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教室に到着して早々、異変に気付く。
どうにも、普段よりも人が少ない様に感じるのだ。
俺は、いつも徒歩で登校している。
なので、あまりギリギリにならない様に、少し早めに到着出来るタイミングで家を出るので、当然着くのもチャイムが鳴るよりも少し先になる。
が、だからと言って、別段門が開くのが先か、と言う程に早く来ている訳でも無い為に、基本的には俺が到着するタイミングで大半の生徒は教室に既に来ている状態となっているハズなのだ。
…………それが、今日は違った。
普段であれば、既に来ていて然るべき人数の半分から3分の2程度しか来ておらず、普段よりも教室内が閑散としていた。
当然、普段通りに家を出られなかった者、偶々道中でアクシデントに見舞われている者、と言った風に、何時もとは到着時間がズレている者も居るのだろうが、だとしてもコレは少々異常だと言えるだろう。
よもや、小学生の教室内でアウトブレイクが発生した、なんて訳でもあるまいし、どういう事だろうか?
そう思いながらも、自分の席へと向かって進む。
すると、到着すると同時に何時ものメンバーが揃って集まって来た。
「…………なぁ、コレ何かあったのか?」
開口一番、俺の質問が飛び出す。
まぁ、ここまで人が減っていれば、否応なしに気が付く事ではあるので、最初の問いとしては定番と言えるだろう。
ソレに対して木宮、円山、炎上寺、水連の4人は苦い顔をしながら、俺へと逆に問い掛けて来た。
「…………なぁ、主水。
お前も、昨日の放課後、誰かに襲われなかったか?」
「あん?
確かに、襲われはしたが…………って、お前『も』?」
「あぁ、俺達も、だ。
どうにか無事に切り抜けられたし、こうして普通に登校出来た、って事は、主水も大丈夫だったんだろうけど、な……」
「来て無いのは、そう言うこと、って訳か……」
そこで一旦水連は言葉を切り、苦い顔を浮かべていた。
何かしら思う所があるのだろう、とは察せられるが、それでも情報は集めないとならない為に、気付いていない素振りにてこちらから口を開いて行く。
「…………そう言えば、お前らはどうして大丈夫だったんだ?
確か、昨日は全員部活だっただろう?」
「ん?あぁ、それか?」
「それなら、偶々俺と木宮が同じタイミングで上がってな」
「で、そこでアタシとすー君が残って調べ物してたんだけど、これから帰る、って2人を見たから、合流したのよ」
「あぁ、今になって思えば、そこで合流していなければ、どうなっていたか、考えたくは無いけどな」
「…………つまり、偶然とは言え、4人で固まっていたから、どうにか撃退出来た、と?」
「まぁ、そうなるな。
少なくとも、俺や円山が1人だったら、確実に無事では済まなかったんじゃないか?」
「いや、俺達、って括りなら、せめて水連も居てくれないと無理くないか?」
「う~ん、そこまで高く評価してくれるのは嬉しいけど、でも俺もそこまでじゃ無いからね?
