表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

序章

毎週土曜・日曜更新予定

祝日は追加更新あり

魔族――


人類が歴史を刻むより遥か以前から、この世界に存在していた天敵。


人類史とはすなわち、魔族との戦いの歴史である。


そう断言できるほどに、人類は幾世代にもわたり、魔族との抗争と戦争を繰り返してきた。


その魔族の頂点に立つ存在――魔王。


曰く、百の顔を持つ者。


曰く、千の魔導を操る者。


曰く、万の軍勢を一夜で灰に帰す者。


曰く、無限に等しき魔族を生み出す者。


その首を落とせば、魔族は滅び、世界には平和が訪れる。


そう信じて、人類は有史以来、数多の国家の軍勢と勇者、英雄たちを送り込んできた。


しかし、そのすべては失敗に終わった。


――だが今、この瞬間。


人類史上最強と称される勇者――アベルマスとその仲間たちは、誰一人として成し遂げられなかった魔王討伐という偉業を、成し遂げようとしていた。




・ ・ ・




勇者アベルマス一行が魔王との戦闘を開始してから、三度目の夜が訪れた。


「見事だ、勇者よ。余をここまで追い詰めたのは、お前が初めてだ。」


喉奥深くに勇者の剣を突き立てられながらも、魔王は燃えるような紅の瞳を愉悦に細め、微笑を浮かべていた。


かつて魔王城と呼ばれた場所は、すでに戦いの余波によって瓦礫と化している。


魔王の肉体は無数の傷に刻まれ、満身創痍。


それでもなお倒れぬのは、彼が最強の魔族にして人類最大の敵だからに他ならない。


もっとも、勇者もまた無事ではなかった。


左腕は肘から先を失い、左目は潰れ、右脚は本来あり得ぬ方向にねじ曲がっている。


鎧は砕け散り、全身は裂傷と血に塗れていた。


三日三晩続いた死闘により、その消耗は魔王以上と言っても差し支えなかった。


そして何より――


勇者を支え続けた、かけがえのない仲間たちは、すでに魔王の手によって命を奪われている。


残ったのは、アベルマスただ一人。


それでも彼の瞳は、絶望を知らぬ炎を宿していた。


「だが、その身ではもはや生きられぬだろう。哀れだな、勇者よ。」


愉快そうに語る魔王に、アベルマスは自嘲気味に笑う。


「そうだろうな。自分でも、生きているのが不思議なくらいだ。女神の加護がなければ、とっくに仲間たちの後を追っていた。」


だが――


燃え尽きぬ闘志を瞳に宿し、彼は魔王を睨み据える。


「それがどうした、魔王。人類の未来のために――何より、先に女神のもとへ旅立った仲間たちのためにも……」


力は、もう残っていない。


それでも。


「共に逝け、魔王ォォォ!!」


残された命の火を振り絞り、剣を振り抜く。


首が断たれ、地に転がる。


肉体は蒼く光る粒子となって崩れ去っていく。


人類最大の敵、魔王討伐。


ついに成就した、歴史的瞬間だった。


その光景を最後に、勇者アベルマスは力尽きて倒れ伏す。


痛みは、もはやない。


むしろどこか温かい。


「やった……」


「皆……俺が、やったぞ……」


涙は出ない。


それでも彼の心は、深く、深く泣いていた。


『約束は守った。だが……生きて帰るという約束は、守れそうにない。』

限界を超えた肉体。


命が尽きるのは時間の問題だった。


『まあ……お前たちなら、許してくれるよな……』


やがて女神のもとへ辿り着けば、仲間たちは何と言うだろうか。


怒るか。笑うか。


きっと、その両方だ。


『ああ……今、行く……』


そうして人類を救った勇者は、誰にも看取られることなくその生涯を終え――




――そのはず、だった。



「見事だ、勇者よ。」






『――は?』


あり得ない。


確かに首を落とした。


その身を構成する根源魔素マナが世界へ還るのを、この目で見た。


「だが、お前たちは知らぬ。真なる絶望を。すべてが無意味であるという事実を。」


振り向けば、再生する魔王の姿。


絶望が胸を貫く。


すべてが、無意味だったのか。


「終わりではない。お前が斬ったのは過程の一つに過ぎぬ。」


静かな声だった。


魔王はゆっくりと、再生したその身を揺らしながら、勇者を見下ろす。


「始まりだ、勇者よ。これは――次の段へ至るための契機に過ぎぬだ。」


魔王の手が伸びる。


触れた瞬間。


肉体ではない。 もっと根源的な何かが、引き裂かれる。


声にならぬ悲鳴。


「だからこそ……見たいのだ。真なる絶望に足掻く、貴様の姿を。」


黒き球体が二人を包み込む。


やがてそれが消えたとき――





そこには、何も残っていなかった。









【魔王の魂の消滅を確認。―――試練迷宮ダンジョンの生成を開始します。】









そして、世界は一変した。

※面白いと感じていただけましたら、反応をいただけますと励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