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亡友

掲載日:2026/03/28



 袂を分かれてから随分と経つが、はたしてきみはきちんと憶えているのだろうか。ぼくときみが離別するまでに至った発端を。袂を分かつまでに至った要因を。

 訊ねたところで答えが返ってこないのはわかっている。きみはもう此処にはいないし、そもそもあれに正解など無いのだから。

 自我欲に塗れて薄汚い、けれど幼い愛だけは在った。それすらも忘れていないことを希う。きみは忘れたがりだからな。

 うん、───ぼくだって忘れたいさ。だってあれは、どうしようもなく苦しかったから。


 あれを喧嘩と称していいものか、ぼくはいまだに悩んでいる。喧嘩の様相だったのか、そもそもとして喧嘩だったのか。

 互いの身を削ぎ合って、泣き叫んだ。苦しいばかりの慟哭と嗚咽が空間を支配していたあの惨状をただの喧嘩であると、そう単語ひとつで表すにはあまりにも痛む傷が多すぎた。だから、やはりあれは喧嘩などではないのだろう。

 剥き出しの感情のままに相手のこころを削り合い、踏み躙り、叩き潰した。ひとつ削る度に、ほんの一瞬、刹那的に我にかえって、相手を傷つけてしまったことに罪悪感を抱き。けれど止まることなんて到底できず、また拳を振るった。他人を削ったことによる幻痛と、自分が削られていることによる苦痛を同時に受け、苛まれ、痛みに絶叫し半ば半狂乱になりながら、相手に憤り、また詰る。

 どこまでも不毛で、突き抜けて愚か。どうにも救いようのない人間がいた。ぼくと、きみだ。

 本当に可〝愛〟想なくらいに───この衝突の根源はそもそも───根底にあったのは、沈澱していたのは、互いを想う愛のみだった。相手への愛情。恋愛感情を伴わない、ただただ大切な友達を想うだけの、相手を尊重しすぎるあまりどこにも進めなくなった人間ふたりの、単なる友愛だった。其処に在った愛を沈め、底に沈んだ愛を凶器に加工して嬲り合った。

 独善的で稚拙な愛を、ただいたずらに振り翳しただけだった。

 

 ───なんて言ったりした日には、趣味の悪いきみのことだ、さぞや大喜びすることだろう。これを「ドラマティックだね」とでも言って微笑いそうだ。想像に難くない。

 だから「そんな美しいものでもない」と、ここで返しておくとしよう。そう、あれは硝子瓶に閉じ込めて保管したくなるような、キラキラしていたものなんかではなかった。

 年端のいかない子供ならともかくとして、おとなふたりが遠慮の仕方と配慮の加減を見誤った末に起こった、感情のステゴロだ。


 そうした果てに、ぼくときみは一人と一人から、独りと独りになった。

 その果てに行き着く少し前に、きみとはなしをした。沈静化した脳と、表面上は落ち着いている精神状態でやりとりをした。関係を修復するためではない。一切の汚れなく、たださいごに抱き合って別れを告げたいがために言葉を交わした。随分と久しい会話だったように思える。

 きみを大切に想うあまり、ぼくはなにも言えなくなった。ぼくを大事に想うあまり、きみはぼくに告げなくなった。互いを化粧箱に仕舞って眺めるだけの人形にしていた。───ね。愚かだ。泣いてしまいたいくらいに、愚かで愛しかった。もっと正しい形できみを愛したかった。



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