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メダルの魔法使い ~隣のクラスに巻き込まれて異世界へと~  作者: 十本スイ


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 それからユーズレイハによる《魔導宝具》についての説明が成された。

 風和含め、その場にいる者たち全員が、ユーズレイハの言葉に黙って耳を傾けている。

 どうやら《魔導宝具》というのは、簡単に言うと魔力を込めて扱うアイテムのことで、その種類と効果は多岐に渡るらしい。

 さらに言うならば、この《魔導宝具》にはランクがあり、


「最もランクが高いものを扱うには相応の魔力と適性が必要になりますの」


 とのことで、誰もが扱える代物ではなく、かつ適正が合わないものは、たとえ膨大な魔力量を有していても十全に扱うことはできないとのこと。

 普通の《魔導宝具》でも、込められた力は強く、十分に武器として機能してくれている。


 そして亜人たちには魔力が存在しないために、これらを発動すらできない。この《魔導宝具》こそが、彼らに対抗する唯一無二の武器らしい。


「そして恐らく……いえ、間違いなく皆様方は高ランクの《魔導宝具》を扱うことができますわ。そう……特にあなた様……」


 ユーズレイハの視線が波斗に向けられる。


「あなた様の潜在能力ならば、最高の――Sランクすら扱えるやもしれませんわね」

「お、俺が……?」


 こんな異世界でも万能っぷりを発揮しているようで、その身に秘められた能力は非常に高いとユーズレイハのお墨付きをもらった。そんな高評価の彼に対し、称賛する生徒もいれば、それが気に食わない人たちもいる。


「ぐぬぬぬぬぬぅぅ……っ! こ、これだからイケメンはぁぁぁ……っ!」


 忌々し気に波斗を睨みつけている相沢。そしてもう一人――。


「……ちっ」


 不満そうに、その鋭い眼力を波斗にぶつけているのは坂巻虎也(さかまきとらや)である。彼の見た目から、密かに周りでは『金髪ピアス』と呼ばれており、威圧的な言葉遣いもさることながら、強面も相まって誰も近づきたがらない。


 授業もよくサボったりして、巷では悪い連中とつるんでいるという話も飛び交っていて、いわゆる不良という扱いを受けている。

 そんな彼もまた、優遇されている波斗に思うところがあるようで不機嫌そうだ。


「ですが口で幾ら説明をしたところで、皆様方も納得はできないことでしょう。ですから百聞は一見に如かず。実際に《魔導宝具》をその目で見て頂きましょうか」


 ユーズレイハの言う通り、いくら才能があると言われても信じられない者たちの方が多いだろう。風和だってそうだ。それを払拭するためにユーズレイハは行動を起こした。


 ユーズレイハが懐から取り出したのは――。


(…………ナイフ?)


 しかし何の変哲も無いように思えた。どこにでも売ってそうなナイフだ。

 そう思ったのは風和だけではないだろう。誰もが怪訝そうに、そのナイフを見つめている。


「これを見て普通の刃物だと思われた方も多いでしょう。ですが――」


 ユーズレイハが、手に持ったナイフを軽く掲げる。すると驚くことに、刃の部分を覆うように火が出現した。さらにそれが徐々に伸びていく。


 ――炎の剣。


 ナイフの刃から生まれた火が形成したのは、まさしくそう呼ぶに相応しい見た目をしていた。

 ここからでも届く熱量に強い存在感を覚える。手品のようにも思えるが、次にユーズレイハがとった行動によって、その考えは払拭されてしまう。


 炎の剣と化したナイフを、遠目に見える柱に向けて軽く振ったユーズレイハ。するとナイフから炎を纏った斬撃が柱に向けて走り出し、凄まじい威力で柱を両断してしまったのである。


