8
それからも、2人による質問は続いた。
詳細に語るには些か時間が掛かりすぎる為にダイジェストとなるが、概ねこんな感じの流れとなっていた。
Q︰異世界特有の武術とか戦術とかって何かあった?(兄)
A︰以前ならばまだしも、現在と比べるのならば特にコレと言って奇抜で変態的なヤツは無かった。
但し、こっちよりも洗練?されているモノなら幾つか見た。
Q︰能力の戦闘面でのアレコレは多少聞いたが、外はどんな事ができるのか?(妹)
A︰一応見せた貴金属の操作・変形と賢者の石の生成、並びに各種薬品や魔導具の作成等々。
さっきの『命の水』じゃないけど、怪我を治したり魔力を回復させたりするポーションの類いも作れはする。
Q︰魔導具ってナニ?作れるにしてもどんなのが作れる?(兄)
A︰魔導具とは向こうの世界では魔法が込められている道具全般を指し、主に魔物から採れる魔石を動力源とする道具。人間の魔力で動かす事も可。
効果としては単純に灯りとして使えるモノから、兵器として使用可能なモノまで幅広く種類が在る。当然作ろうと思えば作れる。
こちらの世界にはまだ無い、ゲームみたいな空間収納が可能なモノも作れはする。面倒だけど。
Q︰どうにかして戻って来た、と言っていたが具体的にはどうやって戻って来た?それ以外の方法は?(妹)
A︰自身を世界の座標を得る為の楔とし、魔王を始めとした幹部級数名分の魔石を贅沢に使用。更に一度の使用で砕ける様に設定する事で更なる出力を持たせた空間移動用の魔導具を作成して無理矢理帰って来た。
他に方法があったのかは知らないが、元々魔王を倒せば帰れる、的に言われていた程度だったから多分無い。
Q︰結局戦えたのか?(兄)
A︰戦わないと死ぬ環境だから四の五の言っていられなかった。
死ぬ程戦ったし、文字通り死ぬのも数え切れない程経験した。
俺の能力が錬金術で無ければこうして帰っては来れなかったと思う。
Q︰魔族との講和、とか小説だと鉄板だけど考えなかったのか?(妹)
A︰そもそも侵略した側の外様部外者、何なら人扱いされてないヤツが言った所で、どっちにも取り合って貰える訳も無し。
まぁ、人間側は絶滅戦争仕掛けていたから、多分言っていても実現は不可能だったと思うが。
Q︰で、チーレムは出来たのか?(笑)(兄)
A︰ハハッワロス!(乾いた笑み)
幾ら便利で賢いし強いとは言え、余程の変態でも無い限りは別段犬や猫とヤりたいとは思わないだろう?
向こうからの認識だと大概『そう』だし、こっちも人扱いしない連中と積極的に仲を深めたい(意味深)とは思わなかったから出来る訳も無い。
取り敢えず、一通り聞きたい事は聞けたらしく、自然と口が閉じる2人。
とは言え、その様子はほぼ正反対な状態となっている。
片や、兄雷斧。
口は閉ざしているものの、その目は爛々と輝いており、先の会話の何処にそこまで興奮する要素があったのか?とツッコミを入れたくなる程に顔を上気させ、目を血走らせている。
片や、妹の桜姫。
兄と同じく口を閉ざしているが、足を組み、髪を指に巻き付け、そのまま口元に持って行っている姿勢は確実に何かしら考え込んでいる者特有の素振りであり、俺の魔力量について詳しく聞いてきた事から察するに、どうにかして自身に適応させられないモノか、と考え込んでいるのだろう。
桜姫は俺や兄貴とは異なり、学校では秀才としても通っていた。……ハズ。
だから、明らかに突撃する事しか頭に無い兄貴とは異なり、何かしらの分析か解析かをしているのだと思われる。
まぁ、昔の小さな頃であればまだしも、最近(俺からすれば数年前、だが)はほぼやり取りも無い様な関係性に落ち着いていた為に、本当にそんな事を考えているのかはぶっちゃけ分からないのだけれど。
なんて考えていると
「なぁっ!!」「あの」
と同時に声が挙げられる。
どうやら、両者共に閉ざしていた口を開いたらしいが、タイミングが悪く声が被った様子。
こちらも視線で『どっちからだ?』と訊ねれば、小さく手振りで桜姫が兄貴へと先を促す。
コレは、別段兄貴を尊敬しているから譲った、と言う訳では無く、恐らくは彼女の用件は緊急性が低いか、もしくは兄貴の話の結果を様子見するつもりなのだろう、と察する程度は出来ていた。
「おっ?良いのか?
