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前編 第一章 初めての一人旅 /  第二章 突然の再会

第一章 初めての一人旅

 あ、充電器を忘れるとこだった、さて、これで明日からの一人旅の準備はいいかな?

 考えて見ると、これが初めての一人旅行だな。この夏が終わったら、受験の追い込みで遊べなくなる。父さんがその前に、自分がやりたい事は何かを考えてこいと言ってくれた。

 母さんが亡くなって三年が経つ。母さんの地元の九州には、それからなんとなく行かなくなっていた。今回の旅行も母さんとの思い出を振り返るためでもある。

 母さんとの最後の思い出は、今まで家族一緒に九州に行ってたから、次は二人で行こうって指切りしたことだった。 僕はじっと自分の小指を見る。

「結局、行かなかったな」

 あの時は、中学生にもなって指切りなんて子供っぽいと思ってたけど、しっかりとしとけば良かった。

「まさか最後になるなんてね」

 旅行の行き先を決めたのも母さんとの約束がきっかけだった。

 九州にいる親戚とは仲が悪い訳ではないので、この旅行では父さんが連絡を取ってくれて、泊まらせてもらえることになっていた。

 机の上に置いてあった青春十八切符を、財布にいれる。そういえば父さんと母さんは電車の旅が好きだったから、僕が生まれる前は良くこの切符を使っていたと言っていた。福岡からの移動に、この切符を使うのはどうかと、提案してくれたのも父さんだった。

 十八切符は普通電車が乗り放題の切符で、乗り降り自由な所が良い。二〇二四年から三日か五日連続して使わないといけなくなったが、何より安い。春・夏・冬休みなどの長い休みしかないのが残念な所だ。

 準備をしていると明日会う叔父から電話がかかってきた。

「勇斗、福岡空港に着くのは明日の昼くらいだったか?」

「そうだね」

「分かった。着いたらロビーで待っといていいからな」

 明日、福岡空港に着いたらそのまま叔父さんの家に泊まる予定にしていた。

「うん。明日はお願いします」

 そこで電話を切った。熊本では熊本ラーメンが楽しみだし、大分の祖父母は叔父さんより会ってない。確か母がなくなったお葬式以来ではないだろうか?元気にしているかな?

 次の日、昼には福岡空港に着いていた。叔父さんが車で来るには少し時間が合ったので、空港の中を少し歩いてみると二階にラーメン屋が何軒かあった。熊本ラーメンは考えていたけど、福岡は博多ラーメンが有名な事をすっかり忘れていた。ラーメンの匂いを嗅いでお腹が空いてきてしまった。叔父さんが来るまでラーメン屋を検索してみよう。ここにいたらもっとお腹がすくから、エントランスに移動することにする。

 エントランスに座って、博多ラーメンの店を検索していると、近くで女性の甲高い声が聞こえてきた。

「え?来られないってどういう事?もう私は空港まで来てるんだよ。私、楽しみにしてたのに」

 振り返ると、女性が信じられないという表情をしていた。あの女性はどうしたのだろう。なるべく目線を合わせないようにして、聞き耳を立てる。

「何?キャンセル料は払うから許せって、何を言ってるの?」

 どうやらドタキャンされたらしい。気の毒に。

「ちょっと待って、まだ話は終わってない。…切られた」

 女性の相手は一方的に切ったらしい。そこでスマホが鳴った。叔父が駐車場に着いたらしい。向かう途中、ちらっと女性を見ると、女性は涙を流していた。

 駐車場に向かうと叔父が手を振っていた。

「おう、勇斗。久しぶり、元気しとったか?」

「うん。元気だよ。これ、父さんから」

 父さんから渡されたお土産を、叔父に渡す。

「気を使わせてしまってありがとうな。哲司さんにもよろしく伝えといてくれ。行こうか」

 叔父の車に乗って空港を出ると、住宅街がすぐに広がっていた。

「勇斗、どうした?珍しいものでもあったか?」

「空港の周りにこんなに住宅があるんだなと思って」

「普通じゃないのか?」

 叔父は不思議そうにしている。

「らしいよ。騒音問題とかで少し外れた所にあるみたいだよ」

「そんなものなのか?ところで勇斗、明日は大分に行くんやろ。今日の予定は何かあるか?」

「特に考えてないんだ。ラーメンは食べたいけど、どっかおすすめある?」

「おぉ、分かった」」

 叔父はその後、おすすめのラーメン屋に連れて行ってくれた地元とは違うこってりしたラーメンで美味しかった。

 食べた後に家に向かいながら叔父が観光案内をしてくれた。昔、母と一緒に来た時にも説明してくれていたはずだが全く覚えてない。知らない景色、知らない味、知らない歴史、旅行に来たんだなと感じた。


 第二章 突然の再会

 叔父の家は近くに海岸があって、家からも海が一望できる景色の良い場所にあった。

「まだ二時か」

 僕は車の時計を確認して外にでた。車の中は涼しかったが外に出ると汗がブワっとでてくる。 

「勇斗、奥の部屋を使いなよ」

「はーい」

 両親と何回か来ているので、部屋の場所は覚えている。部屋に荷物を置いて座りこむと、疲れたのかそのままうたた寝してしまったようだ。気づいた時には夕方くらいになっていた。

