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初めの初めの一週間……の始め!。第三話

 俺は二か月流されここに流れ着いたが宿と職(お手伝い)を手に入れた。あとは、一週間頑張れば帰る事が出来る!

 康さんと俺は海辺に立つ平屋の海原家に戻ってきた。

「ただいま!」

「お邪魔します」

「おかえりー!」

家に入ると、エネルギー供給できそうなほどエネルギーのオーラを纏い、エネルギッシュな笑顔をした、智花ちゃんがお出迎えをしてくれた。つまり、智花ちゃんは太陽である!

あー、ここに住みてー。

「あ、さっきのおじさん」

子供が無邪気に人を傷つける。さっき俺はここに住みたいと言ったが訂正する、妹はもうこりごりだ。なんていう兄の気持ちをぐっと心にしまい込み、十五歳なりの大人な対応をとってみる。

「残念やったな俺は十五や。おっさんやないで」

「まぁ、お兄ちゃんて呼ぶと康弘と被るから、しょうがないんじゃない?」

「智花ちゃん、俺は海心ていうから、カイお兄ちゃんと呼んでくれや」

俺は膝をたたみ、智花ちゃんに頭の高さを合わせて頼んでみた。

「カイおじちゃん」

満面の笑みを浮かべておじさん呼びをしてきた。

俺の顔は、家族や親せき曰く、おばあちゃんの若いころに似ているらしい。つまり、智花ちゃんから見たら、俺と俺のおばあちゃんの顔は、おじさんに似ているらしい。”おじさん”という魚がいるが、それに似ているように見えていても、意味はあまり変わらない。

「うん、惜しい!」

俺は”惜しい!”よりも”おいしい!”と思った。やはり天丼ネタは基本でも面白い、ましてや幼女にでもできてしまうようなボケである。とてつもなく簡単便利な笑いだと思う。

「玄関に留まるのはこれくらいにして、畳の部屋に行こうか」

康さんが俺たちに移動を促した。

「はい」

俺は返事をして、イリジウム製の下駄を脱ぎそろえた。

「はー、マジで足軽くなりすぎて、天に続いてる階段上れそうやわ!」

俺は康さんに付いて行く形で和室へ歩き始めた。

「二か月間登りっぱなしだったんだからもう控えたほうがいいんじゃない?」

「そもそも二か月間登りっぱなしなのはなんで生きてるのかわからんレベルですよね? この島出たら病院行こ」

「この島は病院ないからね。あるとすれば、海命島に診療所が一件あるだけだからね」

「俺みたいな例はなかなかないと思うんで、でかい病院にかかるつもりですよ」

 智花ちゃんが和室の扉を勢いよく開けた音が「カン」と聞こえてきた。そして智花ちゃんは、夕方の子供向けアニメの付いたテレビの前に滑り込み座った。

俺もそれに続くように智花ちゃんの後ろに座った。

「あ、これ懐かしいな俺がちっちゃいころ見てたやつや! まだ続いてたんやー」

テレビに映っていた子供向けアニメに懐かしさを覚え、言いたくなったことを口に出した。

「本土から結構離れてるのに映るんやな。さすが、「N〇K」の「E〇レ」全国くまなくやってはりますな~」

「受信料は払ってるからね。活用させてもらってるよ。そういえば、今日はご飯ママが作ってくれたから、夕飯お義母さんに作ってもらわなくていいの忘れてた! ちょっと子供たち見ててもらえる?」

「はい大丈夫です! 俺こう見えても妹居たんでその辺はだいたいわかります!」

「じゃあよろしくね!」

そう言って康さんはまたお義父さんの家へ向かった。

 俺はお兄ちゃんの康弘くんの姿が見えないことに気付き家の中を探し始めた。

しらみつぶしに探していると、廊下の奥の部屋からエンジンのような音がした。それが気になった俺は部屋の扉をゆっくり5cmほど開け、中を覗き見た。

部屋の中には楽しそうにW〇iのレースゲームをしている康弘くんの姿があった。

「こんこん。失礼しまーす!」

「なんだ、おじさんか」

「さっきからなんで俺がおっさんおっさん言われなあかんねん! この島の平均寿命は三十七歳なんか?」

「本当にそうなら、お父さんは現在進行形で平均を上げまくってることになるね。というかなに? かまちょなの?」

「ゲーム楽しそうやな思っただけやで」

「じゃあ、やる?」

「いや、智花ちゃん見とかないといけんから遠慮しとくわ。あと、どっか行くなら声かけてな! 一応見といてって頼まれた身やからな」

「さっきから「やからな」とか「やで」とか関西弁すごいけど、この辺じゃあんまり使わないほうがいいよ。なんか嫌われてるみたいだから。一年とちょっと前に大阪の大学に合格した人が行くのをかなり止められてたくらいには」

