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友人達に武器を渡してから、数日が経過した。
幸いな事に、未だに使用するには至っていない様子だが、ソレもいつまで持つのか不明なのが悲しい処。
一応、俺から友人達に、得られた情報の拡散はお願いしておいた。
ソレもあってか、この数日は、目に見えて生徒達の数が減っている、と言う事にはなっていないが、それでも減少が止まる事はなく、同時に復帰する者も未だに出てはいない為に、全体的に見れば減少の傾向はまだ収まってはいなかった。
「なんとかせんといかんのは確かだが、だとしても結構手詰まりに近いんだよなぁ……」
誰に向けるでも無く、呟きを零す。
だが、現状を鑑みると確かにそうならざるを得ないが為に、仕方の無い事だと思って貰いたい所だ。
何せ、事態に動きが無い。
世間では、漸く政府が重い腰を上げ始めた。
被害件数が増え始め、その上で病院等の被害者を搬送した先でもまた被害が出る、と言った連鎖的な状況を受けて、初めて調査に踏み切り始めたのだ。
先の連中の様に、派手に次元の壁をぶち破り、辺りを破壊して見せていれば、緊急法により即座に侵略組織認定が出せた。
また、政府相手に馬鹿やった奴らも、以前も同じ様に政府に直接命令しようとした輩がおり、かつソレを断ればどうなるのか?の前例が在った為に、即座に侵略組織へと認定する事が出来た。
が、今回はそれらとは異なる。
分かりやすくビルや街が破壊される訳でも無く、人々が怪人や改造人間に襲われる訳でも無い。
症状だけを見れば、新手の感染症か、それとも何処ぞの侵略組織が垂れ流しにした生物兵器の類いか?となるだけなのだ。
…………ここで、自然発生したモノでは無いのでは?との発想が出されるだけ、まだ思考が柔軟な方だろう。
散々他の世界からの侵略者、なる一昔前では『頭大丈夫?』と心配される様な事柄に、大真面目に取り組まなくてはならない時代、国であるが故の対応力だ、と言えるだろうか。
とは言え、それもここまで。
あくまでも、初期対応に於ける警戒度と柔軟度が比較的高い、と言うだけであり、その腰はやはり軽くは無い。
一応、父サルート経由で情報は上げているが、それでも侵略組織認定が降されず、対侵略組織が動かずに事態が徐々に悪い方向へと向かっている以上、あまりよろしい状況では無い、と言えてしまう。
そして、そんな状況であるのならば、俺に出来る事はやはり無い。
何せ、俺の公的な身分としてはただの学生。
一応、『能力』持ちとしての認定は正式に受けられたものの、言ってしまえばそれだけ、だ。
別段、何処かの対侵略組織に所属している訳でも無い。
また、どこかしらの政府所属の組織や部隊に所属している訳でも無い。
なので、俺が今このタイミングでしゃしゃり出たとしても、やれる事は何も無い。
寧ろ、現場で対応している者達の邪魔にしかならない事は間違い無いだろう。
…………いや、まぁ、やろうと思えば多分出来なくは無いと思うよ?
親が親だし、その辺の口利きを頼めば、現場に捩じ込む事位は出来る、とは思う。
思うが、だからといって、ソレをしないとならない、とは限らない訳で。
今から、ほぼ手探りに近い、しかも方針すら確かに定まっていない現場へと、ある程度ノウハウも確立させてある俺が入る。
…………うん、確実に現場の指揮系統は混乱するだろうし、何よりまだ調査程度の段階だったハズの現場が、討伐も視野に入れて行動しなくちゃならなくなるだろうから、混沌とした有様になるのは間違い無さそうだ。
それなら、寧ろ誰かの下に付けられる方が、余程建設的かつ効率的だろう。
まぁ、今回の件でもそうだったが、身に降りかかる火の粉は遠慮なく払わせて貰う事になるので、向こうから絡んで来た場合は、結末がどうなったとしても、俺の知った事では無いが、な。
そう言う意味では、今回の件はまさにその通りの事態だろう。
連中、どうやって俺の事を嗅ぎ付けたのか、俺へと狙いを絞って襲撃してくれた訳だが、向こうが手を出して来なければ、こっちだって反撃しなくても済んだのだ。
何かしらの思惑が在ったのは間違い無いだろうが、そもそも何で俺と周囲をターゲットになんてしたのだろうか?
