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6/12

 

 兄である雷斧に連れられて、強引に自分の部屋へと向かわされる。

 一塊になって2階へと向かう俺達に対して母が



「幾ら明日がお休みと言っても、あんまり遅くまで騒いでちゃダメよぉ〜。

 それと、お風呂さっさと入っちゃいなさいねぇ〜」



 と声を掛けて来る。


 どうせ誰か先に入るだろう、と俺も含めた野郎共が揃って『うぇ~い』と気の抜けた返事をする。

 そもそも、母も妹も風呂が長い上に、微かな記憶によれば最近は男が先に入った風呂を妹が嫌がる様になっていたハズだ。

 なら、そっちを先に入れさせた方が良いだろう。


 そうこうしている内に、階段を登って2階へと至り、部屋へと着く。

 流石に、途中で絡まれたままだと歩き難い、と判断した為に兄からの拘束は解いているが、それでも逃がすつもりは欠片も無いらしく、ピッタリと後ろに張り付いてくれている。


 別段逃げやしないが?と思いながらも『公人』とプレートの掛かった扉を開け、共に中へと踏み入る。

 内装やら置いてある物やらは、既に記憶の遠い彼方へと押し流されてしまっており、正直『懐かしさ』よりも『実感の無さ』の方が強い。

 が、それでも帰って来た感覚は凄まじいまでのモノが込み上げて来ており、帰宅した時も、父と話していた時も、食事の時ですら途切れる事の無かった警戒心が、今この段に至って漸く解された、と実感できている様に感じられた。


 込み上げる謎の感動もそこそこに、取り敢えず、と背後へと振り返る。

 当然そこには、椅子に反対に腰掛けて背凭れを抱き抱えている兄の姿があったのだが、同時にベッドに腰掛けるもう一人の姿も存在していた。



「…………?

 なんで、お前もいるんだ、桜姫(さくら)?」


「…………別に、居ても良いでしょう?

 私も、大兄と同じく、兄が異世界で体験した事を、もっと聞きたいと思っただけですので」


「素直じゃネェなぁ。

 そこは、正直に『お話聞かせて下さい』だろ?

 それとも、『お兄ちゃんが何されたのか心配だから』とでも言えば良いんじゃねぇか?」


「大兄、黙りなさい。

 そもそも、私は未だに兄の話を全て信じている訳ではありません。

 精々、半信半疑と言った程度です。

 ですが、兄がその身から強大な魔力を漂わせているのは事実。

 私は、ソレをどうやって得たのか、得る過程に何があったのかを知りたいだけです」



 ツン、と澄ました様子で兄を突き放すその少女は、名を『主水(もんど) 桜姫(さくら)』と言い、俺の妹に当たる人物だ。

 名の由来にもなった、母から遺伝したのであろう淡い桜色の髪を腰まで伸ばした彼女の容姿は、父からの血を濃く受け継いでいるのであろう事が伺える日本人離れした整い振りであり、正しく『美少女』と呼ぶに相応しい。

 オマケに、幼少の頃よりその身に秘めていた膨大な魔力を買われ、通称『マスコット』と呼ばれる精霊と契約を交わし、現在では立派な『魔法少女』として活躍している人物だ。


 そんな彼女だが、正直俺はちょいと苦手だ。

 年頃の女の子、と言うだけでもどう対応したら良いのか迷うと言うのに、魔力を持っていなかった俺を見下している節があり、その辺の当たりが元々少しばかりキツかった、と言うのもある。

 また、魔法少女として活動を既に始めていた事もあり、中学生であるにも関わらず自身の稼ぎを持っていて、家で唯一高校生として親からの小遣いを頼りとしていた俺の事を、経済面でも余り良い感情を抱いていなかったのだろう、と察せられる素振りを見せていたのだ。


 流石に、そこまで冷たい……と言うのは少し違うかも知れないが、それでもその様な対応をされれば苦手意識の1つや2つ、芽生えて当然、と言うモノ。

 幾ら家族であり、その手の感情に寛容であれ、と説かれたとしても、それでも限度や限界と言うモノは人間である以上は存在しているのだから。


 そんな彼女が、俺の話を聞きに、部屋まで追い掛けて来る?

 何かの冗談か、もしくは都合の良い夢、ってやつか?

 まぁ、夢、って事は有り得ないし、仮にそうならばここまでの出来事全部が夢になるのだから、純粋に何か気になる事があってソレを知りたいが故に、って事だろうか?


 別段、聞かれて困る事は無いし、知りたいなら教えてやる事も吝かでは無い。

 が、何を知りたいのか、をこちらが把握していないとなると、また一から百まで話す事になるし、ソレは流石に面倒だ。

 となれば、どうするべきか……?