「あんま言い方よくないとは思うけど、この島の人は臆病なんやな」

「ううん、それは違うと思うよ。東京に出ることは全然止めないしね。なんでか、関西がかなり嫌われているみたいだから」

「ようわからんけど、わかった。なるべく標準語で喋るようにするわ。ご忠告痛み入るで」

そう言って俺は和室に戻った。

 和室の扉を開けてみると、智花ちゃんは変わらずテレビを食い入るように見ていた。

テレビに映っている映像を見たところ、エンディングに入り終わろうとしているところだった。

俺はまた智花ちゃんの背後に座った。

「ただいまー!」

今までやっていたアニメが終わり、次の番組が始まったところで、康さんが帰ってきた。

そのことに気付いた瞬間、智花ちゃんは玄関に向かって走っていった。

「おかえり!」

また智花ちゃんの元気な声が聞こえてきた。本当に聞くだけで二カ月たっていることを忘れさせてくれる懐かしさのある声だ。

 ”妹は元気かね? 俺は希望が見えて、元気いっぱいだよ! この調子なら高校にも行けそうなくらい”

そんなことを考えながら智花ちゃんを真似て、玄関に歩いて向かった。

「お、おかえり……なさい?」

「なんで疑問形なの?」

「だって、俺居候みたいなもんだから、お帰りって言える立場なのか、わからないというか、なんというか。今の俺って何なんですか?」

「こっちに聞かれても知らないんだけど。自分で居候とか言ってるんだから、答え出てるんじゃないの?」

「そもそも居候って何ですか?」

「意味わからないで言ってたの?」

「いそうろうってなに?」

「居候」という言葉に興味が出たのか、智花ちゃんが康さんに首をかしげて身を聞いた。

「居候はね、このお兄ちゃんみたいな人のことを言うんだよ。そうだよね?」

「そうか、俺は居候ってやつなのか! あ、そういえば、この島って関西弁禁止区域って聞いたんですけど、ほんとなんですか?」

「禁止区域とまではいかないけどみんな怖がってるね。なんでそんなこと聞くの? 関西人なの?」

「康弘くんがちょっとしたごたごたがあったって聞いたのと、自分が関西人でこてこてとまでは言えない関西弁の使い手だからですね。やっぱり標準語の方がいいですかね?」

「わしが思うに、関西弁はこの島の人にとって、言語を侵略して関西に取り込む兵器みたいに思っとるんちゃうかな?」

「下手な似非関西弁使わないでください、ぶっ(ころ)がしますよ? あと、最近の関西弁使いの高校生はわしなんて一人称使いませんからね。知ってました?」

「命の恩人に物騒な物言いだな。自分の立場わかってるの?」

「いきなり態度が大きくなりましたね。言っておきますけど俺は奴隷ではないですからね。あと、疑問符合戦やっと終わりましたね」

「疑問符合戦ってなに?」

「疑問符の付いた言葉に疑問符の付いた言葉で返すのを繰り返した状態のことです! 今思いつきました!」

 そんなふざけた問答、もとい問問を続けていると、俺の腹が「ぎゅるる、ぐー」と、消化しているのか空腹を訴えているのかわかりにくい虫が鳴いた。

「もうそろそろ晩御飯の用意するから、智花と康弘と一緒に待っててくれる? 海心くんの腹の虫も食べたいと言ってるみたいだし」

「わかりました。考えてみると俺って二カ月ぶりに飯にありつけたんですね。あれ、なんで死んでないんだ? 意識ないうちに生魚食ったかな? それはそれで死にそうだけど」

「おにいちゃんどこ?」

また、首をかしげて智花ちゃんが聞いた。

「さっき奥の部屋でゲームしてましたよ」

「じゃあ、二人とも奥の部屋に行っておいで」

「うん。いってくる」

智花ちゃんが奥の部屋の方へ、またダッシュして行った。俺も負けじと、ほどほどの速度で廊下を駆けた。

智花ちゃんが奥の部屋の扉を勢いよく「ダン!」と開けた。

部屋にはゲームコントローラーを持った、目を見開いてこちらを見ている、康弘くんが居た。

「おにいちゃんいたー」

「お邪魔するね」

そう言って俺と智花ちゃんは、断りもなく部屋に入った。

康弘くんは不機嫌そうな顔をした。

「俺のこと嫌い?」

「いや、そうじゃないんで大丈夫ですよ」

さっきとは打って変わって残念そうな声をしてそう言った。

俺は察した。妹がいることによって得る弊害はとてつもなく大きい物なのである。

なぜかと言えば、妹とは兄を害する生き物だからである。年を重ねればそこまでではないのだが、妹が幼少期の場合、問題を起こしてもほとんどが兄の責任となり、喧嘩をすれば兄が怒られ、ひとたび興味を持たれては横取りまでされる、兄だからと我慢を強いられるなど、兄にとって嫌なことばかりなのである。だから、妹が嫌い、消えてほしい、お兄ちゃんお姉ちゃんが欲しかったとなってしまうのである。

