第一話:伝説の序章!神の力で、ウザいエリートを黙らせろ!
「は……はは……」
社畜の佐藤健太(38歳独身)の人生は、アスファルトに転がった100円玉を拾おうとして、盛大にトラックに轢かれるという、あまりにも情けない幕引きを迎えた。過労で朦朧とする意識の中、最後に思ったのは「あぁ、これで明日の会議に出なくてすむ……」だった。
次に目を開けた時、目の前には銀河を閉じ込めたような瞳を持つ、神々しいまでの美女がいた。
『可哀想に……。あまりに不憫な人生でしたね。次の人生では、せめて自由に、思いのままに生きられるように、私から特別な力を授けましょう』
女神が俺にくれたのは、たった一つのユニークスキル。
【状態編集】
それは、この世のあらゆる存在の「ステータス」を、まるでゲームのデータをいじるかのように、自由に閲覧し、書き換えることができるという、前代未聞のチートスキルだった。
こうして俺は、剣と魔法の世界に「リアン」として転生した。
まあ、貴族とかじゃなく、ごく普通の平民だったが、そんなことはどうでもいい。俺には最強のスキルがあるのだから。
◇
冒険者ギルドの喧騒の中、俺は掲示板の依頼書を眺めていた。
転生から数年、15歳になった俺は、この力を使って成り上がることを決意したのだ。
「おい、どけよ、Fランクの雑魚が」
ドン、と肩を突き飛ばされた。
見れば、いかにも「俺様最強です」といった顔つきの赤髪の剣士と、取り巻きのパーティメンバー。胸元のギルドカードによれば、Aランクパーティ『紅蓮の獅子』。エリート様のお通りらしい。
「んだよ、こいつ。魔力もねえ、筋肉もねえ、ヒョロガリじゃねえか。こんなんで冒険者とか、死にに行くようなもんだぜ?」
「ゼイド、やめなよ。弱い者いじめは趣味じゃないわ」
鼻を鳴らすリーダーのゼイド。それを諌めるのは、ツンとした表情が逆にそそる、美少女魔術師のセラフィナ。だが、その目には侮蔑の色が隠しきれていない。
俺は内心でため息をつきながら、スキル【状態編集】を奴らに向けて発動させた。
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名前:ゼイド・ランスター
称号:赤髪の剣鬼(笑)
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(ぷっ、称号に(笑)ってついてやがる……! こいつ、自分でそう名乗ってるのか? ダセェ……!)
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名前:セラフィナ・アークライト
状態:便秘気味(3日目)
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(うわぁ……。なんか、ごめん……)
俺は憐れみの目で彼らを見送った。
「まあ、せいぜい頑張れよ、エリート様」
「あ? てめえ、今なんつった!」
凄むゼイドを無視して、俺はその場を立ち去った。
――その数時間後。
ギルドの鐘がけたたましく鳴り響いた。緊急事態の報せだ。
「なんだ!? 何が起きた!」
「ワイバーンの群れだ! しかも、リーダーはエンシェント級の『黒天竜』だぞ!」
「馬鹿な! Sランクパーティは遠征中だぞ! この街は終わりだ!」
ギルド内が絶望に包まれる。
その中で、ゼイドがニヤリと笑い、剣を抜いた。
「ハッ、てめえら、うろたえるな! この俺、『紅蓮の獅子』が黒天竜なんざ、皮を剥いでブーツにしてやるぜ!」
「ゼイド! あなた正気!?」
「うるせえ! ここでデカい手柄を立てりゃ、俺たちもSランクだ! 行くぞ!」
無謀。あまりにも無謀。
だが、彼らの実力は確かにAランク。もしかしたら、という淡い期待を抱く冒険者たちに見送られ、『紅蓮の獅子』は街の外へと飛び出していった。
……もちろん、結果は火を見るより明らかだった。
街の城壁から見下ろすと、『紅蓮の獅子』は絶体絶命の窮地に陥っていた。
ゼイドの必殺剣は黒天竜の鱗に弾かれ、セラフィナの最大火力魔法は、まるで子供の火遊びのようにかき消される。
「くそっ……! なんだよ、こいつ……硬すぎだろ……!」
「ゼイド! もう無理よ! 撤退しましょ!」
だが、もう遅い。黒天竜が巨大な口を開き、終焉のブレスをチャージし始めた。絶望的なマナの収束。街ごと消し炭になるだろう。
ゼイドもセラフィナも、腰を抜かして死を待つだけだった。
「やれやれ。世話が焼けるな」
俺は欠伸をしながら、のっそりと彼らの前に立った。
「り、リアン!? てめえ、なんでここに!」
「死にたいのか、どけっ!」
悲鳴のような声が後ろから聞こえるが、知ったことか。
俺は目の前の巨大な絶望――黒天竜のステータスを【閲覧】する。
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名前:黒天竜
HP:99,999,999
防御力:500,000
耐性:全属性無効、物理耐性99.9%
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(うわ、チートかよ。……まあ、俺ほどじゃないが)
俺はニヤリと笑い、そのステータスを【編集】する。
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名前:黒天竜
HP:1
防御力:0
耐性:なし
追加弱点:小石が当たると死ぬ
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編集完了。所要時間、0.1秒。
俺は足元に転がっていた、指の先ほどの小石を拾い上げ、黒天竜に向かって、ひょいと投げた。
コロコロ……と、小石は放物線を描いて飛び、黒天竜の巨大な鼻先に「コツン」と当たった。
――その瞬間。
世界から、音が消えた。
山のように巨大だった黒天竜の動きが、ピタリと止まる。そして次の瞬間、まるで風化した砂の城のように、その巨体がガラガラと崩れ落ち、光の粒子となって霧散していったのだ。
「「「「…………は?」」」」
ゼイドも、セラフィナも、城壁で見ていた冒険者たちも、全員が口をあんぐりと開けて固まっている。
俺はそんな彼らに背を向けて、伸びをした。
「さてと……。依頼達成、と。報酬はもらっとくぜ」
「ま、待て……! 待ってくれ……!」
震える声で呼び止めたのはゼイドだった。
「い、今のは……なんだ……? 一体、何をしたんだ……?」
俺は振り返り、最高の笑顔で言ってやった。
「さあな? ただのFランク冒険者だが?」
ざまぁみろ、と内心で毒づいて、俺はギルドへと歩き出した。
背後で、美少女魔術師セラフィナの顔が、戸惑いと、恐怖と、そして羞恥と……ほんの少しの“熱”で真っ赤に染まっているのには、まだ気づかないフリをしておいてやった。
こうして、後に「神殺しの石投げ(ゴッド・スロー)」と語り継がれる、俺の伝説はまだ始まったばかりだ。




