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元勇者の迷宮探索者《ダンジョンシーカー》   作者: クロウィン
第三章:元勇者の学園初日
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第三章:元勇者の学園初日(4)

毎週土曜・日曜更新予定

祝日は追加更新あり

「はあ……賑やかだな。まあいい。それでは――はじめ!」


ゲオルト教官が呆れたような表情を浮かべながら開始の合図を放った。


ラミアールが一歩、静かに踏み込む。


「先手は貰った!」


そう言った次の瞬間――鋭い踏み込み。


細身の木剣が一直線に喉元を狙って伸びる。


迷いのない突き。


早い一撃だったが、対処できる。


俺は半身になってそれをかわし、刃を横から払う。


金属ではないはずの木剣同士が、硬質な音を立てた。


かなり鋭い。


反撃に転じようと踏み込んだ、その瞬間。


足元の地面が、わずかに盛り上がった。


同時に、濃い魔素の流れ。


――魔法の気配だ。


俺は反射的に後方へ跳ぶ。


刹那、三つの火球が弧を描いて迫った。


連射。


しかも、突きの動作と同時。


剣と魔法の同時運用か。しかもその連携は洗練されている。


評価を改める必要がありそうだ。


俺へ放たれた火球を見つめて再度構える。


魔素で構築された魔法は、魔素を帯びた物体で干渉できる。


それが剣であれば、斬ることも可能だ。


――ならば。


俺は初めて、木剣に意識を向ける。


魔素を薄く巡らせ、刃の表面に膜のようにまとわせた。


即席の魔素膜。


迫る火球へ踏み込む。


一閃。


火球が二つ、同時に霧散。


もう一つを切り裂いた瞬間、熱風が頬を撫でる。


「ほう。」


ラミアールの目がわずかに細められた。


動揺は見られない。これくらい予想の上だと主張しているかのように即座に次の行動に移していた。


次の瞬間には、再び距離を詰めている。


突き。


二連。


三連。


四連。


回数だけでない。


速度も徐々に上昇する。


その合間にも、地面が沈み、盛り上がる。


足場を奪う小規模な地属性魔法。


地道ではあるが、効果は確実だ。


剣だけでもない。


魔法だけでもない。


両方を同時に扱う。


――器用だな。


純粋に、感心した。


剣と魔法の練度そのものは、まだ伸び代がある。


だが、それらを同時に運用するのはまた別の話だ。


魔法とはイメージの具現化。


剣での攻撃に意識が向いてしまうと魔法は発動しなくなるか、効果が弱くなる。


逆に魔法に集中しすぎると大きな隙が生まれる。


その両方に意識を向きつつ、どちらかに偏らないようにバランスを保っている。


それを成立させるだけの実力があるということだ。


並の才能ではない。


……これは、きちんと応えるべきだな。


中途半端に受け流し続けるのは失礼だ。


俺は呼吸を一つ、整えた。


師匠に叩き込まれた型。


あの時代に、何度も何度も繰り返し修練した歩法と剣。そして形。




無影一刀流――




【第一式・陽炎かげろう。】





踏み込み。


次の瞬間、俺の姿がわずかに揺らぐ。


残像。


熱気に揺れる空気のように、輪郭がぶれる。


ラミアールの突きが、俺の胴を貫いた。


――ように、見えた。


「取った――!」


勝利を確信した声。


だが。


その背後。


「惜しいな。それともまだやるか?」


「なっ……!」


振り向いた瞬間。


俺の木剣の切っ先が、彼の喉元へと静かに突きつけられていた。


「くっ……まだ勝負は――!」


負け惜しみとばかりに体を起こそうとするが、足場への意識が一瞬途切れていたのだろう。


「うわっ!」


先ほど自ら隆起させた地面に足を取られ、ラミアールは派手に転倒した。


乾いた土煙がふわりと舞い上がる。


「勝負あり!」


ゲオルト教官の声が響く。


「く、屈辱……!」


悔しげに顔をしかめるラミアール。 だが、転び方が巧みだったのか、目立った怪我はない。 制服の袖と裾、そして丁寧に整えられていた金髪の先に、うっすらと土がついている程度だ。


