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特別になりたい!と思っていましたが……〜なってみたら思っていた程良いモノでも無かったです〜  作者: 久遠


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 ズクリ、と痛みを訴える頭を押さえながら、真っ昼間の道路を爆走する。

 流石に、身体強化を施した状態で歩道を走り、人を轢いてしまっては、それこそ対侵略組織に所属している人でした!と言う訳でも無ければ、ほぼ確実に殺してしまう為に、今は車道に飛び出て路側帯を駆け抜けている。


 とは言え、流石にある程度の加減はしている。

 何せ、俺が本気で身体強化を行い、遠慮なく踏み込んで駆け抜ければ、踏み出すだけでアスファルトを踏み砕いて進む事になる為に、そこら中穴だらけになるのは間違い無いだろう。


 まぁ、緊急時だから、やっても良いと言えば良いのだが、それはそれで問題アリ。

 何せ、俺にはまだ後ろ盾になってくれる組織やら立場やらが無い。

 なので、俺がやらかしたアレコレやらの尻拭いをしてくれる相手が居ない為に、後でコッソリ直しに来るか、もしくは国の費用で直して貰うしか無くなってしまう。

 しかも、前者の場合、俺が犯人だ!と名乗り出る様なモノである為に、やはり選択肢としては『無し』。


 なので、比較的常識的な速度で道路を駆け抜けて行く。

 尤も、人が時速にして60キロを超える様な速度で走っていれば、流石にある程度目立つし、衆目を集める事にもなってしまう。



「…………このところ、連中の動きが沈静化していた弊害、だな……」



 思わず零れ出た俺の呟きは、瞬く間に背後へと吹き飛ばされて、誰の耳にも入る事は無かった。

 しかし、俺の視界の中には、数日前まででは考えられない程に、人気の溢れる街並みが広がっているのだから、仕方無いだろう。



 ────人は、自らの認識に無かったモノを恐れる。



 これは、半ば本能的な衝動であり、知らない所で発生した脅威に備える為の、生物としての防御機構である。

 が、同時に、人とは慣れるモノであり、慣れた場合は大概がその脅威を軽く見積もり始める。



 子供から大人になり、転ばなくなったから、とポケットに手を突っ込んだままで歩く様に。

 この店なら注意されないから、と店内で屯して阿呆共が馬鹿騒ぎする様に。

 以前はソレでイケたから、と店員に無茶を押し付けるオキャクサマの様に。



 相手を軽んじ、自身が上に立っている、と勝手に勘違いして警戒心を緩めて行動し始める。

 本来であれば、相手を怒らせて拳が飛び出てもおかしくない様な事や、正確に言えば法律等にも違反している様な事柄でも、平気でやらかして行く様になる。

 中には、その程度で目くじらを立てるな!と逆ギレして被害を広げる様なバカも居る始末だ。


 そして、それは俺の目の前に広がっている光景にも適応される。

 幾ら政府が侵略組織として認定し、最近は行方不明になる人がある程度減って来た、とは言え、別段組織として認定された『血啜蟲(ブラッドサッカー)』共がまだ駆逐された訳では無い現状。

 であるにも関わらず、それまで控えられていた外出が再開され、中には無防備に警戒心を無くしている様子の者すら見受けられる。



 それは、連中にとって『侵略組織』と言う名前そのものが、最早()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だろう。



 侵略組織として認定されれば、対侵略組織が正式に動く。

 そうなれば、そう遠くない内に組織に対しての攻撃が始まり、そこまでしない内に壊滅する。

 そうすれば、謎の現象も全て解決されるし、居なくなった人達も戻って来るし、何やら報告されていた病気の様なモノも治療法が確立される。


 そんな事を、夢の様に信じているのだ。

 丸っきり、特に根拠は無いままに、そういうモノだ、として信じ切っているのだ。


 故に、こうして無防備なまま、まるで自身が無敵であるかの様に外出する。

 今この時に、現在話題となっている存在が、その脅威度を跳ね上げさせて暴れ回ろうとしているにも関わらず、呑気にアホ面晒して大手を振って往来を闊歩しているのだ。

 …………そんな状況であれば、少しは反省と自戒を持たせる為にも、ある程度放置して被害を出させてから、の方が良いのではないか?と思えてしまうのは、仕方の無い事だろう。


 何せ、俺は先にも述べた通りに、公的な立場は何も無いのだから。

 自称『無辜の一般市民』とやらの自分勝手な救済論を、聞き入れてやる事も、実行してやる事も、俺の職務には無いし、何なら義務も義理も無いのだから。

 寧ろ、被害をある程度広げてから事を成した方が、対侵略組織を始めとした戦闘者にとっては良い結果になるのでは?