じゃあ、オレから行かせて貰うぜ!
なぁ、キミヒト。
オメェ、オレと手合わせしようぜ!!」
「え、嫌だけど?」
脳を介さず、脊髄反射だけで断りを入れる。
向こうの世界で、手合わせだとか訓練だとかと称し、散々一方的に痛め付けられる経験をしてしまったが為か、その手の事柄が余り好きでは無いのだ。
まぁ、自身が強くなって行く感覚自体はそれなりに好ましく思ってはいるのだが、それはそれとして若干トラウマ気味ではある。
そんな俺の事情により、即答にて断りを入れる事になる。
が、兄貴の方はソレが予想外であったらしく、衝撃によって興奮した表情のままで固まってしまっていた。
見開かれた目の前で、2度3度と手を振る。
しかし、それにより瞳の随伴運動が起こる事も無く、心なしか瞳孔すらも拡散傾向にある様にも見て取れた。
「…………ふむ、20時13分、御臨終です」
「……………………そう、ですか……。
先生、今までありがとうございました」
「って、ちょっとマテや!?
勝手に殺すンじゃネェよ生きてるわ!?!?」
反応が無かった為に適当にボケると、意外な事に桜姫が乗って来た。
スルーを決め込むかな?と思っていただけに、案外とこう言う事には乗って来るんだ?と思いながら視線を送っていると、自分でもキャラじゃない事をした、との認識があったのかほんのりと頬を染めていた。
と、同時に雷斧が蘇生(?)し、騒ぎ始めので面倒臭さを微塵も隠さずに視線を移せば、逆に信じられないモノを見た、みたいなリアクションを取られる羽目に。解せぬ。
「…………いや、解せぬ、じゃネェよ。
寧ろ、ソレ言いたいのはオレの方だからな!?
なんでオレからの手合わせ誘いを断るンだよ!?
オメェも男なら、目の前の相手よりもオメェが強いのか、相手の方が強いならどの程度強いのか気になるだろうがよ!?
それとも、アレか?向こうでキンタマ落として来たか?」
「落としても無いしオカマちゃんにもなった覚えは無いよ。
寧ろ向こうで落としてたら、こっちに帰って来た直後に感動の再会を果たしてる事になるだろうがよ、若返ってるんだから」
「あぁ、それもそうだなァ……ってソレで誤魔化されると思うンじゃネェよ!?
オラ!手合わせすっぞ手合わせ!!」
「ヤダこの人暑苦しい。
……いや、適当に手加減して手抜きしてでも良い、って言うなら別に良いけど、そうでなく全力で無くとも本気でヤれ!って言うならお断りだぞ?
一々加減するのも面倒臭いし、殺さない様にするとか器用な事は得意じゃないんだけど?」
「……………………ほぅ?
ソレは詰まり、全力を出さなくても、手加減抜きにしたら確実に相手を殺せる手段が在る、と?」
「手段が在る、と言うか基本?
向こうで、初手確殺、を散々ヤッてきたせいか、小手調べで、とか頭で考えていても、大体致命傷になるか、もしくはソレに準ずる様な攻撃ばかりする様になってたからな。
だから、そうしないように、と意識して行動しないと大体そうなるし、そうすると本気ではやれないし全力も出せなくなる。
お分り?」
「………………ほう、ほうほう、ほうほうほう!
では、オメェは、全力を出しても大丈夫、ないし相手が死なない状況を作り出せるなら、手合わせする事自体に否やは無し、って事で良いンだよなァ?」
「…………?まぁ、言ってしまえば、そんな感じではある、か?
でも、そんな都合の良い技術、そうホイホイ在るハズが……」
「所がギッチョン、在るンだなァコレが!!
ってな訳で、オメェ明日手合わせな!
朝から行くから、ちゃんと準備と覚悟をしておけよォ」
「は?ちょっ!?まっ!!」
そう、ハイテンションな様子で言い切り、俺の部屋を後にする兄貴。
言いたい事だけ言い捨てて行きやがったあの野郎!?との思いと、そんな致命的なダメージやら負傷やらを無かった事に出来る装置やら魔法やらが、本当にそうポンポン存在するものか?との猜疑心がせめぎ合い、言葉が出て来ず遠ざかる背中に手を伸ばす事しか出来ずに終わってしまう。
そんな俺の様子を目の当たりにしてか、桜姫も自身の用事は急ぎでは無いから、と俺の自室を後にした為に、結局俺は部屋に1人ポツンと取り残される事となるのであった……。