妹が中学生や高校生になり、さすがに妹も怒られるようになりはするが、そこからは、これまでに培った罵倒の言葉で直接攻撃をしてくるようになる。厄介なこの上ないな。

俺はこれらの考えを持ったうえで同情し、肩をたたいてこう言った。

「これからも頑張れよお兄ちゃん」

「もしかして、あなたも兄なんですか?」

「そうだよ! これから消えてほしいだとか、お兄ちゃんお姉ちゃんが欲しいってなるかもしれんが、頑張れよ!」

「そんなに大変なんですか?」

「大変なのは妹が小学校低学年ぐらいまでや。そこからは多分ちゃんと妹が怒られるはずやから、もうちょっと頑張れ!」

「高学年からは大丈夫なんですか?」

「いや、そこからは言葉の直接攻撃が増えるで、気ぃ付けや」

「兄って大変ですね」

「そうやな。今だけなら俺がお兄ちゃんになってやれるから、好きなだけ甘えときや。お兄ちゃんやりすぎると甘えるのが下手になるからな」

俺は先輩兄貴として、少しでも兄貴が楽になるように対応してみた。

「ありがとうございます」

「もう敬語はええから、ホンマのお兄ちゃんとでも思って接してくれへん?」

「わかった……」

「なぁなぁ、これって何のゲーム?」

「えっと、よくあるレースゲームです、だよ? コントローラーあるし一緒にやる?」

「やるやる!」

俺は康弘くんから、コントローラーを受け取った。

「わたしもやりたい」

智花ちゃんが入りたい旨を伝えてきた。

「智花ちゃん! 俺と一緒にやる?」

そう言って俺は妹の、智花ちゃんの機嫌を損ねないように一緒にやることにした。

「やる」

「じゃあ、ここ座り」

俺は胡坐をかき、膝を叩いて智花ちゃんを膝に座るよう促した。

すると、智花ちゃんは俺の膝にちょこんと座った。少し懐かしさを感じた。

「はい、コントローラー」

俺は智花ちゃんの脇の下を通して、コントローラーを渡した。

「いいんですか?」

「ええのええの、もう久しくこんなことないから、懐かしい感じやわ。智花ちゃんちょっと握るね」

俺は智花ちゃんが握っているコントローラーを手の上から軽く握った。

そんなこんなで、三人でレースゲームを一時間半ほど楽しんだ。

 勝敗は、二十対十の俺たちの敗北に終わった。

 レースゲームを三十ゲームほど遊んだところで飽きが来て、ほかのゲームをしようとゲームのディスクケースを二人で見ていたところで、康さんがこの部屋の扉を開けた。

「晩御飯の用意できたよ。あと聞き忘れてたけど、アレルギーってある?」

「杉とヒノキですかね。食物アレルギーはありませんよ」

「そ、そうなんだ花粉症大変だね」

予想外の返答に康さんは少し動揺した。

「お父さん、夜ご飯なに?」

智花ちゃんが聞いた。

「今日はカレーとハンバーグだよ」

「子供の好きな物をとりあえず作りましたみたいなメニューですね」

「僕のレパートリーは少ないからね。いつもは信代おばあちゃんが作ってくれてるよ」

「あ、そうですか。子供二人の栄養バランスが偏らなさそうでよかったです」

「ごめんなレパートリー少なくて」

康さんがかがんで我が子二人の肩をたたき、言った。

「毎日仕事大変そうだしいいよ、別に」

康弘くんがかばうように言った。

「すみません、水を差したようで。康さんが頑張って作った晩御飯を食べましょうか」

「そうだね、もうちょっと人のことを思いやって言葉を選ぼうね」

僕は海原家の食卓にお邪魔し、空きっ腹を満たした。康さんの料理は家庭的で美味しかった。

 食事を後にした俺は三人の後に風呂に入った。設備は住んでいるマンションの物とさほど変わらず、そういった点で困ることはなかった。ついでに自分の体を鏡に映し、確認したが、傷はなかった。