アレと戦うとなると、確実に1人じゃ無理だから、せめて2人の内のどっちかとは組みたいかなぁ。
まぁ、誰か1人とだけ組んで、って言われたら、確実にミキと組ませて貰うけど、ね?」
「すーきゅん♡♡♡」
「「けっ!爆ぜてろリア充!!」」
半ば掛け合いじみているが、その評価は正しい、と言えるだろう。
炎上寺の『燃焼』を除けば、確かにこいつらの中では『能力』持ちは居ない。
が、それでも特化と言うか得意分野と言うか、そう言うモノは少なからず魔術に於いても存在する。
現に、木宮は植物を操る魔術が得意だが、魔力量がそこまで多くないのと、段階を経て育てないと強力なモノは使えないから後衛寄り。
逆に、円山は結界術が得意で魔力量も多いが、俺と同じく他の汎用魔術はそこまで得手では無いので、やはり前衛として壁になるか、もしくは相手に結界を押し付ける形で殴り役になるか、の2択が大体だ。
その点、水連は汎用魔術の水属性が得意で展開速度も速い為に、前衛も後衛も熟せるタイプで隙も卒もない。
そして、残る炎上寺も、直接相手に発動させてしまうと、ほぼ相手が死ぬ、と言う『燃焼』の厄介な性質上、学校等での実技の成績は振るわないが、それでも強力な『能力』である事には変わり無い。
なので、と言う訳では無いが、この4人で組むのならば、基本的に水連か円山とそれぞれが、と言う形の方が都合が良いのだ。
何せ、木宮では余程頑張らない限りは前衛は難しいし、炎上寺も『能力』特化である為に、最低限の体術等は出来ていてもそこまで近接能力は高く無いので、やはり安全に捌ける円山か、もしくはどのポジションでも務められる水連と組みたくなる、と言う訳だ。
尤も、そんな4人が揃って『誰かと組んでいないと無理』『特定の組み合わせでないと多分無理だった』と口にする、と言うのは、彼らを良く知る俺からすると結構な異常事態だったりする。
大概の相手、それこそ『能力』持ちで手の内を知られている身内?の炎上寺を相手に、みたいな事でも無ければ、大体は自分達だけでどうにでも出来る、と大口を叩いて見せるし、実際にどうにかするか、もしくは割りと惜しい所まではやって見せるのがこの4人なのだ。
流石に、俺相手だと4人掛かりでこっちもある程度加減して、って事になるが、それでもちゃんと『勝負』が成立する程度には戦えるこいつらがそこまで言うのならば、確かな事なのだろう。
そこまで分析した俺に、今度は木宮が口火を向けてくる。
そう言うお前はどうなんだ?と。
「で、さっきの反応をみる限りだと、やっぱり主水も襲われたんだろう?
お前さんの事だし、こうして無事に登校してるんだから勝ったんだろうけど、倒したのか?」
「………………いや、倒してはいないな。
寧ろ、負けた、と言った方が正しいかも知れん」
「「「「はぁっ!?!?」」」」
4人は揃って驚愕の声を挙げる。
そして、若干処では無い位に食い気味な勢いにて、俺へと問い詰めた来た。
まぁ、それは要約すれば、『負けて何故無事なのか?』『なんで負けた判定なのか?』『戦ったのはどんな相手だったのか?』と言った所。
それらに対して、俺は特に隠す事も無かった為に、正直に答えて行く。
「負けた、って自己判定を下した理由は、こっちの目的だった『情報を吐かせる』を達成出来ずに、向こうの推定の目的であった『直接負傷させる』を達成させられたから、だな。
俺を追跡してくれたヤツは女だったけど、身体は異様に脆かったし、傷口から出血もしなかった。
今思えば身体も温かくは無かった様な気もするし、まるで死体でも相手にしていたみたいだったな。
あと、無事かどうか、で言えば無事じゃないぞ?
しっかり噛まれたし、爪も突き立てられたから、何かしら移されたみたいだ。
親父の処置のお陰でこうして普通だけど、まだ原因となるナニカが残ってるみたいだから、まだ安心は出来んがな。
まぁ、俺が持ち帰った諸々を今調べているハズだから、その内何かしらは分かるだろうよ」
「…………え?お前、そんな化け物みたいなの相手にしてたのか?」
「俺達が遭遇したのって、割りと普通?の人間だったよな?」
「そう、と言えばそう?
まぁ、暴走してる風だったけど」
「頭のおかしなヤツ、って点では一緒だけど、何だか別物みたいじゃないか?主水が襲われた相手って、まるで例の噂話のヤツみたいだ。
傷口から血も出ない、痛がる素振りも見せない、噛んだり引っ掻いたりして何かを感染させてくる。
まるで、昔ながらの映画のゾンビみたいじゃないか?」
そんな水連の言葉に、今更ながら納得の感情が湧き上がって来る俺。
手を叩いてそれだ!と言っている俺を、4人は『今更か?』と言わんばかりの視線と表情にて眺めて来るのであった……。