 そう悩んでいた俺の脳裏に、一条の電流が走る。

 そうだ、こちらが何を話せば良いのか悩む位なら、向こうに主題を提供させれば良いのだ!と。



「まぁ、知りたいなら話してやるが、別段もう1回最初から全部話せ、だなんて言うつもりは流石に無いだろう?

 なら、聞きたい事だけ質問してくれれば、ソレに答えてやるよ」


「…………?

 え、えぇ、私としても、知りたい事が知れるのであれば、どの様な形でも構いません。

 ではその様に」


「じゃあ、先ずはオレからだな!

 んでんで!?向こうの、異世界ってのはどんな場所だったんだよ、なぁ!?

 やっぱり魔物とかいたのか?ダンジョンとかも?冒険者には勿論なってランク上げとかしたんだよな!?!?なぁ!?!?!?」


「はいはい、落ち着け落ち着け。

 答えてやるから、一旦落ち着け。

 あんまり興奮して寄って来るな、気持ち悪い。

 俺には、そう言う趣味は無いんだが?」


「俺にだってネェよ!?!?」



 歳の割りに落ち着きが無い兄を押し返し、近過ぎると指摘する。

 確か、既に成人はしているハズなのだが、相変わらずグイグイ行く所は変わっていないらしく、距離の詰め方が極端に過ぎる。

 野郎共の近過ぎる戯れに、年頃の女の子が辟易していないか?と視線を配ると、何故かそこには目を見開いて食い入る様な視線を向ける妹。

 …………よもやこの娘、その歳にして早くも腐っておるか?と若干心配しながらも兄を押し返してから口を開く。



「んで、質問の答えだが、向こうがどんな場所だったか、って事なら言える事は1つ。

 クソオブクソなゲロ以下の臭いがプンプンする、肥溜めですら最高級ラグジュアリーに思える程に、人も世界も腐り切った場所、だな」


「え″、マジで???」


「マジマジ、大マジ。

 さっきも軽く話したけど、人を他所の世界から唐突に拉致っておいて、取り敢えず自分らの指示で働け、こちらの命は絶対だ!とか抜かす連中ぞ?

 しかも、こっちが至極当然な事で反論すれば、何故か不思議そうな顔をされて、その判断をするのはお前の仕事では無いだろう?なら、さっさと戦場に戻って一体でも多く魔族を倒せ、とか面倒臭さそうに言い放つのが当たり前の反応な世界だからな?

 その癖して、自分達の身の安全と権利の保障に関しては、まるで天地がひっくり返ったとしてもそこに有るのが当然、と言わんばかりの態度と反応を見せやがるからお笑いだよな」


「…………オイ、目。

 目が死んでるぞ。

 釣り上げて3日位放置された魚の方が、まだ新鮮に見てる程度には腐った目をしてやがるぞ?」


「ついでに教えておいてやるが、魔物も居たがソイツらはソイツらでヤベェ奴しかいなかったからな?

 人型の連中は中途半端に知恵が回るから罠とか仕掛けて来るし、粗末でも武器とか使ったりもする。

 そんで、形が似てたり人と同じ様に社会を作ったりする様を見て躊躇う様だったら、その動揺を迷わず突いてくる程度には悪知恵が働くからな。

 他の獣型の連中だって、デカイか小さいかが両極端で、それでいて殺意マシマシなのだけは共通してやがる。

 デカイ連中はパワーも半端ない癖して異常に頑丈だし、基本的にこっちの事を喰って美味いか不味いか、でしか判断して来ないから、エンカすれば確実に戦闘に突入するクソゲー仕様だったからな?オマケに、偶に言葉が通じる様なのが居ても『死ね』『喰う』『消えろ』しか言わねぇし、モフモフもほのぼのも欠片も無かったからな?

 小さい連中はそこに隠れると逃げるが加わった程度で殺意マシマシなのは変わり無いし、寧ろその小さな体躯を活かして寝てる隙に耳だとか鼻だとかの孔から体内に侵入して……みたいな事すらやらかしてくれやがるから、どっちが厄介か?なんて事は、じゃあ両方共に経験しやがれ!とケツを蹴り飛ばしてやる所存だから聞くんじゃねぇぞ?」


「ア、ハイ」



 最悪に近い記憶を引っ張り出したせいか、言葉が荒くなって行く。

 自分では分からないが、どうやら目も死んでいるらしく、腐爛死体よりかはマシ、と言う程度には腐っているみたいだが、双方共に常に死と背中合わせな戦場で数年間扱き使われていたのだから、多少は目を瞑って欲しい所だ。

 誰だ異世界に召喚されたら、ハーレムでモテモテでウハウハ無双か、もしくはモフモフでキャッキャウフフしながらザマァ!出来るとか言ってたヤツは!?

 俺が直接ブチ殺してやるか、もしくは同じ地獄を体験させてやるから今すぐここに出てきやがれ!?!?




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