第七話 教会の陰謀
公開検証まで、あと三日。
レオンから定期的に届く書簡によれば、マルクスは表向き公開検証を受け入れる姿勢を見せているという。
だが、ルシエルは警戒を緩めなかった。
「あの男が素直に従うとは思えない」
ルシエルの懸念は、その夜、現実のものとなった。
* * *
深夜。リーシェが寝室で眠りについた頃、ルシエルは異変を感じ取った。
複数の気配が、森の中を移動している。
五つ。いや、八つ。
全て、闇の魔力を帯びている。
「——来たか」
ルシエルが庭に出ると、黒装束の男たちが木々の間から姿を現した。
「教会の暗殺部隊『灰の手』。まだ存在していたとはな」
先頭の男が、禍々しい短剣を構えた。刃に刻まれた紋様が、紫色に脈動している。
「神殺しの短剣か。古代の遺物を引っ張り出してきたわけだ」
ルシエルは冷静だった。
「まさかそんな玩具で私を倒せると思ったのか?」
「目的はあんたじゃない」
男が不気味に笑った。
「——聖女だ」
同時に、背後の窓ガラスが割れた。
「リーシェ!」
ルシエルが振り返った隙に、前方の刺客たちが一斉に襲いかかる。
ルシエルが右手を振ると、光の波動が刺客たちを吹き飛ばした。だが、その一瞬の間に——
* * *
寝室に侵入した刺客は二人。
リーシェは叩き起こされた衝撃で目を覚ました。
「——っ!」
黒装束の人影が、短剣を振りかざしている。
死ぬ。
そう思った瞬間、体が動いた。
右手が光を放ち、黄金の結界がリーシェの周囲に展開した。
ルシエルとの訓練で身についた、無意識の防御結界。
短剣が結界にぶつかり、甲高い音を立てて弾かれた。
「なっ——」
刺客が驚愕する間に、リーシェは手を伸ばした。
「——浄化っ!」
リーシェの手から放たれた白い光が、刺客たちの体を包み込んだ。
闇の魔力で強化された体が浄化され、刺客たちは力を失って崩れ落ちた。
殺してはいない。闇の力を取り除いただけだ。
ルシエルが部屋に飛び込んできた時、リーシェは呆然と自分の手を見つめていた。
「リーシェ! 怪我は——」
「大丈夫。……大丈夫、私、自分で……」
声が震えていた。手も震えていた。でも、無傷だった。
「自分で戦えた」
ルシエルがリーシェを抱きしめた。
「怖かっただろう。ごめん、油断した」
「ううん。ルシエルが鍛えてくれたから……」
リーシェはルシエルの胸に顔を埋めた。
心臓がまだ激しく打っている。怖かった。でも——
自分の力で自分を守れた。
それが何よりも嬉しかった。
* * *
翌日、気絶した刺客たちを尋問した結果、全員がマルクスの命令で動いていたことが判明した。
レオンに報告すると、王子は即座に動いた。
「これで大司教を弾劾する材料が揃った。暗殺未遂は重罪だ」
「でも、マルクスは教会の中で強い権力を持っているんでしょう?」
「だからこそ、公開検証の場で全てを明らかにする。民衆の目の前で、逃げ場をなくす」
レオンの瞳には、静かな決意が燃えていた。
「リーシェ。君に一つお願いがある」
「何?」
「公開検証で——君の力を、全力で見せてくれ。王都の人々に、本物の聖女がどういうものか、見せつけてやってくれ」
リーシェは、まっすぐにレオンを見返した。
「——うん。任せて」
もう、偽物なんかじゃない。
自分が本物だと、自分の力で証明する。
リーシェの中で、最後の迷いが消えた。




