72
「って訳だから、ホイ」
「「「「いや、何が?と言うか、ナニコレ?」」」」
父であるサルートと情報共有した翌日。
俺は普通に通学していた。
平日だったから学校があった、と言うのは勿論そうなのだが、やはり友人達が無事でいるかどうかが気になったから、と言うのが大きいだろう。
現に、俺が教室に着いて中を見回した時、昨日よりも更に人数が減っており、あの後更に被害が拡大したのだろう、と推測出来てしまったからだ。
そうしている内に、4人とも登校して来たので、ホッと胸を撫で下ろす。
幸いな事に、どうやら4人共昨日は行動を共にしていて、襲われる事は無かった、とのことであった。
そんな4人に、俺からの特製の装備を渡す。
無骨で、重量のあるソレを受け取った4人は、野郎共は首を傾げ、紅一点である炎上寺はその重さから取り落とし掛けて慌てて確りと保持していた。
わざとハモらせた?とツッコミを入れたくなる程にタイミングを合わせて同じ事を口にする4人。
そんな4人に対して俺は、手振りで抜いてみろ、と促して行く。
それに従う形で、鞘から飛び出たグリップを掴む4人。
留め具を外してそれぞれの感性に従って抜き放たれたそれらは、陽光と電灯とが混じった教室内に銀色の光を反射していた。
「実は、例の噂の不審者共が別世界からの侵略者だと判明してな。
ソレをウチの親父が解析した処、どうやら銀が有効らしい、と判明したんだ。
因みに、それ以外だとあんまり有効打にならないみたいだから、取り敢えず護身も兼ねて持っておけ」
鞘から覗くのは、銀色を宿した刃。
刃は鋭くしてあるが、それ以上に身は厚く、刀身は大きくなっており、斬れ味で切るナイフ、と言うよりも寧ろ、重さや硬さで叩き斬る、と言った用途に使用される鉈や山刀と呼ばれるモノに近しい形状をしている事だろう。
意外と、刃物の扱い、と言うモノは難しい。
上手く振らないと相手に斬りつける事は出来無いし、何なら空振って体勢を崩す、程度で済めば良い方であり、最悪自分で自分を斬りつける羽目になる。
ましてや、慣れていないと突きなんて、相手に刺す事も出来なければ、繰り出そうとすれば必然的に相手に肉薄する事にもなるので、危険性は跳ね上がると言っても良いだろう。
その点、こうした重さで叩き斬るタイプの刃物は、幾分か使い易い。
確りと握って、振った時に手からスッポ抜ける事が無い様に注意さえしておけば、あまりにも変な振り方をしない限りは当てられればダメージを入れられるし、刀身が頑丈なので大概の心配は杞憂に終わる。
自身を斬りつける可能性も、重さと頑丈さに重きを置いている事もあって刃はそこまで鋭くは無く、余程思い切って振るか、もしくはわざとそうしない限りは自傷する羽目にはならないだろう。
そんな気遣いからのプレゼントであったのたが、内容を確認した4人からの反応は芳しく無い。
なんてモノ渡してくれたんだ!?と言うよりも寧ろ、こんなモノ渡されてどうしろと?と言った困惑が強い感じだろうか?
「言っとくけど、ソレはあくまで自衛用。
襲われた時はそれで返り討ちにしろ、ってだけで、別に探し出して見つけ出して狩り出せ!なんて言うつもりは無いからな?」
「いや、ソレは当たり前と言うか何というか。
寧ろ、俺達としては、こんな物騒なモノ渡されても使い道が無いと言うか……」
「と言うか、俺達が使って良い代物なのか?コレ。
普通に、銃刀法違反とかになるんじゃ……?」
「さすがに、非常時だから、と押し切るのは無理があるんじゃない?
それに、ミキは兎も角として、俺達にはライセンスが無いんだから、基本的に街中での戦闘はご法度だぞ?
ソレを忘れてないか?」
「アタシとしても、能力があるんだから、倒すだけならコレ無くても大丈夫よ?