 戦いもしないのに守られて当然、寧ろ自分達の近くで戦いが起こって被害が出る事の方こそが悪い、そう出来ない戦闘者の方こそが悪だ!と弾劾してくる、勘違いした連中が減るのは、良い事尽くめなんじゃないだろうか?

 なんて、客観的に見なくとも、かなり物騒な思考に支配され掛かっていた時に、不意に隣に覚えのある気配が発生する。


 速度を落とす事無くチラリと視線を向ければそこには、褐色の肌と金色の髪を靡かせた美の化身の様な女が並走していた。

 そう、言わずもがなかも知れないが、向こうの世界では敵対していたハズの魔族であるラストであった。



「…………おいおい、なんでお前がここに居るんだ?

 一応は、無関係な身の上だろう?」


「あら、ソレを言ってしまうのなら、ご主人様(アナタ)もそうでしょう?

 別に、無辜の一般市民を守る義務も義理も持たないのだから、それこそ正規の部隊に任せる事こそが、するべき行動では無くて?」


「残念ながら、ヤツには返さなきゃならない借りがあるんでな。

 他の連中に先を越されるよりも前に、ぶちのめしてやりたいのさ。

 そっちこそ、動く理由が無い上に、現場には遅かれ早かれ対侵略組織の連中が到着する事になる。

 獲物として狙われている身の上では、猟犬が群がって来ると分かっている狩場に、行かない方が良いんじゃないのか?」


「ふふっ!

 ご心配頂けて嬉しい限りだけれども、それは無用な心配、と言うモノね。

 確かに、猟犬が溢れる場に赴くのは些か気が引けるけど、あくまでもそれは面倒だから。

 幾ら数が居たとしても、その牙も爪も届くことは無い、と分かっているのなら、ソレは脅威とはなり得ないし、そうであれば例え猟犬であったとしても、可愛らしい飼い犬とそう変わりは無い。

 違いまして?」


「群がられたとて、鎧袖一触に薙ぎ払えるのなら、飼い犬も小蝿も変わりは無い、ってか。

 まぁ、分かった上で出て来ているのなら、別に良いよ。

 とは言え、来た以上は頼りにさせて貰う事になるが、構わないよな?」


「勿論。

 でなければ、わざわざこうして来る訳も無いでしょう?

 …………所で、1つ質問良いかしら?」


「ん?

 何だ?」


「なんで、わざわざ仕掛けた警報を、頭痛がするなんて(そんな)形にしたのかしら?

 もっと分かり易い形にも、目に見える形にも出来たハズでしょう?」


「あぁ、その事か」



 そう返事をして、俺は額に手を当てる。

 未だに脳を貫く様な頭痛は続き、その頻度と強度は増すばかりであり、事の重大性を俺に突き付け続けている。



「…………まぁ、自分の身体に施すのが1番手っ取り早かった、って理由も無くはないが、それも理由の1つに過ぎないしな。

 受信機の類いを作っても良かったんだが、それだと失くしたり奪われたり壊されたり、ってリスクが伴うだろう?

 それに、聞いてなかった見てなかった、なんてアクシデントが起きないとも限らないからな。

 だったら、俺に直接仕掛けた方が、それらの見落としやらリスクやらを、確実に回避出来るだろう?

 なら、多少不快であったとしても、やっておくべき事ではあったハズだ。

 そうだろう?」



 至極真面目に告げる俺。

 そんな俺に対してラストは、それもそうか、と言わんばかりに肩を一つ竦めて見せる。


 ある意味、処置無し、とも取れるその反応と共に、俺達はどちらからの合図も無いままに、更に速度を上げて行くのであった……。




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