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────俺が向こうの世界から帰還してから、数年が経過した。
その間、本当に、ソレはもう本当に色々な事が起きた。
ラストが本当に家に突撃してきたり、自分を『犬』として扱わせようとしてきたり。
裂崎が家に突撃してきて、俺との関係を本人曰く『修復』しようとしたり、自ら『犬』として振る舞うラストに対抗意識を燃え上がらせて暴走したり。
アリスとフレデリカの2人が独断で突撃してきたり、自分達の勝ちを確信していたら他戦力を見て戦意喪失したり。
他にも、兄貴である雷斧が担当していた侵略組織が壊滅して、実質的にニート状態に陥ったり。
妹と桜姫の方も侵略組織が壊滅し、その上で契約が切れて魔法少女でも無くなった彼女が突然ギャル化したり。
父であるサルートへと昔の因縁が降り掛かって来た事もあったし、母である桃花へとかつての仲間であり母を狙っていた者達からの猛攻が再開されたりもした。
また、俺の周囲では規模も厄介度も様々であり、中には不本意ながら歴史に刻み付けられてしまった事件も発生し、その解決に駆り出される羽目にもなった。
吸血鬼騒動、ネクロマンサーの出現、巨人の襲撃、竜争乱、悪魔の顕現等々。
正直、未だにこの世界が無事に残っている事が奇跡の類いにしか思えない事件が数多く起きる事になってしまった。
当然、俺の近くで起きた出来事であり、当たり前の様に巻き込まれる羽目になった。
勿論、一件でもミスっていれば、俺もこうして愚痴を零す事は出来無くなる事だっただろう。
寧ろ、この世界が終わるか、もしくは多元世界自体が消滅する羽目になっていたとしても、個人的には不思議では無かったと思う。
が、それら全ては過去の話。
どうにかなった。
いや、どうにか『した』。
なので、俺は今でもこうして生きている。
幸いな事にパートナーも得る事が出来たし、侵略組織が発生する前は必須となっていた大学にこそ進学はしなかったものの、無事に職を得る事も出来ている。
彼女と正式に結ばれるにはそれなり以上に柵や困難は多く、様々な意味合いにて魅力に溢れている彼女は、俺と付き合っていてもなお男を惹き寄せてならない為に、現在のパートナーとは言っても油断して良い状況とは言い難い。
幸いにして、過去とは異なり、彼女は脇見をする様な性根の腐った女では無いので、浮気の心配はしなくても良い。
が、だからといって何時までも彼女の心が俺に寄り添ってくれているから大丈夫!なんて慢心は出来無いし、ソレに胡座をかいて彼女を蔑ろにするだなんて以ての外だ。
なので、と言う訳では無いが、いつかは正式にパートナーとして結婚も考えてはいる。
が、向こうも同じ事を考えてくれている、とは限らない為に、そこら辺の見極めは慎重に行く必要が在るだろう。
俺としては最終的に2人の子供も欲しいとは思うが、向こうがどう思っているのかも不明だし、やはりそれとなく聞き出すか、一層の事今はまだだが、と前置きをした上でズバリと切り出して見るべきだろうか?
そんな事を考えていたとある休日。
「──────そう言えば」
目の前に腰掛ける父サルートが、かなり唐突に口を開いてそんな言葉を吐き出した。
偶々実家に用事があり、1人で訪れていたタイミングで、サルートに誘われて共にコーヒーを啜っていたタイミングであった為に、矛先の行方は俺にしか向いていないのだろう。
だが、唐突に『そう言えば』とか言い出されたとしても、こちらには心当たりが無い。
なので、視線で『何がそう言えばなのか?』と問い掛けつつ、首を傾げる事で続きを促して行く。
ソレを受けてか、それとも最初からそのつもりだったのか。
それは、今の今まで家族として接して来たが、終ぞ俺にはそこまで彼を理解する事は出来ていないが、それでもどうやら了承してくれたらしく、肯定らしい頷きを1つしてから再び口を開く。
「いや、前は良く言っていただろう?
『特別になりたい』って。
ソレを、あの時、別の世界から帰ってきた時に聞こうと思っていたのを、今思い出してね」
あぁ、そんな事も言っていたっけか?
なんて、感想とも取れない呟き以下のナニカが、俺の脳裏を過ぎる。
「だから、改めて聞いておこうかと思ってね。
特別になってみた感想は如何に?」
「特別になってみた感想、ね……」
呟きと共に、改めて考えてみる。
確かに、俺は誰よりも『特殊』な立場にかつて在り、それ故に『特別』へと格別の憧れを抱いていた。
それは、憧憬や尊敬の念を通り越し、最早執着や妄執の類いと言われてもおかしくは無い程度には、強烈なモノであった、と今ならば自己分析する事が出来る。
そんな俺が、異世界へと召喚される事で、特別になる為のチケットを手にする事が出来た。
そして、召喚された先にて、地獄すらも生温い程に悲惨な目に遭った事で、文字通りに『特別』へと成り上がる事には成功した。
成功はした、が…………。
「そうだな。
こんな事言えば、各方面から怒られる事になるだろう、って事は理解してるけど、敢えて言わせて貰おうかな」
「…………ほう?
それで?」
「『特別』だなんて、なってみたら思っていたよりも良いモノじゃ無かった、かな」
「…………ふふっ。
まぁ、そうだろうね。
誰かの特別、と言う程度であればまだしも、キミヒトはもっと多くの人の特別になってしまったからね。
なら、そうして特別だと思ってくれている人々に対して、良くして上げる義務が生まれる。
だから、人は『特別』を目指したとしても、特定の誰かの特別しか目指さないんだよ。
君みたいに、皆の特別、になると、なってしまうと、とても大変な事になる、と理解しているから、ね」
未だに年老いる予兆を見せずにいる父だが、その言葉の重みと、浮かべた笑みには苦い経験を積み重ねて来た者特有の『凄味』と『深み』が浮かんでいた。
そんな彼に対して俺は、否応無く口元に浮かんだ苦笑いを意識する事無く、ただ一言
「知ってるし、理解してるよ。
この上なく、この身を以て、ね……」
と返すのが精一杯なのであった……。
取り敢えず第一章完
本当はこの辺りで締めるつもりでしたが、リハビリも兼ねてまだ続けてみる予定
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次回、キャラ紹介を挟んでから2章に突入予定