幾ら身体が頑丈で、回復する、とか言っても、丸ごと焼いちゃえば一溜りも無いのには変わらないでしょう?」
「そこなんだがなぁ……」
どうにも危機感が伝わっていない様子なので、俺は仕方無く昨日の戦いのあらましを伝える。
そして、奴らは倒しきらないと何が起きるのか分からない事、特性上見知った顔で現れて何気無く近付いて来る可能性が否定出来無い事も伝えて行く。
「────そんな訳だから、ソレは自衛用であると同時に、踏み絵でもあるのさ。
怪しいとでも思ったのなら、それで斬り付ければ取り敢えず今回の相手かどうか、は判定出来るだろう?
後、ついでに言えば噛まれたり引っ掻かれたりした場合の予防策でもある」
「…………つまり、傷口をコレで抉れ、と?」
「あぁ、そういう事だ。
取り敢えず、連中に乗っ取られなければ、それで一時は凌げるからな。
んで、仮に乗っ取られそうだと判断したら、躊躇わずにソレで脳か心臓を破壊しておけ。
そうすれば、見知った顔に襲われる事も、知り合いを襲う羽目になる事もせずに済むぞ?」
「…………いや、それだと俺達死んじゃうぢゃん。
そこら辺、どうにかならんのか?」
「うーん、まぁ、どうにか出来んことも無いぞ?
ぶっちゃけ、五体が揃っていて、死んでそんなに時間が経っていない、って状態なら、俺なら蘇生させてやれん事も無いからな」
「…………え?マ?」
「マジマジ。
まぁ、流石に首がなくなっていたり、腹に大穴開けられていて腸が空っぽになってる、みたいな状況だと難しいが、そうでないなら出来んでも無いぞ?
…………でも、今の処、連中に感染した状態から元に戻す、なんて手段は、皆目見当が付いていないんだ。
だから、もし万が一俺の前に現れたとしたのならば、悪いが出来る事は楽にしてやる事だけだ。
コレが何を言っているのか、理解は出来るよな?」
「可能なら蘇生させてやるから、自分の手で殺らせるな、って処かな?」
「えぇ〜!?
じゃあ、この物騒なプレゼントって、自衛用兼自害用、って事!?」
「まぁ、奇譚なく言えばそうなるな。
一応、確認した処、未確定の侵略組織が発生したと思わしき場合には、その手の武装を所持していても罪には問われない、んだとさ。
だから、安心して持っていろよ。
使う羽目にならない様に、祈りながら、な」
そう言ってやると、4人共に苦い顔をしながらも、渋々と言った様子でプレゼントした剣鉈を受け取って行く。
流石に、俺に殺させないでくれ、と言う訴えは効いたのか、もう迂闊な行動に出る事は無いだろう、と1人安堵する。
が、その時、鞄に剣鉈を片付けた流れで、水連が財布を取り出した。
このイケメン、実家が金持ちであり、本人も能力が高い事も相まってか、この手の貸し借りはサッサと清算してしまおうとする気質が強く出ている。
「で、コレ幾らだい?
話の流れから、武具として使えるんだろう事は分かってるから、多分純銀では無いんだろうけど、それでも銘のある業物かそれに近しいモノだとは分かる。
流石に、そんなモノ只で貰うわけには行かないよ」
「え!?
コレ、そんなに凄いのか!?
俺、今月小遣い少ないんだけど……」
「俺も、財布がペラペラに過ぎる……」
「でも、考えて見ればアクセサリーにも使われてる銀なんだもんねぇ。
やっぱり、お高かったりする?
なら、アタシの分は分割にして貰えるとありがたいんだけど……」
そうして、水連に釣られる形で口を開く残りの三人。
しかし、俺が告げる事実により、そうして開かれた口は驚愕によって閉じられなくなるのであった……。
「ん?
あぁ、ソレ?
俺が錬金術使って作ったモノだから、無銘も無銘だぞ?
だから、無料で良いよ。
どうせ、半ば俺が押し付けた形になるんだから、な」