俺が異世界帰りだから、と言うのなら、それこそ他の侵略組織の連中でも狙えば、本場の異世界人を対象にしてアレコレ出来ただろうに、と内心で呆れを隠せずに吐き捨てる。
そんな事を考えていると、その日も授業が終わり、下校する事に。
勿論、生徒の数が減少の一途を辿っている現状、学校としても治安上の問題、として認識しており、数日前から部活の類いも禁止扱いされており、下校時の寄り道も厳禁となっている。
木宮達4人も、最近は流石に4人とは言わず、もっと固まって下校しているらしい。
まぁ、俺も話に聞いた限りでしか知らないから、本当にそうしているのか、それとも水連辺りが家から迎えを寄越して貰っているのか、までは知らないけど。
そんな状況でも、俺は変わらず単独で行動。
以前やらかした時から、色々と噂が出回っているせいで、同じ方向の連中がいたとしても、避けるようにそそくさと解散しやがるので、必然的に一人になっている訳だ。
そう言えば、単独で下校しているのは、何も俺だけでは無いらしい。
炎上寺は交際している水連が離さないから例外としても、戦闘向けの『能力』持ちは大体が単独で行動する事を許可されており、中には遭遇して撃退した者も居るとか居ないとか。
…………まぁ、俺がボコしたあの幼馴染モドキも、あの時色々と漏らしたりしたお陰で、ヒエラルキー的にはかなりの低下が見られたせいか、下校時は一人でいる、とか言う話は円山経由で耳にしたが、流石にそっちに構ってやるつもりは無いから知った事では無いがな。
なんて事を取り留めもなく考えていると、特に襲撃される事も無く家の付近へと辿り着く。
流石に、司令塔となる個体が未だに復活していない状態で、仮にもソレを撃破した俺に対して手を出して来る程に見境が無い訳でも、統率個体が指揮出来無い場合に起動する副司令的な個体が居る訳でも無い、と言う事だろう。
そうでないのなら、今なんて正に好機に他ならないのに、襲い掛かって来ない方が不可解と言える…………?
「……………………あん?誰だ、あれ??」
思考を巡らせながら進み、玄関が見える所まで辿り着いた。
…………辿り着いたのだが、そこには1つの人影が。
俺に背を向ける形で、何故か玄関の扉の前に佇んでいる。
季節的に、割りとギリギリなレベルのコートを着込み、帽子まで被っている為に、背格好から誰なのかを特定する事は出来無いが、身体のラインと髪の長さから恐らくは女性、だと思われる。
…………だが、こうして背中をみる限りでも、かなりスタイルが良いのが見て取れる。
どちらかと言うと、女性が憧れるスタイル、と言うよりは寧ろ、男の欲望を詰め込んだスタイル、と言った方が近い、凄まじいまでの起伏に富んだ体型だ。
────なんだか、こんな感じのスタイルのヤツと、最近やりあった気がするぞ?
と言うよりも、なんだが気配だとか魔力だとかも、抑えられてはいるけれど、覚えが有る気がする様な……?
なんて思いながら、近付いていた時であった。
その女性が唐突にこちらへと振り向くと、それまで掛けていたサングラスを取り払い、褐色の肌に豪奢な金髪、こめかみから生えた捻くれました角を晒すと同時に、キッチリ閉めていたハズのコートの前面を1動作で開き、中に着込んでいた露出過多なボンテージ風の衣装を見せ付ける様にすると、本人曰く『天然物』であるらしい絶世の美貌に、見惚れる程に美しく艶やかな微笑みを浮かべながら口を開くのであった……。
「あ、やっと帰って来た!
久し振りね!ご主人様?」




