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元勇者の迷宮探索者《ダンジョンシーカー》   作者: クロウィン
第一章:迷宮《ダンジョン》で発見された少年
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第一章:迷宮《ダンジョン》で発見された少年(2)

毎週土曜・日曜更新予定

祝日は追加更新あり

「しかし、よろしいのですか? 学園長自ら確認に赴かれるなど。」


「なに、老いぼれ扱いするでない。たまには現場で体を動かしておかねば、本当に錆びついてしまうからの。」


どこか落ち着かない様子で先頭を行く学園長に、若い男性教師が声をかける。


するとハウゼンは、豪快に笑いながらそう答えた。


この老人こそが、グロリス学園の学園長――ハウゼン・ウィドバーグ。


かつて“黒剣の重騎士シュヴァルツ・リッター”の異名で最強と謳われた、伝説級の迷宮探索者ダンジョンシーカーの一人である。


「老いぼれなど、とんでもありません。むしろ我々が足手まといになっているのでは、とさえ思えますが。」


「ははは。気にするな。……まあ、個人的に少し気になることもあってな。」


その瞬間、ハウゼンの目が鋭く細められた。


迷宮の奥を見据えるその横顔に、先ほど声をかけた教師は思わず首を傾げる。


「気になること、とは?」


「うむ。……いや、気のせいかもしれぬ。まずは初期探索に集中するとしよう。」


どこか言葉を濁すような態度ではあったが、教師たちはそれ以上踏み込まなかった。


ハウゼンが口にしないということは、少なくとも今すぐ共有すべき事態ではないのだろう。そう判断できるだけの信頼があった。


少なくとも、第九階層まで進んだ現時点では異常は確認されていない。


むしろ、拍子抜けするほど静かですらあった。


「ふんっ!」


そのとき、通路の陰から現れた食屍鬼の群れを、ハウゼンは背負っていた黒の大剣で一閃のもとに両断した。


その動きは、老齢のそれとは到底思えない。重厚な大剣を片手で操り、まるで鞭でも振るうかのように軽々と振り抜く姿は、まさに歴戦の騎士そのものだった。


あの大剣を片手で振るう姿には、何度見ても慣れない。


若い教師はそう内心で呟き、隣の同僚もまた苦笑した。


「お気持ちはお察しします。」


ハウゼンはすでに老境に差しかかっているはずだが、その体躯はいまだ鋼のように引き締まり、背に担ぐ黒剣は主の異名を誇示するかのような存在感を放っている。


いま彼らが初期探索を行っているのは第二等級迷宮(レベル2)――白の地下聖堂(ホワイト・カテドラル)


名のとおり地下に広がる聖堂めいた空間であり、外界に光源は存在しないにもかかわらず、壁面や柱は淡く白く発光している。大陸に広く信仰される女神教会の聖堂とは似て非なる、どこか異質で、背筋に冷たいものを走らせる空気を孕んでいた。


出現する魔獣の多くは、物理干渉力の低い幽霊(スペクター)系統、あるいは骸骨騎士(スケルトンナイト)動く死体(ゾンビ)、その上位種である食屍鬼(グール)といったアンデッド系である。


いずれも魔獣の中では下位に分類される存在だ。


無策の一般人であれば命を落としかねないが、ここはあくまで中等部の実地訓練用迷宮だ。


再構築直後の確認とはいえ、学園長自らが出向くような場所ではない。


現役時代、彼は第六等級迷宮(レベル6)を踏破し、さらに“攻略不可能”とされる第七等級迷宮(レベル7)から生還した数少ない一人でもある。


そのハウゼンにとって、第二等級迷宮など、今なお散歩同然でしかないのだろう。


――それでもなお、彼は何かを探るように、迷宮の奥を見つめていた。




・ ・ ・




探索は順調に進んでいた。


学園長という明らかな過剰戦力がいることも理由の一つだが、同行している教師陣もまた優秀な探索者出身である。


前線を退いた者であっても第四等級が基本、第五等級保持者も少なくない。


そしてハウゼンは、現役時代に第七等級と謳われた傑物だった。


その面々が第二等級迷宮を調査している以上、本来であれば危険などあるはずがなかった。


もはや散策と呼んで差し支えない状況だった。


やがて――


「見つかりました。第10階層へ通じる階段です。」


白の地下聖堂の最深部は第十階層。


すなわち階段を確認した時点で、今回の初期探索は完了を意味する。


グロリスでは、再構築後の初期探索は迷宮の主(ガーディアン)が待つ最終階層の一つ手前までとするのが慣例となっていた。


教師陣が主まで討伐してしまえば、生徒が実戦経験を積む機会を奪うことも理由の一つではあるが......


「再構築後の地図作成も問題ありません。採掘・採取ポイントの確認も済みました。宝箱部屋の配置こそ変われど道筋は大差なし。あとは生徒たちの楽しみに残しておきましょう。」


「ははは。今回はどのチームが主を討ち取り、主の贈り物(ゴールデン・ギフト)を手にするのやら。」


迷宮の主を討伐した場合、通常の魔獣とは異なり、素材に加えて特殊な武具や装飾品が収められた宝箱が出現する。


それは主の贈り物(ゴールデン・ギフト)と呼ばれ、金色に装飾された箱であることから、探索者の間でそう通称されている。


再構築そのものが頻繁に起こるわけではないうえ、再構築直後に誰が最初に最深部へ到達するかは分からない。


ゆえに生徒達にとって、主の贈り物を得ることは大きな憧れであり、半ば祭りのような小さな特別行事となっていた。


教師たちもそれを理解しているからこそ、最深部直前で探索を打ち切るのが慣例となっていた。


だから今回も、教え子たちの顔を思い浮かべながら撤収の準備を整えようとしたのだが――


「……いや、待て。」


ハウゼンが低く呟いた。


その声音には、先ほどまでの軽さはなかった。


その変化に、教師たちの表情は一瞬で引き締まった。


学園長は迷宮内で軽口を叩くような人物ではない。


そもそも今回の初期探索に学園長自らが同行していること自体、極めて異例である。


たとえ自分たちが異変を感じ取れていなかったとしても、それが「異常なし」の根拠にはなり得ない――そのことを彼らはよく理解していた。


張り詰めた空気の中、ハウゼンは眉をひそめ、傍らの教師へと問いかける。


「クロフォード君。白の地下聖堂の主は、何だったかね。」


「え? それは……骨の王(ロード・スケルトン)ですが――」


問いの意図を一瞬理解できずにいたクロフォードだったが、次の瞬間、その表情が凍りついた。


「……いや、待ってください。第十階層から感じる根源魔素マナが……違う……? 質が、違いすぎる……!」


第十階層から滲み出る根源魔素は、これまで白の地下聖堂の主が放っていたものとは明らかに質が異なっていた。


それは、これまでの常識ではあり得ない事態だった。


「主が……入れ替わった?そんな馬鹿な……だが確かに、この魔素は……」


「いったい、何が起きている……」


他の教師たちも即座に感知精度を最大まで引き上げる。


結果は同じだった。


第十階層へと続く階段の奥から、確かに“何か”が滲んでいた。


慣れ親しんだ白の地下聖堂の気配ではない。


教師たちの背筋を、言いようのない寒気が走る。


迷宮の主は、再構築が起きようと決して変化しない。


それがこれまでの歴史が証明してきた事実であり、大陸の誰一人として例外を経験したことはない。


まさしく異変。


彼らは今、前例なき現象を目の当たりにしている。


ハウゼンは背負っていた黒剣を静かに抜き放つと、ゆっくりと第十階層へ続く階段を下り始めた。


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