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「あぁ、血啜蟲が出たのでしょう?
アレ、無駄に頑丈で、その癖生き汚いので駆除するのが面倒なのよねぇ……」
「………………………………ゑ゙?」
あまりにもあんまりな台詞に、思わず思考が空転してフリーズする。
思わず、聞き間違いかな?みたいな現実逃避をしそうになったが、一度は殺し合いした相手だからこそ理解出来る。
コイツ、嘘や冗談の類いでは無く、本当にそう思って言っている、と。
よもや、別世界の出身の輩から、まるで『黒い悪魔』が出て困っている、みたいな反応を返される日が来るなんて、と意識が遠退きかけるも、どうにかこうにか踏み留まり、ラストへと視線を戻す。
するとそこには、輝かんばかりの美貌に心底不思議そうな表情を浮かべしながら、胸下で腕を組んでその巨峰を必要以上に強調した彼女の姿があり、その深く長く雄大な谷間に視線処か頭ごと吸い込まれそうになりながらも、どうにかその誘惑に耐えて口を開く。
「…………取り敢えず、その口ぶりだと、アレが何なのか知っている、って事で良いか?」
「えぇ、勿論」
「…………んで、ソレが暴れてる、って把握した上でこうしてこのタイミングでここに現れた、って事は、それに乗じて被害を大きく、って事では無く、寧ろ協力してくれるつもりだ、って認識で合ってるか?」
「えぇ、そうよ。
でないと、ご主人様相手であっても、一応は侵略組織として指定されている私が、わざわざこうして顔を出すだなんて有り得ないでしょう?
まぁ、使って貰えるのなら、気軽に呼び出してくれても構わないのだけれども、ねぇ?」
「……………………いや、使わないし、呼び出さないし、しないから。
今でも十二分に開いてる胸元を更に開いたり、手でナニか掴んでいる風にしながら素振りしたり、舌でナニか棒状のモノを舐めてるフリをしたりしてもダメだからな?」
「………………………………ゑ゙?」
「いや、この世の終わり、みたいな顔されても、しないモノはしないからね?
力を使ってその気にさせようとしても無駄だし、なら服を着ているのが不味かったか!とか思い付いて脱ごうとしない!!
ならばコチラを!と首輪を取り出して装着するな!?リードを持たせるんじゃない!!
耳と尻尾まで生やす……のはまぁ、可愛らしいから良いけど、ってそこは照れるの???」
褐色の肌を赤らめ、頬を押さえて身体をくねらせるラスト。
元々、大迫力のダイナマイトボディをボンテージ風の衣装で包んでいる為に、あちこちが零れ落ちそうになるが、本人はその辺気にしてもいないらしく、隠す素振りすら見せていない。
まぁ、その辺は割りと眼福故に良いのだが、謎の羞恥心を発揮するポイントはそこで良いのだろうか?
確かに、ポンッ!と軽快な音と共に頭頂部に生えてきたイヌミミは大変に可愛らしく、頭髪の色と相まって長毛のレトリバー味が大変に強くなっている。
それに合わせてか、コートの裾から背後に伸びている同色の尻尾も、そのフワフワとしていそうな毛並みをワッサワッサと左右に揺らしており、言葉にせずとも『嬉しい!!』と喜んでいるのが手に取る様に見えていた。
────スッ、ワッシャワッシャ!
本当に、本当に無意識的に手を伸ばし、ラストの頭を撫で回す。
まるで、本当に大型犬にする様に、毛並みをかき回す様にして両手にて形の良い頭部を撫で回し、頭頂部から生えている耳も揉みしだく。
「キャヒンッ!?!?!?」
突然の蛮行に驚いたからか、それとも警戒していない所に受けた不意打ちだったからかは分からない。
が、ラストの方も、まるで犬の様な悲鳴を挙げつつも、嫌がる素振りを見せる訳でも、俺の手を振り払おうとするでも無く、顔を赤らめながらも心地良さそうに目を細めて見せつつ、撫でられるがままになっている。
ついでに言えば、さっきから気の所為では無いレベルて風切り音が発生しており、チラリと視線を落とせばそこには、あまりの勢いに肉付きの良い尻まで左右に振られる程の速度にて、生やされた尻尾が高速でフリフリされている光景が飛び込んで来た。
…………うーん、これは、可愛らしいとホッコリすれば良いのか、尻を振ってまで誘惑するとは卑しいメス犬め!とムラ付けば良いのか、反応に困る光景だな。
なんか、腰の辺りが震えている様にも見えるし、ソッチも撫でてやれば犬みたいに喜ぶだろうか?
でも、これ以上撫で回して犬みたいに嬉ションでも漏らされたら、状態的にも絵面的にもエライ事になるので、そろそろ止めておくか。
そう決めた俺が手を退くと
「あっ…………」
と、艶めきつつも残念そうな色を纏った呟きが彼女の口から零れ落ちる。
濡れた瞳や内股気味になった肉感的な太腿、紅く染まった頬等、このまま押し倒してしまいたくて仕方なくなるビジュアル満載であったが、どうにか反応しそうになる身体を無理矢理抑え込み、意志の力で理性を叩き起こして本能を抑制し、前に出かけた手と足とをどうにか止め、逆に一歩後ろに下がって適切な距離を取る。
それに対して、ラストはなんだが寂しそう?な雰囲気を醸し出す。
不安そうと言うか、寒そうな空気は思わず抱き締めて温めてやりたくなるが、つい先程までの艶めきを思い出せば確実にそこでは止まれなくなる為に、頬の内側を噛み千切る勢いにて噛み締め、理性を奮い立たせて背後へと振り向き、玄関へと歩みだしながら雑に手を振って見せる。
「…………どうせ、本格的に情報を聞くのなら、世間様に聞かせられないモノばかりになるんだろう?
だったら、場所を変えるぞ」
「…………えっ!?
ソレって……!!」
「あぁ、こうして協力するつもりで来たのなら、キチンと働いて貰うぞ。
どうせ、ヤツの正体からして、こっちは掴みかねていた状態なんだ。
だったら、一から十まで、まるっと先ずは吐いて貰うぞ。
否やは無しで、否応無しに、な」
自分でも分かる程度に、強引に話を変えつつ、かなりの上から目線で半ば命じる様に言葉を放つ。
完全に指揮下に入れる事を前提とした内容。
これで、プライドから拒否するのならば、まぁ仕方無いと割り切って、何とか得られた手掛かりを元に研究を進めるしか無いだろう。
が、コレでも残ると言うのなら……との思いで肩越しに視線を送れば、そこにはまたしても尻尾を振り回しながら、キラキラと輝く瞳を向けて来るラストの姿が。
────コレは、アレか?
てっきり、もう帰れ、とか言われると思っていたら、なら一緒にやるか!と誘われた!みたいな思っているヤツだろうか?
そんな、情報だけ抜いて後はポイッ!じゃあるまいし。
しかも、まだ表層的な情報しか貰っていないのに、そんな事したくても出来ないのは当たり前と違うのだろうか??
そんな思いを1人しながら、玄関の鍵を開けて中へと誘う。
そして、家に上がる時には靴を脱いで〜だとか、確実に顔を合わせる事になる父に対する説明はこんな感じで〜だとかの諸々の説明をして行くのであった……。




