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────ビッ!!!
またしても、ヤツの背中かは新たに生えた触手?が、高速にて撃ち出される。
最早、その速度では風切り音すら置き去りにするレベルであるらしく、射出の一瞬のみ何かを斬り裂いた様な音が聞こえるが、それ以降がこちらの耳へと届くのは、撃ち出されたソレが着弾した後、となる。
そして、当たり前の話になるが、そんな速度で撃ち出された大質量の物体を受けてしまえば、人間は普通耐えられない。
よくてその場で身体の一部が千切れ飛ぶか、もしくは当たりどころが悪くて身体が丸ごとバラバラになるか、と言った処だろう。
当然、その法則は俺にも適応される。
勿論、魔力による身体強化や賢者の石が作り出す命の水による強化並びに回復によって、一般人は当然として、並みの戦闘者よりは遥かに頑丈だ、との自負は在る。
が、それはそれとして、人間としての物理的な限界は存在するし、ソレを超えられるのは言ってしまえば改造人間の様な、そもそも人間を辞めている、みたいな連中しかいないだろう。
故に、と言う訳では無いが、一応、本当に一応枠組みとしては『人間』の範疇に居る(ハズ!)の俺の身体が耐えられる訳も無く、掠めただけで左手が半分程消し飛び、手首の半ばまで削られる羽目になる。
受けた負傷により激痛が発生し、脳裏と視界が真っ赤に染まる。
半ば反射的に、そこを抑えたくなるが、それは理性と戦闘本能によって無理矢理に屈服させ、無事なままであった右手にてミスリル銀の刃をすれ違いざまに、触手へと目掛けて突き立てる!!
流石に、幾度か受けている事も在って分かっていた事ではあるが、触手は脚程に強固には造られていない。
が、言う程に軟弱な構造はしていないらしく、少なくとも片手間にどうにか出来る程度の強度では無い。
とは言え、音すらも置き去りにする程の速度にて放たれた勢いを利用している為に、片手しか使えていない、とは言え、十分にダメージを与える事は可能となっている。
しかも、今使っていた刃は、その全体をわざと波打たせたモノとなっており、より傷口が大きく、複雑に広がる様に、と設計されている。
ソレを、勢いに任せて突き立てている事もあり、伸ばされた触手はその大部分が見ているだけで怖気が走る程に、痛々しい状態となっていた。
尤も、ヤツにとっては大した痛手では無いらしく。
傷口から銀が浸入する事を防ぐ為か、それとも損傷が治らないのならば、と言う判断の下かは定かでは無いが、先程俺が傷付けた触手が生え際たる背中から分離し、地面へと落下する。
そして、同じ場所から新しく、無傷な状態で別の触手が生えだして来る。
一見、余裕の表れかつ、圧倒的な物量にて確実に俺を圧殺する為の作戦、と見えるかも知れない。
が、実はヤツの方も、それなりに追い詰められて切羽詰まっている、と言う事を、俺も理解している。
…………そう、実は、よくみないと分からない程度には偽装し、誤魔化している様子だが、俺からの攻撃を受け、触手を新たに生やす度に、少しずつその巨体を縮めて来ている、のだ。
それだけでは無い。
ヤツの強固であった身体も、脚に大斧の刃を打ち込んだり、伸ばされる触手を切り払ったりしている内に、ほんの僅かずつではあったが、その強度を下げて来ている様子なのだ。
これは、まだ未確認な情報だ。
言ってしまえば、相対している俺が、なんとなくそんな気がする、と思っているだけに過ぎない。
が、確実にそれらは発生している、と最初から殴り合っている俺には断言出来る。
最初こそ、大斧の質量を生かして、命を賭けた至近距離からの叩き付けでどうにか埋める事が出来た刃が、今では勢いさえ利用すれば、片手持ちの長剣ですら表面を切り裂く事が出来てしまっている。
また同様に、それまで見上げる程に高い位置にて、複数の脚によって半ば吊り下げられる形で位置していたハズの胴体も、最初に比べれば幾分か地面に近しい位置にまで下がって来ている様だ。
とは言え、それらもあくまで『最初に比べたら』の話。
強度で言えば、相変わらず硬い事に変わりは無いし、胴体の位置に関しても未だに空中に在る為に、そう易易と殴り付けられる様な場所にまで下がって来てくれている訳では無い。
まぁ、下がってくれていた所で、何が出来る、と言う訳でも無いのだが。
この触手の硬さから察するに、本体の方はもっと硬いだろうから、『金剛』とかを使っても下手をしなくても防がれる可能性が高い。
アレ、物理的な破壊力はかなりのモノだ、って自信はあるのだけど、事貫通力って点で見るとそこまででも無い為に、案外とこういう時には向いていないのだ。
…………尤も、このまま半ばカウンター的に合わせていれば勝てる、と言う程に甘い相手でも無い様子。
何せ、ヤツは俺の事を侮ってはいない。
最初こそ、俺を俺だと認識していなかった様子だが、一度俺の方が事を敵だと見るや否や、俺の事を思い出したらしく、そこからは雑に処理しようとする意思が感じられなくなった位には、丁寧に潰す算段でいるらしい。
何せ、コイツはわざと遠距離戦を仕掛けて来ている位だからな。
俺の持ち札の中に、有効打になりうる遠距離攻撃手段が無い、と見抜いているのだろう。
実に厄介な事に、コイツは魔術の類いは効いてくれない。
少なくとも、遠距離砲撃の類いは、術式を分解して魔力に還元し、そのまま自身の食料として吸収してしまうからだ。
今この段に至っても、ヤツから魔力は感じ取れない。
なので、ぶっちゃけどうやってんの!?と言うのが正直かつストレートな感想なのだが、そんなモノ問い掛けた所で相手からの答えが返ってくるハズも無し。
まぁ、とは言えその辺はあんまりこの場では関係無い。
そもそも、俺はそこまで魔術の類いは得手としていない訳だし、用意してきた『手札』も魔力は使えども魔術は関係があまり無い代物である為に、多分大丈夫だろう。きっと。
なんて考えながら、それまでと同じやり取りを繰り返す。
音を超える速度にて放たれた触手を、時にギリギリ回避し、時にギリギリ回避し損ない、合間合間で損傷を回復させながら、カウンターでこちらも刃を合わせて負傷させて行く。
そうしていると、どうやらヤツは俺に対抗手段が残されていない、もしくは用意していた手が通じない、と判断した様子。
俺の無力を嘲笑い、無駄な足掻きを見て愉悦に浸っているかの様に、それまで禍々しく輝く宝形の様な形と色合いで、真円を保っていた紅い瞳を半月の形へと歪め、俺の頭上から見下し始めていた。
しかも、派手に油断しているのか、それともそもそも手段が無い、と判断したのか、上空に持ち上げていたハズの胴体を下げ、地面の近くへと降ろして来ていた。
まるで、やれるモノならやってみな(笑)とでも言いたげな雰囲気で、実に愉快で愉快で仕方が無い!と言いたげに、輝く瞳を歪めて見せていたのだ。
そんなヤツの行動に、俺は激怒し─────
「………………いや、まさか本当にここまで嵌るとは思って無かったぞ?」
────ている訳では無い、冷静な口調にて、思わず呟きを零してしまう。
思わず、何かの罠かな?と疑いたくなる程に、思い通りに事が運んでしまっている為に、無駄とは分かりつつも周囲へと気配を探りつつ、俺は空間収納にしまっておいた奥の手を取り出し、その銃口を奴へと向けるのであった……。




