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「…………と言う事はつまり、敵を放置して帰って来た、と言う事ですか?」
「完全放置、って訳じゃないぞ?
一応、動き出したら分かるようにはしてあるからな」
声と表情から、呆れを隠そうともしなくなった父から、再び質問が飛び出す。
まぁ、こっちが殴っても効果が無くなり、その上でこっちに対して反応すらも禄にして来なくなったのだから、そりゃ逃げもする、ってヤツだ。
因みに、本当にただただ放置している訳では無い。
錬金術によるモノだが、簡易的な警報の様な仕掛けを施してあり、アイツが動き出したら俺には分かる様になっている。
尤も、既にこの家の場所すらも向こうには割れているのだから、多分思考力諸々も込みで復活したのならば、真っ先にコチラに向かって強襲でも仕掛けて来るんじゃないだろうか?
もしそうなったら、流石にどうしたものだろうか?と悩む事にはなるだろうけど。
…………いや、やっぱり悩むどころか頭抱える羽目になるな、コレは。
何せ、こちらから向こうに対する有効打が、今の処特に見つかっていないのだ。
一時的に肉体を損壊させても、共喰いして復活するか、もしくは暴走して化け物が生まれるか、の2択しか今は情報が無い。
流石に、そんなとんでも生態してやがるのは統率個体だけ、だと信じたいし、通常個体?の方はある程度肉体を破壊してしまえば機能停止して死に至る、と言う事は検証済でもある。
だが、こちらには相手を、例えその一部とは言え倒し切る手段が無いのに、向こうは幾らでも手勢を殖やす事が出来る、だなんて事態は、少なくともバランスが取れている、とは言えないし、確実にこちらが消耗の末に押し切られる光景しか想像出来無い。
だから、少なくとも根本的な打倒手段、少なくとも有効打足り得るモノは何なのか?を知る必要があるだろう。
「んで?
さっき口にしかけていた事から察するに、何かしらは分かっているんだろう?
主に有効打だとか、どうやったら殺せるのか、だとかの方面で」
「…………まぁ、確かにこの盤面に至って出し惜しみするのは愚の骨頂、と言うモノですし、私としても依頼された内容だけに、口を噤む、なんて事をするつもりはありませんよ。
ですが、そうホイホイと気軽に求めないで下さいよ?
確かに、研究を買って出たのは私ですが、特定するのにはそれなりに苦労もしたのですからね?」
「まぁ、その辺のアレコレに関しては、俺も錬金術師の端くれとして興味が無い訳じゃないから後で聞くとして、先ずは結論の方を宜しく」
「えぇ、事態が事態ですし、仕方が無いでしょう。
結論を言いますと、連中の弱点は『銀』と『紫外線』ですね」
「……………………まぁ、なんだ。
取り敢えず、特徴からするに、更に吸血鬼っぽくなったな、とは思うが、1つ良いか?
銀、に付いては一旦置いておくとして、連中、一応は夕方とは言え、普通に日が出てる時間帯に外ほっつき歩いていたぞ?」
サルートからお出しされた弱点に対して、ツッコミを入れる俺。
実際に対面し、狙われている身としては切実な問題である為に、その辺りの情報が曖昧だったり、ガセや誤認が混じっているととても困る事になる。
が、父としてはそのツッコミも想定内であったらしく、浮かべていた微笑みを消す事も無く言葉を続けて行く。
「えぇ、そこは分かっていますよ。
それに、私も言いましたよね?
『日光』では無く『紫外線』だ、と。
この2つは、似て非なるモノ。
そして、更に言うのであれば、私が実験したのはあくまでも『本体』の方であり、君が見たのは彼らが肉体を纏っている状態で出歩いていた場面のハズです。
ならば、まだ君も試してはいないのでしょう?
