。




