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『偽聖女』と呼ばれた私、実は神様のお気に入りでした  作者: 月代


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第四話 真の聖女の証



二人暮らしを始めて、三日が経った頃のことだ。


「リーシェ、少し話がある」


朝食の後、ルシエルが珍しく真剣な顔で切り出した。


「君の力について、大事なことを伝えないといけない」


「私の力?」


「君が今使える癒しの力は、本来の力のほんの一部なんだ」


リーシェは目を瞬いた。


「一部……?」


「私が君と契約を結んだ時、君の体はまだ小さかった。全ての力を一度に注ぐと器が壊れてしまうから、段階的に解放されるようにしてあった。でも——」


ルシエルが言葉を選ぶように間を置いた。


「君が自分を偽物だと思い込んだことで、力の解放が止まってしまった」


「……私のせいで?」


「君のせいじゃない。そう思わせた周りのせいだ」


ルシエルの声に、再び怒りの色がにじんだ。


「本来なら、十六歳で全ての力が解放されるはずだった。癒しだけでなく、浄化、結界、神託——聖女としての全ての権能が。でも今の君は、十年前とほとんど変わらない力しか使えていない」


* * *


「力を覚醒させるには、どうすれば……?」


「簡単だよ。もう一度、契約の儀を行えばいい」


ルシエルが右手を差し出した。


「私の手を取って、祈ってくれればいい。十一年前と同じように」


リーシェは深呼吸をした。


怖さがないと言えば嘘になる。自分を偽物だと思い込んでいた三ヶ月の記憶が、まだ心のどこかにこびりついている。


でも——


リーシェはルシエルの手を握った。


「お願いします。もう一度、私に力をください。今度は——逃げないから」


ルシエルが微笑んだ。


「目を閉じて」


リーシェが目を閉じた瞬間、世界が一変した。


体の奥底から、光が湧き上がってくる。


それは十年間、ずっと眠っていた力だった。押し込められ、否定され、忘れ去られていた本来の力が、堰を切ったように溢れ出す。


リーシェの体が淡い金色の光に包まれた。髪が風もないのに舞い上がり、足元の草花が一斉に芽吹き、花を咲かせた。


「——これが、私の力……」


目を開けたリーシェの瞳は、薄い金色に輝いていた。


「うん。それが本来の君だ」


ルシエルが満足そうに頷いた。


「癒しの力は以前の十倍以上になっている。それに加えて、浄化、結界、さらには——」


ルシエルが指を空に向けると、遠くの空に暗雲が見えた。


「魔物の瘴気を感知する力。王都の北に瘴気が溜まり始めているのがわかるかい?」


リーシェは目を凝らした。確かに、北の方角に黒い靄のようなものが見える。以前の自分には絶対に見えなかったものだ。


「見える……あれが瘴気?」


「ああ。本来なら聖女が定期的に浄化するものだ。だが、偽物の聖女にそんなことはできないからな」


ルシエルの口調に皮肉が混じった。


* * *


その日の午後、リーシェは庭で新しい力の制御を練習した。


手のひらから光を放つのは以前と同じだが、その密度と範囲が段違いだった。庭の枯れた木にそっと手を当てると、瞬く間に新芽が吹き、花が咲き誇った。


「すごい……こんなことが」


「それだけじゃないよ」


ルシエルが小石を拾い上げ、闇の魔力を込めてリーシェに向かって放った。


「きゃっ——!」


反射的に手をかざすと、リーシェの体から光の膜が広がり、小石を弾き飛ばした。


「結界。無意識に発動できるなら上出来だ」


「い、いきなり何するのっ!」


「実戦で使えなければ意味がないからね」


ルシエルは悪びれる様子もなく笑った。


神様のくせに、やることが雑だ。リーシェはそう思ったが、同時に、こうして力を使えることが純粋に嬉しかった。


十年間、地味で弱い力だと馬鹿にされてきた。光の演出ができないから偽物だと言われた。


でも違った。本当の力は、ずっと自分の中にあったのだ。


「ルシエル」


「ん?」


「……もしセレスティアさんの力が本物じゃないなら、今、王都の人たちは治癒を受けられていないってこと?」


ルシエルの表情が変わった。


「……ああ。そうなるな」


「病気の人も、怪我をした人も……」


リーシェは唇を噛んだ。


自分が捕まっている間も、処刑されそうになった後も、王都の人々は偽りの聖女の「治療」を受け続けていたことになる。魔道具の力では、本当の意味での治癒はできない。


「戻らなきゃ」


「……リーシェ」


「私を処刑しようとした人たちのことは、正直まだ怖い。でも、病気の人たちに罪はないもの」


ルシエルは長い間、リーシェを見つめていた。


「……本当に、君は変わらないな」


「え?」


「五歳の時も、怪我した猫のために泣いていた。十六歳になっても、自分を殺そうとした国の人間を心配している」


ルシエルが苦笑した。


「だから私は君を選んだんだけどね。——わかった。ただし、すぐには戻らない。もう少し力の制御を安定させてからだ」


「うん。ありがとう」


リーシェは笑った。


その笑顔を見て、ルシエルが一瞬だけ目を逸らしたことに、リーシェは気づかなかった。

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