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そんなこんなで逆追跡を始めて約1時間。
夕闇が迫りつつある最中、漸く追い掛けていた背中が目的地へと到着した様子。
とは言え、別段ソコが目的地であった、と俺が知っていた訳では無い。
ただ単に、俺が逆追跡を仕掛けていた男(推定)が、真っ直ぐにそこへと向かい、到着すると同時に周囲を警戒する様子も無く吸い込まれて行ったから、と言う訳だ。
当然、周囲に人気は無い。
と言うよりも、人気が無いからこそ、拠点ないし倉庫か何かとして使用している、と言う事だろう。
何せ、今しがた俺が追跡者を尾行し終えた場所は、廃墟となった倉庫街の1つ、であったのだから。
以前、兄貴がよく使う拠点に関して説明した際にも触れた通りに、現在のこの国は状態としては『復旧途中』となっている。
ズバリ、父サルートが率いる原初の侵略組織の侵攻の爪痕が、未だに癒えていないのだ。
まぁ、正確に言えば、癒えたが癒えていない、と言うべきだろうか?
何せ、侵略組織とは文字通り、潰しても潰してもしつこく湧き出て来てキリが無い存在なのだから、だ。
歴史を振り返れば、一応は父が与えた被害からは、この国は脱却する事は出来ていた。
寧ろ、彼が積極的に、平和利用しやすい技術や異界の物資を提供した事で、その前よりも経済的には上向きになった程、であったらしい。
そこで、破壊されて廃墟となった建物を取り壊し、経済圏を一気に広げる為に諸々を造ろうか!となったタイミングで、最悪の事態が発生した。
────そう、新たな侵略組織の発生、である。
当時は、それはそれは大変な混乱が発生したらしい。
と言うのも、当時は侵略組織による侵攻は父による一回こっきりであり、次が在る、だなんて事は、微塵も可能性を考えすらもしていなかった、のだそうだ。
一応、父は可能性としては有り得る、として助言と忠告はしていた。
『自分がこうして世界を渡れたのだから、他の世界が出来たとしても、不思議では無い』
『かつて、侵攻先を他の世界に出来ないか、と試行錯誤した事があったが、結局この世界にしか繋がらなかった』
『もしかすると、他の世界に対する侵攻、と言う手段を取られた場合、必然的にこの世界が対象になるかも知れない』
今では、一般的にも知られている『多次元世界ハブ構築論』。
その走りとなる提言だったが、偶々そうなっただけだろう?君の世界はそうだったかも知れないが、他までそうとは限らないだろうさ、と取り合われる事も無く、結局の所事件は起きてしまった、と言う形であったのだとか。
まぁ、その様な形で、再度の侵攻が発生した訳だが、タイミングと事態が極悪に過ぎた。
先ず、さぁコレから邪魔な廃墟を撤去して新しく造ろうか!と言うタイミングであった為に、今俺が居る様な倉庫街が造られ、山程そこに物資が詰め込まれていたのだが、初手でソコに侵略組織が現れ、破壊の限りを尽くされ、見事にゴミの山へと変貌させられた。
コレは、後の調べにて、一応侵略組織側でも、なんか一杯集まってるな?程度の認識はあったみたいだが、幾つも在った攻撃地点候補の1つでしか無かったらしく、計画性、と言う点ではほぼ皆無な事態であり、判明した直後は振り上げた拳を振り下ろす事が出来ず、文字通り血管がキレた者が続出したって話だ。
次いで、戦力。
当時は、もう侵攻なんて起きる事は無い、起きるハズが無い!とまで思われていた為に、当然の様に有事の際に造られた戦力の殆どが、解体されていた。
まぁ、考えれば、当然の話。
幾ら有事であれば万感の意を込めて歓迎される戦力であったとしても、平時に於いては何の役にも立たないガラクタに過ぎず、更に言えば維持しておくだけでも無限に諸々を食い潰して行く金食い虫に過ぎない。
