表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『偽聖女』と呼ばれた私、実は神様のお気に入りでした  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第六話 過去の真実



公開検証まで、あと五日。


リーシェは力の制御を磨きながら、ルシエルから少しずつ過去の話を聞いていた。


* * *


「ルシエル。ずっと聞きたかったことがあるの」


夜、暖炉の前でいつものように二人で過ごしている時、リーシェが切り出した。


「マルクスは、あなたと私の契約のことを知っていたの?」


ルシエルの表情が硬くなった。


「……ああ。知っていた」


「えっ」


「あの日——私が君と契約を結んだ日、マルクスはまだ若い神官だった。神殿の裏庭で私が君に力を授けるのを、物陰から見ていた」


リーシェは息を呑んだ。


「じゃあ、マルクスは最初から私が本物だって知っていて——」


「ああ。だからこそ、君を聖女に据えた。神に直接選ばれた聖女という権威を利用するためにね。だが——」


ルシエルが暖炉の炎を見つめた。


「君は思い通りにならなかった。マルクスは聖女を通じて貴族や王族に影響力を持ちたかったが、君は政治に利用されることを嫌がった。治癒の力は惜しみなく使うが、権力の道具にはならない。それがマルクスにとって邪魔になった」


「だから……私を偽物にして、言うことを聞く聖女と入れ替えた」


「セレスティアの家——ヴァレンシュタイン公爵家は、マルクスの古くからの協力者だ。娘を聖女に仕立て上げ、教会と公爵家で権力を分け合う算段だった」


リーシェの手が震えていた。


怒りではない。悲しみだ。


十年間、自分なりに精一杯やってきたつもりだった。朝から晩まで祈り、人々を癒し、神殿のために尽くした。それが「邪魔」だったなんて。


「リーシェ」


「……大丈夫。わかってた、薄々。私の価値は力だけだって。でも、せめてその力だけは認めてもらえてると思ってた」


「違う」


ルシエルの声が、はっきりと響いた。


「君の価値は力じゃない。私が君を選んだのは、力が強いからじゃない」


リーシェが顔を上げた。


「世界で一番優しい魂を持っていたからだ。それだけが理由だ。力は後からいくらでも与えられる。でも、魂の形は変えられない」


* * *


ルシエルは語った。


千年の間、地上を見守り続けた日々のことを。


人間たちが戦い、奪い、裏切り、それでも時々見せる善意のきらめき。ルシエルはそれを遠くから眺めていた。関わろうとは思わなかった。期待しても裏切られるだけだと知っていたから。


「でも、あの日——君が猫のために泣いているのを見た時、心が動いた」


ルシエルは苦笑した。


「神が心を動かされるなんて、おかしな話だろう。でも、そうだったんだ。それ以来、君のことをずっと見ていた。成長するにつれて、ますます優しくなっていく君を」


「見ていたなら……どうしてもっと早く助けてくれなかったの?」


リーシェは責めているのではなかった。純粋な疑問だった。


「……神が直接人間の世界に介入すると、世界の均衡が崩れる。だから私はずっと見守ることしかできなかった。でも処刑——君の命が奪われることだけは、絶対に許せなかった」


ルシエルの声に、かすかな震えがあった。


「均衡が崩れてもいいと思った。世界がどうなろうと、君を失うことの方が怖かった。——それは神としては、たぶん失格だ」


リーシェは言葉を失った。


千年を生きた神が、一人の少女のために世界の均衡を捨てた。


その意味が、リーシェにはまだ完全には

わからなかった。


でも、胸の奥が、どうしようもなく温かくなった。


「ルシエル」


「何?」


「ありがとう。助けに来てくれて。それから——

ずっと見守ってくれて」


リーシェがルシエルの手を握った。


ルシエルが少し驚いた顔をして——それから、幸せそうに笑った。


千年ぶりの、本物の笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