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『偽聖女』と呼ばれた私、実は神様のお気に入りでした  作者: 月代


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第八話 偽りの聖女の崩壊



公開検証の日が来た。


王宮の大広間。天井からは幾筋もの光が差し込み、壁面には歴代の聖女の肖像画が掲げられている。


広間には溢れんばかりの人々が集まっていた。貴族、騎士、商人、平民。王都中の人間が、この世紀の対決を見届けようと押し寄せたのだ。


正面の玉座には国王アルベルト三世。その隣に第一王子と第二王子レオン。


そして、広間の中央に、二人の聖女が向かい合って立っていた。


* * *


リーシェは深呼吸をした。


三ヶ月ぶりの王宮。三ヶ月前、ここから囚人として引きずり出された場所だ。


怖くないと言えば嘘になる。だが、今のリーシェは一人ではなかった。


広間の隅に、銀髪の青年がひっそりと立っている。人間に紛れているが、リーシェにはわかった。ルシエルだ。


目が合うと、ルシエルが小さく頷いた。


——大丈夫。


リーシェは前を向いた。


対面のセレスティアは、以前と変わらず美しかった。だが、その翠の瞳には余裕がなかった。


* * *


「これより、聖女の公開検証を執り行います」


国王自らが宣言した。


「検証は三段階。治癒、浄化、そして神託。両者には同じ条件で試験を受けていただく」


第一の試験、治癒。


会場に運び込まれたのは、重傷を負った兵士たちだった。剣傷、火傷、骨折。どれも命に関わるほどではないが、通常の治療では完治に数ヶ月を要する怪我だ。


「セレスティア嬢から」


セレスティアが兵士の前に立ち、両手をかざした。


——光が、揺れた。


以前のような眩い光ではない。どこか不安定で、途切れ途切れの弱々しい光。


それもそのはずだ。魔道具はルシエルに破壊されている。今のセレスティアには、自前の力しかない。


光が消えた後、兵士の傷は——ほとんど変わっていなかった。


広間にどよめきが走る。


「次に、リーシェ」


リーシェが兵士の前にしゃがみ込んだ。


派手な演出はいらない。今までと同じように、ただ手をかざし、祈る。


「——どうか、この方の傷が癒えますように」


温かな光が、リーシェの手から兵士の体に流れ込んだ。


静かに。穏やかに。だが確実に。


剣傷が塞がった。火傷の跡が消えた。折れた骨が繋がった。


兵士が目を見開いた。


「痛みが……消えた。嘘だろ……完全に治ってる」


広間が、歓声に包まれた。


* * *


第二の試験、浄化。


用意されたのは、瘴気に汚染された水晶だった。触れるだけで体調を崩すほどの濃い瘴気が込められている。


セレスティアが手をかざしたが、瘴気は微動だにしなかった。それどころか、セレスティアの顔色が悪くなり、よろめいた。


「次に、リーシェ」


リーシェが水晶に手をかざすと、金色の光が瘴気を包み込んだ。


黒い靄が光に浄化され、みるみるうちに消えていく。数秒後、水晶は透明な輝きを取り戻していた。


もはや結果は明白だった。


* * *


そして、第三の試験——神託。


これが最も重要な試験だった。聖女が神の声を聞き、その言葉を伝える。それこそが聖女の最大の役割だ。


「セレスティア嬢。神の声をお聞かせください」


セレスティアの顔は蒼白だった。


魔道具なしには「神の声」は聞こえない。それは彼女自身が一番わかっていた。


「……わ、私は……」


セレスティアの声が震え始めた。


「私は……神の声なんて……聞こえない」


広間が静まり返った。


「聞こえたことなんて、一度もない。全部、大司教様に言われた通りにしていただけ……あの魔道具で光を出して、台本通りの言葉を読み上げて……」


セレスティアの膝が折れた。涙が頬を伝う。


「ごめんなさい……ごめんなさい、リーシェさん。私は、お父様と大司教様に逆らえなくて……あなたが処刑されると聞いた時、止めたかったのに、何もできなくて……」


リーシェはセレスティアの前にしゃがみ込んだ。


「……顔を上げて、セレスティアさん」


「え……」


「あなたも被害者だったんですね。……辛かったでしょう」


セレスティアが目を見開いた。


自分を偽聖女に陥れた張本人に、優しい言葉をかけるリーシェ。


広間のあちこちから、すすり泣きの声が聞こえた。


* * *


大司教マルクスの顔は、土気色に変わっていた。


「こ、これは——セレスティア様は混乱しているのです。誰かが暗示を——」


「大司教」


国王の声が、冷たく響いた。


「もう十分だ」


レオンが立ち上がり、用意していた証拠を読み上げ始めた。


教会の不正会計。聖女交替の裏取引。リーシェへの暗殺命令。


全てが白日の下に晒された。


マルクスは、もはや言い逃れができなかった。

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