なれば、この先経済的に再成長するのだから!と真っ先に削り取られ、最早最低限残すのみ、となっていた彼らでは、再びの侵攻を食い止める処か、被害を広げない様に奮闘するので精一杯であり、防げるハズも無かった訳だ。
そこは、当然母達初代戦隊ヒーローにも話が及ぶ。
父を下したその後にチーム内でゴタゴタ(意味深)が在った上に、もう戦力として必要が無いから、と解散していた彼らに対して、当然の様に集合する様にと政府からの命が降った。
しかし、彼らはソレを
『既に自分達は引退させられた身であり、そうして引退しても汎ゆる事態に対応出来る手段は既に確立してあり、時代遅れとなった貴様らに無駄飯を喰わせてやらなくてはならない理由は無い、とまで言われたのだから、再び指揮下に入らなくてはならない理由は無いハズだ』
として全員がバッサリと拒否。
幸いにして、当時使われていたスーツや武装は回収されていた為に、新たに適合者を探す段からの始まりとはなったが、1からの開発では無くなっただけまだまだマシ、と言う程度の状況であったのだとか。
そうして、政府は物資も戦力も失った状態で、再び侵略組織と対峙する羽目になった。
まぁ、不幸中の幸いとして、あまり間を置かずに行われた蛮行であった為に、政府側にもある程度の有効なノウハウが残されていた事もあり、最初の侵攻の際よりは、総合的な被害で見ればまだマシ、程度に収まったのだとか。
しかし、その教訓として、いつ何処から侵略組織が現れるか分からない、戦力は例えそれが金食い虫であったとしても保持していなければならない、と言うモノを、完全に脳に焼き付けられる羽目になった訳だ。
そして、ここからが現在俺の目の前にも広がっている廃墟群が残されている理由にも繋がるのだが、当時の政府は諦めたのだ。
可能性云々の話では無く、実際に2度目の侵攻が、しかも十数年経過して、と言う訳では無く、ほんの数年程度のスパンで発生した、と言う事は、もしかしなくても次が在る可能性が高い、と言う事。
ならば、備えるべきはそちらであり、他は余裕が出来てからの後回しで良い。
そう、幾ら経済的に爆発的な成長が見込め、実際に急角度で右肩上がりになっていたとしても、その根本を破壊されてしまっては、全く以て意味が無い。
更に言えば、幾ら現世で金を稼いだとしても、あの世にまで持っていく事は出来無いし、死んでから使う事は出来ないのだから。
ならば、注力すべきは先ず戦力。
例え、その時点であれば、まだ廃墟群を完全に撤去する事が可能であり、無数の建築ラッシュと工場やビル群を建設出来れば、更に飛躍的に経済圏を拡大しつつ再び経済大国として世界に名を轟かせる事が出来たとしても、自分達が死ぬ可能性に対して怯えを見せ、結局諦める事になったのだ。
斯くして、この国の各所には、ここみたいな廃墟群がかなりの数、規模にて残されている訳なのだ。
一応、何度か復興の名目にて手を入れようとしてはいたみたいだが、その度に最終的に侵略組織の手によって邪魔をされ、大規模なモノは段階を問わずに尽く失敗。
最終的に、政府は自分達の手による撤去を諦め、民間へと委託される流れとなり、それぞれがそれぞれで小規模に撤去、再開発を進めている、と言うのが現状となる。
そんな訳で、俺が逆追跡を仕掛けていたヤツがここに目を付けたのは、ある意味当然、と言う事な訳だ。
何処にでも在って、それでいて誰も注目していないし、使ったとしても誰からも文句は出されない。
まぁ、流石にここまで家に近い場所に構えられている、とは思っていなかった為に少し驚いたが、それでも許容範囲内、ってヤツだろう。
「…………さて、あんまりグズグズしていても、中で見失う羽目になりかねないし、そろそろ突入するとしますかね」
そう、わざと呟きとして外部出力した俺は、特に緊張する素振りも見せず、至極自然な足取りにて目の前の倉庫へと近付いて行くのであった……。
直しても直しても壊れるのならそりゃ諦めるよね、って話