 その光景に歓喜する相沢はともかく、ほとんどの者が目を丸くしていた。

 切り口は若干溶けているものの、まるで豆腐でも切ったかのように滑らかだ。


「これが《魔導宝具》の力ですわ。込めた魔力量と適性によって、その威力や質は変化しますわ。ちなみにこれは最低ランク――Dランクの《魔導宝具》ですわ」


 思わずギョッとしてしまう。あれほどの効果を示したものが、まさか下位ランクだったとは。もしこれがAやSだったとしたら……。

 そう想像して無意識に喉が鳴る。それは風和だけでなく、傍にいる咲絵からも聞こえた。


「……ほ、本当に俺たちがそんなものを扱えるのか……?」


 《魔導宝具》の想像だにしない力に不安を募らせたのか、波斗が若干震えた声を上げた。


「もちろんですわ。ここにおられる皆様方なら、この程度の《魔導宝具》ならばすぐにでも」


 まったく根拠が無いが、ユーズレイハには確信があるように見えた。


「……確かに俺たちに本当に戦う力があるならそうなんだろうけど、それでも俺たちは戦いたいわけじゃない。できるなら早く元の世界に戻してほしい」


 波斗の言葉に、《魔導宝具》に興味を持っていかれそうになっていた生徒たちがハッとして、「そうだそうだ!」、「今すぐ帰してほしい!」などと言い始める。

 そんな彼らの反応に、ユーズレイハは申し訳なさそうな顔を見せる。


「それは……今は不可能ですわ」


 返答は多くの者たちに絶望を与えた。風和もまた同じように愕然とし言葉を失う。


「ど、どういうことだよ!? 俺たちは帰れないのか! あなたが召喚したんだろっ!」


 波斗が代表して皆の言葉をユーズレイハにぶつける……が、彼女はやはり目を伏せて首を横に振るだけ。そんな彼女の反応に一早く動いたのは、やはりというべきか相沢だった。


「まあまあみんな、今女神様を責めてもしょうがないじゃないか」

「……は? 何言ってんのさ、相沢?」


 少しも不満に思ってもいなさそうな相沢に対し、明らかに怒気を膨らませたのは佐城燈子さしろとうこだ。クラス一番のギャルで、波斗といつも一緒になって賑やかにしている女子の一人。


「アタシたちは勝手に訳の分からない場所に連れて来られて、しかも元の世界に戻せないって言われて大人しくできると思う? ふざけてんじゃねえし!」

「うっ……で、でもここでキレたって何も良いことなんてなくてですね、はい……」


 強気な発言が目立っていた相沢だが、元々は大人しいオタク少年なので、ギャルの威圧感ある態度に気圧されてしまっている。


「落ち着けよ、二人とも」

「波斗……でもさ」

「俺だって燈子と同じ気持ちだよ。けど、相沢の言ったことも一理ある。だからもう一度問いたい。ユーズレイハさん、本当にもう俺たちは元の世界には戻れないのか?」


 さすがはリーダー。二人を鎮め、再度ユーズレイハに問い質した。


「……方法はあります。先ほども言いましたが、〝今は〟……不可能というだけですので」

「今は……か。じゃあいつになったら可能になるんだ?」

「異世界への扉を開くには相応の準備が必要になりますわ。早くて……一年」

「一年……か」


 波斗が噛み締めるように反芻し、そして意を決したように「分かった」と声を上げた。そしてそのまま風和たちの方へ振り向く。


「みんな、いろいろ言いたいことはあるだろうけど、俺はユーズレイハの力になろうと思う」

「え……いいの、波斗?」

「ああ、決めたんだよ燈子。この世界には、さっき見せられたようなバケモノがウヨウヨいるんだ。生き抜くためにも……何よりも仲間を守るためには力がいる。だからユーズレイハに、生き抜く術を教えてもらう。そして一年後、みんなで一緒に元の世界に帰るんだ!」


 どうしてそんな簡単に決断できるのか、風和には疑問だった。そもそもユーズレイハに対し寛容的過ぎる気がする。しかしそう思っている風和をよそに、ほとんどの者が波斗の決断を支持し始めた。それを見たユーズレイハもまた嬉しそうに微笑んでいる。


「ね、ねえ咲絵ちゃん、どうしよう? どうするべきなのかな?」

「……分からないわ。だってこんなこと初めてだもん」

「そう、だよね……」

「でも、あたしだってこんなところで死にたくないわ」


 それは風和だってそうだ。


「だからそのために力が必要になるなら手に入れるだけよ」


 いつも前向きで、本当に強い女性だと心底思う。風和の憧れ。こんなふうに強くありたいと何度願ったことか。


「安心しなさい。風はあたしが守るから」

「咲絵ちゃん…………うん、ありがとう」


 ホッとしつつも、不意に脳裏に一人の少年の顔が浮かび上がる。ハッとした風和は、ユーズレイハに尋ねることにした。


「あ、あの、一ついいですか?」

「何でしょうか?」

「そ、その……もう一人……男の子がいませんでしたか? そ、傍にいたんですけど……」

「もう一人? ……いえ、わたくしが望んだ方々は全員この場に召喚できたはずですわ」

「そう……ですか」


 では日映は召喚されなかったということだろうか。今も、あの教室にいる。彼が傍にいない寂しさと、こんな危険な世界の事情に巻き込まれなかった幸運との狭間に風和の心は揺らいでいた。


「それでは皆様方には、これからこの世界で生きる力を身に着けて頂きますわ。わたくしも全力で支援致します。どうぞよろしくお願い申し上げますわ」


 こうして風和たちの異世界生活が開始されたのであった。





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