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第四話 初めての血、初めての勝利

今回の第4話では、主人公カイがついに 初めての勝利 を掴みます。

相手はゲームではお馴染みの「スライム」ですが、異世界のスライムはグロテスクで恐ろしく、死を覚悟するほどの強敵。


ゾンビのような身体を持つカイは、何度も致命傷を受けながらも《不死再生》により立ち上がり、泥臭くも核を狙い続けます。

「死なない」という不死スキルの現実と恐怖、そして 「冒険者としての第一歩」 を描いたエピソードです。


「異世界転生×迷宮サバイバル×不死チート」という組み合わせに興味がある方はぜひご覧ください!

湿った通路に、ぬめった音が混じった。

 耳を澄ますまでもなく、あの不気味な存在が近づいてくるのが分かる。

 篠宮カイは壁際に背を押しつけ、呼吸を殺した。


(また来た……スライム……)


 全身の筋肉がぎこちなく強張る。

 額から流れる汗が頬を伝い、顎から滴り落ちる。

 頭の中では繰り返しイメージしてきた。

 ――突進をかわす。横へ逃げる。爪を振るう。

 だが実際にできる保証はない。


 ぬるりと半透明の塊が通路の奥から現れる。

 水晶を濁らせたような体内で、赤黒い核が脈打っていた。

 ゼラチン状の体が床を這い、粘液が滴って水たまりを作る。

 鼻を刺す酸っぱい臭気が広がり、胃の奥がひっくり返りそうになる。


「……やっぱり、ゲームと違ってグロいんだよな……」


 無意識に呟き、喉が震える。

 だが逃げるわけにはいかない。

 次に遭遇したら戦う――そう決めていた。

 心臓が早鐘を打ち、胸を圧迫する。


 スライムが跳ね上がった。

 重い塊が弾丸のように迫る。


「っ……!」


 横へ転がる。

 イメージ通り、かすめて通過――のはずだった。

 だが実際は遅く、肩口に衝撃を受けた。

 骨が軋み、肺の空気が押し出される。


「ぐっ……!」


 鈍い痛みに視界が一瞬揺れる。

 だが倒れない。

 踏ん張って体を起こし、反射的に腕を振るった。


 爪がゼリー状の表面を裂き、ぬるりとした体液が飛び散る。

 腐臭が鼻を突き、吐き気をこらえながら再び振り下ろした。

 爪先に絡みつく粘液はぬめりと重く、まるで捕食者に引きずり込まれているかのようだった。


 スライムは大きく揺れ、ゼラチンの塊を震わせる。

 中の核が赤黒く光り、一瞬だけ動きが鈍った。


「……核……やっぱり、あれを壊せば!」


 ゲーム知識と現実が結びついた。

 狙うべきは表面ではなく中心。

 だが容易ではない。


 スライムは体をぶるんと震わせ、飛び散った欠片がすぐに戻って合体する。

 そして再び弾丸のように跳ねた。


「くそっ!」


 壁際に飛び退く。だが反応が遅れ、胸に直撃を受けた。

 背中が岩壁に叩きつけられ、視界が白く弾ける。

 石畳に頭を打ちつけた衝撃で、星が散るような閃光が走った。


 骨が折れたと思った。

 だが立ち上がれる。

 肺が焼けるように痛むのに、呼吸は戻る。

 体はまだ動く。


(……やっぱり、俺……死なないんだ……)


 恐怖と安堵がないまぜになった感覚に胸が震える。

 震えは止まらない。だがその震えの中に「次はやれるかもしれない」という奇妙な期待が混じっていた。


 爪を突き出す。だが核を狙うには正確さが要る。

 粘液にまとわりつかれ、指先が重くなる。

 腕に絡みつく冷たさに鳥肌が立つ。


「気持ちわりぃっ……!」


 叫びながら壁に叩きつけ、強引に振り払う。

 爪先に絡みついた粘液を振り切り、勢いのまま核へと突き立てた。


 ――ザクリ。


 鈍い手応え。

 スライムが大きく震え、体が崩れ始める。

 赤黒い核が割れ、内部から濁った液体が飛び散った。


 腐臭と粘液が周囲に広がり、足元はぬるぬると濡れた。

 湿気に混じった鉄の匂いが鼻をつき、胃の奥がひっくり返る。

 それでももう動かない。


「……やった……のか……?」


 静寂が戻る。

 聞こえるのは天井から落ちる水滴の音だけ。

 カイは膝から力が抜け、ずるずると座り込んだ。


 肩で荒い息をしながら、自分の手を見る。

 爪には粘液がこびりつき、どす黒い核の破片が刺さっていた。

 生臭い匂いに吐き気を覚えながらも、目が離せなかった。


「……勝った、のか……俺……」


 信じられない気持ちだった。

 最弱モンスター相手にここまで苦戦した。

 けれど、それでも「倒せた」という事実は重い。


 胸に手を当てる。

 痛みはまだ残っているが、致命的な苦しさは消えていた。

 鼓動は鈍く、しかし確かに力強く刻まれている。


「……これが《不死再生》ってやつなのか……」


 小さく呟いた言葉は、湿った空気に吸い込まれていった。


 恐怖は消えていない。

 むしろこれから先、もっと強い敵と遭うのだろうという予感に、背筋が冷たくなる。

 だが、初めて勝てた。

 たとえ泥臭く、血と粘液にまみれてでも。


「……やっと、一歩だな。」


 カイは立ち上がった。

 足元の粘液を踏みしめながら、震える呼吸を整える。

 通路の奥は暗く、先が見えない。

 だが、恐怖だけでなく「次はどう戦うか」という考えが浮かんでいた。


 爪を振るイメージを繰り返す。

 動きを思い返し、次に備える。

 その姿は、まだ未熟で、不格好で、必死だった。


 湿った空気の中、カイの荒い呼吸が小さく反響する。

 苔の緑光が爪先に淡く照り返し、粘液に濡れた爪がぎらりと光った。


 ――けれど確かに、そこには「冒険者」としての第一歩が刻まれていた。

第4話をお読みいただきありがとうございます!


今回は――


最弱モンスター「スライム」との再戦


《不死再生》を実感するシーン


泥臭くも初めての勝利を掴む瞬間


を描きました。

「ゾンビ主人公が努力で強くなる」路線を目指しているので、最初から無双する物語とは違い、かなり泥臭い戦いになっています。


次回は、戦闘の後に訪れる 迷宮生活(飢え・疲労・次なる敵の脅威) に焦点を当てる予定です。

不死の身体でも「生存」は簡単ではない――その現実が描かれる回になります。


引き続き、ブックマークや感想で応援していただけるととても励みになります。

今後も「ゾンビのような主人公が、不死スキルと努力で生き延びる迷宮冒険」をお楽しみください!

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