 お風呂から出ると、康さんの物なのかTシャツにパンツ、短パンがドラム式洗濯機の上に置いてあった。

「すみません。これ着てもいいんですか」

脱衣所の扉を頭が通るぐらいに開けて、康さんに確認をとる。

「そういうことだよ」

居間にいた康さんがこちらに返した。

 どうやら、着るものを置いておいたんだから、察してくれということだったらしい。

 ”我ながら、こんなことも察せないのはな……。でも、確認は大事だしな”などと、言い訳を並べてみたりしながら、服を着た。

 服を着た俺は、脱衣所を出て、居間に行くと壁にかかった時計が午後九時を指していた。

「お風呂はどうだった? 何か不便はなかったかな?」

居間にいた、康さんが俺に聞いた。

「はい、大丈夫でしたよ。家で使っているのと同じものだったので」

「それにしても、関西の人なのに標準語に切り替えるのが早いね」

「僕、親戚がたくさんいるんですけど、中には関西弁が嫌いな人もいたので、自然とできるようになりました」

「それなら、ここでもぼろを出さずに過ごせそうだね」

康さんが壁掛けの時計に目をやった。

「もう九時か、智花を寝かせなないと。智花、絵本読んであげるから、布団の部屋に行こうか」

康さんが智花ちゃんに呼びかける。が、智花ちゃんは手に持った人形を離さず、「うぅん」と首を振ってしまう。

「こういう場合って困りますよね。僕、妹がいるんですけど、妹の場合は隣で興味を持つ持たない関係なく絵本をゆっくり読んでいれば、自然とこちらに興味を持ってくれるので、続きは布団の部屋で読もうねって言えばいけます」

俺は右手の人差し指を立てて、自慢をするように説明した。

「じゃあ、それを試してみようか」

「もしだめなら、読みながら抱っこして連れていけばいいですし」

「もしかして今の話、そんなに効果なかったりする?」

「違いますよ。私、失敗しないので」

「なんか、麻沙美ちゃんがそんなこと言っていたね。流行ってるの?」

「麻沙美って人が誰か知りませんけど、そこそこ有名だったんじゃないですかね。知りませんけど」

「知らないんだ……。じゃあ、絵本とってくるね」

そう言い残して、康さんはどこかの部屋に消えていった。

 それはそうと俺は今思い出したことを智花ちゃんに試そうと話しかける。

「なぁ、智花ちゃん。おねんねするところって、どこかわかる?」

「あっちだよ」

そう、智花ちゃんは指を廊下の方に向けて言った。

「あっちってどこ? 教えてくれへん?」

わざとらしく、わかりやすく、困った風に聞いてみた。

「こっち。きて」

智花ちゃんは飛び上がり、寝室の方に小走りして行った。

俺は狙いどうりに動いてくれたことに、安堵とありがたさを感じながら、智花ちゃんを追いかけた。

「あれ、眠くなったの? 偉いね。自分でおねんねしに来るなんて」

ちょうどいいタイミングで康さんが寝室と思われる部屋から出てきた。

「康さん。そのまま連れてっちゃってください」

康さんは智花ちゃんを抱え上げ、出てきた部屋に入っていった。

 それを見た俺は、とりあえず和室に戻り、寝かせてもらっていた布団を敷きなおした。

「もう寝るの?」

康弘くんが布団を敷いている姿を見て、聞いた。

「頭から血が出てたし早めに寝て、明日何ともなければ畑のお手伝いに行きますよ」

「そこまで聞いてない」

「はいはい」

まだ早い時間ではあるが、明日に備えて寝ることにした。

「じゃあ、おやすみ」

康弘くんに一応言い放って俺は寝た。

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