「おい、お前見えたか? 最後の動き。」


「いや、全然……一体何が起こったんだ?」


「消えたよな……? いや、揺れた? なんだ今の……」


困惑の声があちこちから上がる。


一方で、女子生徒たちの一部からは、別の種類の声が漏れた。


「ラミアールくん、大丈夫?!」


「ケガしてない?」


「ああ、土ついちゃってる……!でもそれも格好いい!」


心配に満ちた声。その声に反応するかのように男子生徒の群れからまたしても舌打ちの音が聞こえた。

そんな中で、ひときわ大きな声が弾ける。


「うおおおおお! すげぇ! アベルすげぇ!」


「アベル君すごい! 本当に見えなかったよ、最後!」


イチは両拳を振り上げ、ニナは目を輝かせてこちらを見ている。


歓声と戸惑いとため息が入り混じったざわめきが、演習場を包み込んだ。


土を払い、身だしなみを整え終えたラミアールがこちらへ歩み寄る。


「……完敗だ。」


悔しさを隠しきれない表情。それでも視線は逸らさない。


「貴様の実力、疑いようもない。次は必ず雪辱を果たす。その時まで――精進しておくがいい。」


そう言って、差し出された手。


俺は素直に応じた。


「楽しみにしている。」


「ふん……!覚えておけ、アベルマス・ウィドバーグ。貴様を我がライバルとして認めてやる!」


高らかに宣言すると、外套を翻すような勢いで自分の列へ戻っていく。


……忙しい男だ。


残る男子は三人。


しかし、誰も前に出ようとはしない。


「どうした。報酬はまだ有効だぞ。」


ゲオルト教官が腕を組む。


沈黙。


やがて教官はため息をつき、順に指を向けた。


「では――お前からだ。」


最初に出てきたのは、獣耳を揺らす獣人族の少年だった。


両手に木製の短剣。


低い姿勢から、獣のような跳躍で距離を詰めてくる。


速い。だが直線的だ。


軽やかな足捌きで間合いを外し、二合、三合。


最後は手首を打ち、片方の短剣を弾き飛ばす。


もう一方も払われ、体勢を崩したところで喉元へ切っ先を突きつける。


「参った!」


潔い。


次。


丸眼鏡をかけた、どこか気弱そうな少年。


手には木製の杖。


距離を取り、大きく振り上げる。


空気が震えた。


次の瞬間、人の背丈ほどもある巨大な火球が現れる。


観衆がどよめく。


出力は悪くない。


だが軌道は素直すぎる。


俺は木剣に魔素を巡らせ、一歩踏み込んだ。


振り抜く。


火球は左右に割れ、熱風だけが通り過ぎる。


「ひっ……!」


杖を取り落とし、少年は尻餅をついた。


「こ、降参……!」


外から「ううー!」「おいー!何やってんだ!」「根性見せろよ!」と野次が飛ぶ。


少年は涙目になりながら叫んだ。


「だ、だって怖いんだよ!」


……少し、やりすぎたか。


大人げなかったと心の中で反省した。


最後の一人。


例の魔素銃を持つ少年だ。


俺は無意識に姿勢を低くする。


未知の武器。


まずは観察だ。


少年は構えを取り、筒状の先端をこちらへ向ける。


穴の奥。


その周囲に、魔素が集束していくのが見えた。


――来る。


そう思った瞬間。


空気を裂く感覚。


視認できない何かが、一直線に迫る。


反射的に木剣を振る。


魔素を纏わせた刃が、甲高い衝撃音を立てた。


何かが弾かれ、遠くで砂を抉る。


……速い。


今のは、見えなかった。


だが、確かに斬った感触はある。


そんなことを考えながら相手の方を見つめると、何故か俺よりも驚いた顔をしていた。


「……え?」


目を見開く。


「魔素弾を……斬った?」


信じられない、という顔。


魔素弾っていうのか、あれは。


確かに凄まじい速度ではあったけど……魔素の濃度自体は低めそうだし、威力の方も魔素を纏った弓矢よりも劣るように思える。


それくらいなら、切っても不思議ではない気がするのだが、彼にとっては違ったみたいだ。


やがて、ゆっくりと武器を下ろした。


「……負けです。」


静かな宣言。


合計十連戦。流石に少しは疲れた。


だが、これでやっと迷宮(ダンジョン)とやらを確認しに行ける。


自分の中で妙な期待と緊張が走る。


一体、どんな場所なのか。今にも確認しに行きたい気分だが、それを抑え込む。


過去の痕跡の調査や、変わりすぎた世界の手がかりを探すこともあるが、未知の場所に挑もうとすること感覚はかつての旅の記憶を呼び覚ましていた。


「すごいな、編入生。もしかしたら一年生で一番強いんじゃないか?」


「ばか!一年生どころか2,3年生にも劣らないって!」


「すごいね、ウィドバーグくん。何者?」


「男子全員相手に十連勝か~ うちの男子たちがだらしないだけじゃないの?」


「ああん?なんか言ったか、ブス!」


「は?やるの?」


模擬戦が終わった途端に騒ぎ始める生徒たち。


どうやら、女子生徒たちの模擬戦はもう終わったみたいだ。人数的に女子のほうが少なめなおかげだろ。


「静かに。」


だが、ゲオルト教官のその一言で睨み合ってた生徒たちを含め、みんなが静かになり姿勢を正し場を収めた。


やれやれ、と言いたげな表情でため息をつく。


「では、改めて。これで男子の模擬戦も終わり――」


ゲオルト教官が締めに入ろうとした、その時。


「少し、お待ちいただけますか。教官。」


澄んだ声が、演習場に響いた。


面白いと感じていただけましたら、反応をいただけますと励みになります。

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