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9/14

 


 俺としては激動となった昨日のアレコレが終わって現在。

 俺は、未だに早朝であるにも関わらず、バスの座席で振動に揺られていた。


 当然の様に、隣の席には兄である雷斧が陣取っている。

 どうやら、俺が逃げ出さない様に、と確保する為にそうしているみたいだが、瞳の輝きだとか楽しげな雰囲気だとかは、まるで遠足を前にして期待感と興奮で眠れなくなっている子供の様でもあった。


 …………そう言えば、子供云々で言えば、一応は成人している兄貴よりも、俺の方が歳上、って事になる、のか?

 向こうで過ごした分の年月を加味すれば、余裕で20歳は超えているのだし。

 肉体的な成長の類いは遡行されてしまっている為に、現在は精神的なモノだけ、とは言え、割りと擦れてしまっているのは自覚している。

 ぶっちゃけ子供扱い、歳下扱いされる事に抵抗感が無いでは無いし、不快感も無いでは無い。


 だが、こちらの世界でそう扱われる、と言う事は、一応は人間扱いされている、と言う事でもある。

 …………なれば、ある程度は黙って受け入れておくべきか、と内心で毒にも薬にもならない決断を一応は下しておく。


 暫しの間そうしてバスに揺られていると、とあるバス停にて兄貴がブザーを鳴らす。

 特に何かしらの特徴が在る訳でも、付近に怪しげな建物が在る訳でも無いソコで降りた俺達は、兄貴に先導される形でそこから少し道沿いに進み、その後路地へと入ってゆく。


 所謂、路地裏と言うヤツを歩んで進む。

 時間にして十分程度、少々歩いた、と言う程度でしか無かったが、それにしても最寄りのバス停からそこまで歩くのならば、他にも何かしらの移動手段が有ったのでは?とツッコミを入れたくなって来た頃。


 どうやら到着したらしく、兄貴の足が漸く止まる。

 が、俺達の眼前に広がっているのは、設備万全な運動場、では無く、最新鋭の施設が揃った研究所、でも無く、怪しげな魔力が迸る祭儀場、と言う訳でも無い、タダの廃墟、としか言い様の無い寂れたビルであった。


 恐らくは、元はオフィスビル、と呼ばれる種類の建物であったのだろう。

 が、二十年程前に起きた『アレ』により、一時期この国は何処も大変に荒廃する事を余儀なくされた。

 そしてその傷口は未だ完全には癒えておらず、日本各地、それこそ首都東京ですら、この様な廃ビルの類いはまだまだ残されているし、何なら場所によっては最後尾に『群』が付く程度には残されている、と言う話である。


 そして、ソレは俺達の目の前に聳えるモノにも同様に言えるだろう。

 左右に数棟ずつ残されているその廃ビルは、見るからに誰も住んでいる様子も、ライフラインか生きている様子も見えない、文字通りの廃ビルにしか見えず、思わず確認の為に兄貴へと視線を送る事になってしまう。

 が、当の雷斧は、俺から向けられる訝しむ視線をモノともせずに、逆にニヤニヤと笑いながら特に説明する事もせずに目の前の廃ビル群の中の1つへと向かい、ズンズンと進んで行ってしまう。


 …………どう見ても、昨晩言っていた様な、御大層な装置や設備や技術が在る、とは思えない光景に、思わず踵を返して帰りそうになる。

 が、ここまで来るのに兄貴の案内ありきであった為に、元のバス停に戻る道筋に覚えは無く、また路地自体も入り組んでいる為に、流石に案内無しにて戻る事は難しいだろう、と判断せざるを得ない。

 ならば、最早仕方在るまい、と覚悟を決めて雷斧の後を追い掛け入って行った廃ビルへと足を踏み入れる。


 すると、流石にあのまま放置するつもりは無かったのか、入り口の死角になる場所に兄貴が腕を組み、ニヤニヤと笑いながら寄り掛かっていた。

 流石に、こんなに早朝に、半ば無理矢理連れ出された事への腹いせも相まって、組んで投げ出されていた脛へと目掛けてローキックを繰り出してやる。



「〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?」



 どうやら、改造人間であっても急所は変わらないらしく、その場で足を抱えて悶える雷斧。

 通常の廃ビルでそんな事をしようモノならば、埃まみれ泥まみれ必至である為に、多少とは言え溜飲の下がる思いであった。


 が、暫し放置して見ていて気付いたのだが、彼の身体はそこまで汚れている様には見えない。

 寧ろ、周囲もソレっぽく加工されてはいるが、廃墟特有の『人の手の入らなくなった空気』では無かった事に思い至る。


 …………となると、ここってやっぱりちゃんと人の手が入っている場所、って事か?

 でも、なんでまたこんな風に廃ビルで偽装する様な形に……?