アレに紫外線を直接照射したらどうなるのか、なんて事は、ね?」
「…………まぁ、そこまで思い切りマッドな顔をする程に、色々と実験した結果、って事は信じるがね。
しかし、なんでまたアレに直接紫外線を照射しようと思った訳だ?」
「切っ掛けは些細なモノだよ。
アレの一部を取り分けたシャーレを、偶々窓の近くに置き忘れてしまってね。
その際に、日が傾いたせいで差し込んだ陽光がシャーレへと直撃し、一部とは言えアレが悶える様な振動とさざ波を表面に発生させていたのだよ。
後は言わずもがな、ソレを発見し、その様な結果を齎した原因は何か、を調べた結果、陽光の中でも紫外線に極めて強く反応する事が分かった、と言う訳さ」
「ほ〜ん?
それで?
連中に紫外線を当てると、結局の処どうなるんで?」
「またせっかちだねぇ。
そんな事では、女の子に嫌われてしまうよ?
少しは、余裕を持たないと」
「いや、そう言うのは良いから」
俺が素気無く返したせいか、父は残念そうな顔をする。
が、寸前までお節介焼きなオバサンだとかと同じ表情を浮かべていた為に、特に罪悪感なんかは抱く事も無く、そのまま続きを身振りで促す。
「じゃあ、結論から入るけど、紫外線を直接照射してやると、連中は灼ける。
コレは、肌が弱いと日焼けで肌が真っ赤になる、だとかのレベルでは無く、文字通りに灼ける。
それこそ、我々が物理的に炎を押し当てられたりだとかした際に発生するであろう現象が、照射した部分に発生する程度には、よく効くみたいだよ?」
「…………つまり、当てれば焦げる、と?」
「そうだね、端的に言えばそうなるよ。
まぁ、とは言え市販のブラックライト程度では、多少煙が出て表面に焦げ目が出来る、程度でしか無かったし、血液の数滴も垂らして暫く放置していたらソレも無くなってしまう程度でしか無かった。
流石に、ソレだけでバーベキューにしようと思ったら、特注かつ大型の紫外線照射器でも作って、高出力モードで炙る、位の事はしないと出来無いかもだけど」
「う〜ん、微妙。
それだと、身体を破壊して中身を陽光に晒せば、あっという間に連中の焼却完了!とはならない訳だし、有効打かと言われれば微妙じゃないか?
銀の方は?」
「そっちに関しては、それなりに、かな?
とは言っても、大昔のオカルトみたいに、聖なる魔力を帯びているから〜、みたいな話では無いけどね?
連中、どうやら銀に触れると、重篤な金属アレルギーに似た反応を示す様でね。
試した時は純銀の針をシャーレの内容に触れさせたんだけど、それだけで過剰な反応を示してほんの数秒で溶解し始めたから、多分直接的な効果ではこちらの方が高いだろうね」
「ほぅ?
それって、銀なら何でも良いのか?」
「さぁ?
ただ、私の方で試した結果、別に純銀でなくても同じ様な効果は出るし、何なら固体としての『銀』でなくとも、極端に薄めない限りは溶液としての硝酸銀とかでも反応したから、やっぱり銀イオンの濃度が関係しているんじゃないかな?」
「つまり、銀メッキだろうが、混ぜ物入りのシルバーアクセだろうが、取り敢えず銀なら効果が見込める、と?」
「多分ね。
まぁ、私が実験した限りでは、と言う事にはなるし、何より時間が無かったから紫外線からの着想を得て試してみただけだから、他にもっと効果のあるモノもあるかも知れない。
あ、因みにニンニクは効果無かったよ。
聖水に関しては…………光属性をエンチャントした水、で代用したからか、特に変わった反応は無かった印象だね」
「いや、思いっ切り吸血鬼意識してますやん。
その感じだと、もしかして残ったヤツを死んでも大丈夫なヤツに注入して、どの程度で変異するのか、だとか、万が一に備えて殖やせないか、とか試して無いだろうな?」
「…………………………………………ハハッ、ナンノコトダロウネ?」
「…………おい、今の台詞、俺の目を見てもう一度言ってみろよ。
下手しなくても、コレ家族会議で済まない案件じゃないか?」
「ははっ!
その時はキミヒト、君も道連れにさせて貰うよ!
何せ、この件は君が持ち込んだのだからね!!」
そう笑いながら言い切った父サルートは、冗談を口にしている目をしていなかったのであった……。