 居間にいくと叔父がテレビを見ていた。

「おう起きたか。晩飯にはもう少し時間が、あるがどうする?」

「せっかくだから海岸に行ってみようと思うけど、良いかな?」

「ええよ。暑いから気をつけなよ。あまり遅くならないようにな」

「分かった」

 外に出ると、叔父が言うように暑かった。この時期はどこに行っても焼ける様な暑さで、夕方でも変わりはない。しかし、地元とは違う潮の香りが気持ちを高揚させる。

 海岸に着く頃には喉がカラカラに乾いていた。近くの自販機でジュースを買い一気に飲み干す。

「はぁ、うまい」

 海岸を見渡すと、夕暮れ時だがまだ人が多かった。潮の香りを嗅ぎながら歩いていると、木陰の下にベンチを見つけたので座った。

 人の楽しげな声と共に波の音が聞こえて気持ちが落ち着く。しばらく海を眺めて座っていると、いつの間にか辺りが暗くなって来た。慌てて叔父の家に戻ろうとしたが、帰り際の海岸で、一人の女性が泣いているのを見かけた。何があったのか心配になり、思わず声をかけてしまった。

「あの、どうかしましたか?」

 顔を上げた女性は目を真っ赤にしていたが、涙を拭いて精一杯の笑顔を僕に見せてくれた。

「あ、気にしないでください」

 あれ?この人どこかで見た事あるぞ。あ、空港で見たんだ。あの大声を出してた人だ。声をかけたのはいいけど、どう話をすれば良い?

 ん?なんか女性がこっちをじっと見てる。

「もしかして勇斗君?」

 不意に名前を呼ばれとても驚いた。

「そうですが、なんで名前を知っているんですか?」

 女性の表情は急に明るくなった。

「やっぱり勇斗君か、私の事は覚えてない?桜だよ」

 桜・・・昔こっちに来た時に、何度か遊んでくれた年上のお姉さんの名前だった。言われてみれば面影はある。

「え、桜ネェちゃん。嘘、言われるまで気づかなかった」

 彼女の口元が緩む。

「勇斗君。久しぶりだね。どうしたの?」

 僕は一人旅に来てる事を、簡単に桜に説明した。

「へぇ、そうなんだ。今日の昼に飛行場にね」

 桜は何かを感じとったようで、苦笑いを浮かべた。

「まさかだけど、聞いてた?」

 ゆっくりと頷いた。

「あんな所で、大声出して恥ずかしいよね」

 桜はため息をついて、地面を見る。

「桜ネェちゃん何があったの?」

「明日から旅行に行く予定だったんだけど、ドタキャンされたの。思い出したらまた泣きたくなってきた」

 桜はまた泣きそうな表情になってきた。しまった。質問間違えた。正直、女性のこんな状況には慣れていない。

 軽くパニックになってしまって、慰めようと必死に喉から言葉を押し出した。

「旅行が楽しみだったのなら、一緒に行かない?」

 僕は何を言ってるんだ?自分が言った言葉でますますパニックになってしまった。

「あ、ほら、時間があるなら、保護者的な感じで付いてきてくれたら、ありがたいなと思って」

 桜は無言で何かを考えている。無言が怖い。

「やっぱり、普通電車で旅行って面倒だよね。うん。忘れて」

 桜はちょっと待ってと、手で静止した。

「それ、おもしろそうね。本当に着いて行っていいの?」

 桜の言葉に耳を疑った。

「え、え、ネェちゃん本気?」

 桜は頷いた。妙な事になった。自分から言い出した事だから断るのも変だよな。

「とりあえず、叔父さんと父さんに聞いてみるよ」

「私、おばさんの電話番号なら分かるよ。今から電話するね」

 言いながら桜は電話を始めた。僕も父に電話して事情を話す。もちろん桜が泣いていた事は伏せて説明した。

 父は桜の事を覚えていて、すんなりと納得した。桜も電話が終わったようだ。

「良いって。泊まる所も、勇斗が泊まるおじいさんの所に連絡を入れてくれるって、そうと決まったら明日の準備に戻るね。明日は何時出発?」

「七時代の電車に乗るつもり。六時に叔父さんが、送ってくれる予定になってる」

「分かった。そしたら私もその時間に行くね。ところで切符はどうするの?」

 当然の質問だ。途中で降りるとなると毎回切符を買うことになる。毎回買っていたらお金がかかってしまう。僕は一八切符の事を簡単に説明した。

「なに!その切符!すごく楽しいじゃない!」

 桜の勢いがすごくて、一歩後ずさってしまった。

「そしたらまた明日」

 桜は出会った時と違って、笑って去っていった。僕は呆気に取られてしまって、トボトボと叔父の家に帰ったら、叔父さんに面白いことになったなと笑われた。

母との思い出を巡る旅の物語を書きました。旅先で再会や約束を通じ、主人公は自分と向き合いながら答えを見つけていきます。楽しんでいただけたら嬉しいです。ぜひ、ご感想おまちしております

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