 1人首を傾げていると、背後で雷斧が立ち上がる気配がする。

 どうにか、急所へのダメージを誤魔化せたらしく、漸く立ち上がって来たみたいだが、それでも痛みは強烈だったのか未だに涙目のままで若干プルプル震えていた。



「…………なんで、こんな風に偽装するンだ?と思っただろう?

 まぁ、その辺は初めて来る連中は、大概そう言う反応しやがるからなァ。

 教えてやらんでもネェぞ?」


「いや、別段必要に駆られている訳でも、知らなきゃどうにもならん訳でも無いし、特別興味が在る訳でも無いから、別に?

 大方、敵対してる『侵略組織』に拠点や本拠地を知られない様にする為に、わざと廃ビルに偽装しているのか、もしくは廃ビルを利用しているのか、のどっちかじゃないの?」


「……………………良し!取り敢えず入るぞ!

 ここは、見た目の通りに上は廃墟だから、オレ達が使える下に行くからなァ」



 どうやら、自身で説明しようと考えていた事を俺が先取りしてしまったらしく、兄貴が一瞬固まってしまう。

 が、次の瞬間には切り替えが終わったらしく、こちらに背を向けて廃ビルの中へと進んで行く。


 特に階段を登ったりする事も無く、1階部分を進んで行く。

 そして、暫く奥へと向かって歩いた先のとある壁の前にて、兄貴の足が止まった。


 一見、タダの壁にしか見えないソコ。

 しかし、兄貴がよく見れば何かしらの枠の様なモノが有る場所に手を押し付けると、僅かな振動音と共に内側へとずれ込み、横方向へと滑る様に開いて行く。


 無駄な所に無駄な技術力を注いでいるな!?と流石に驚いていると、ソレを成した張本人は特に気にした素振りも見せずにさっさと中へと足を踏み入れてしまう。

 ここまで来ているのだから、このまま帰るのは馬鹿らしくて出来ない為に、俺も続いて壁の中へと歩み出る。


 最初の数歩は灯りも無く、暗闇の中へと進む事となった。

 が、背後で再度振動音が発生し、微かに差し込んでいた光が途切れるとほぼ同時に、暗闇が光によって切り裂かれる事となる。


 思わず、手で目を庇う姿勢をとってしまう。

 が、賢者の石の効果により、即座に明順応が適応され、眩みかけた視界が急速にクリアな状態へと正常化して行く。

 その結果、俺の目の前には地下へと続いて行く階段が出現する事となっていた。


 …………どうせこうした演出?を加えるのなら、直接地下施設に入ってからの方が良いのでは?とは思ったが、口に出す事はせずに階段を降りる兄貴の背中に続いて進む。

 途中で折り返す事も無く、ひたすらに真っ直ぐに降りて行くその階段は、通常の建物であれば余裕で数階分に匹敵するであろう段数を降りてなお終点に届く事は無く、装飾も窓も無い上に地下である事も相まってその圧迫感は凄まじく、下手をしなくても精神的な負荷で発狂するのでは?と問いたくなる程であった。


 そうして階段をひたすらに降る事暫し。

 向こうの世界にてどうにか築き上げたマイマッソーボデー(笑)であればこの程度の運動量でも屁でも無かったのだが、生憎と若返ってしまっている現在のモヤシボデー(それでもダルダルのおデブちゃんよりはマシ?)ではそれなり以上の負荷となっているらしく、膝と腿に負担として顕現しそうになっている様に感じられる。


 当然、それらの体力的な負荷も心臓の賢者の石が常時回復させてくれているのだが、それでも完全に()から()を作り出す事は出来ない。

 今回の場合、消耗した体力や負荷の掛かった筋肉を修復するのに必要なエネルギー、謂わば食事を求めて空腹感と言う代償として俺に対して表出しかかっている。つまる所『腹減り(小)』が発生している訳だ。


 一応、家を出る前にも、母が用意してくれていた朝食を美味しく頂いていたのだが、やはりそれでは足りなかった様子。

 いや、寧ろ表現として適切な言葉を使えば、足りなかった、では無く強制的にエネルギーを得る為に消化されてしまったので、足りなくなった、と言うべきだろう。多分。


 …………やはり、基礎筋力がある程度無いと、このシステムは効率が悪い、か。

 向こうだと、必要に駆られて鍛えた後に、こうすればイケるのでは!?と思い付いての事だった為にどうにかなったが、やはりこちらでは勝手が違い過ぎる様だ。

 向こう並み、とは行かないながらも、それでもそれなりには鍛えないとダメみたいだなぁ、と内心で判断していると、どうやらこの長い降りも終わりに差し掛かって来たらしく、階段の終点として兄貴の肩越しに平面な床が見え始めたのであった。



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