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────ラストの襲撃と、かつての因縁たる2人の襲来の翌日。
俺は、精神的な疲れを残したまま、朝の食卓に着いていた。
あの後、ラストが残していた、と思われる人払いの術式が完全に解け、人気が戻って来る中を必死に正体を隠して駆け抜ける羽目になったのだ。
一応、錬金術で道路やら壁やらは出来るだけ直しておいたが、そもそもの元の状態だとかを把握していた訳では無いし、時間が無かったのでほぼガワだけ、みたいな箇所もあったハズなので、バレないかどうか今は正にドキドキの最中であったりする。
その反面、奴らが術式の恩恵を受けて退散したであろう事は、忸怩たる想いだ。
途中でバレて、近くにいた対侵略組織の連中にでも追い掛けられれば良いのに。
そんな中、母が作ってくれていた朝食を頂きつつ、その温かさで内心感涙に咽びながら何とは無しにテレビを着ける。
特に意図せず、この時間帯ならばニュース程度しかやっていないだろう、とチャンネルを合わせると、その画面にはなんだが見た覚えのある名前と顔が映し出されていた。
………………疲れてるのかな?
半ば反射でリモコンを操作し、画面を落とす。
現在まで、形を変えながらも存在し続けていたソレは、内部に自律型のAIを組み込まれて久しく、そう簡単にハッキングして偽の情報を映し出す、なんて事は出来ないハズなのだが……?と目の前の装置の来歴を思い出しつつ、昨日の戦闘の疲れがやはり残っていたのだろうか?と自分自身に半ば言い聞かせる様に目頭を揉んでいたのだが、取り敢えず幻覚だったのかを確かめるべく再び画面を立ち上げる。
『────に依りますと、昨日夕刻新たな異世界からの接触が確認・認定される事となりました。
政府の発表に依れば、彼らは『アンタレス王国』と名乗っており、自らの世界が侵略された為、と亡命を希望する旨を口にしていた、との事です』
…………はい、希望は打ち砕かれました。
ガッッッッッッッッツリ聞いた覚えのある単語が零れ落ちて来たし、何なら画面に映し出されている複数の顔は全て何処かしらで見覚えがあった。
と言うよりも、恐らくはその集団の中から、俺へと誘い(?)を掛ける為に2人が派遣された、と言う形と見るべきだろうか?
まぁ、見た覚えのある、と言っても、向こうの世界で散々な命令を下してくれたり、無茶苦茶に扱き使ってくれやがったクソッタレ共の面として覚えていたモノだったので、思わず画面に拳を叩き込みそうになるが、共用の家電故にどうにか堪える事に成功する。
…………専用のだったらどうなった?勿論、拳が貫通する事になっただろう事は間違い無いけど?
まぁ、振り抜いたとしても、錬金術で如何様にも直せるけど、と何処かズレている自覚のある言い訳?を内心でこぼしつつ、一回目を閉じて大きく深呼吸して心を落ち着かせる。
別段、連中が今俺の目の前に居る訳では無いし、画面の向こう側に居る訳でも無いのだから、猛ったとしても意味は無い。
だから、あくまでもコレは情報収集。
情報を集める為に行う事であり、連中の面が視界に入ってきたとしても、それは偶然の産物なのだからあまり気にせず、事態がどうなっているのかを把握しろ!
自らの心にそう言い聞かせ、俺は更に1つ深呼吸をしてから目を開く。
そして、心を落ち着かせてから視線を画面へと固定した。
『────それらの申し出を受け、当政府はソレを検討しつつ、高官を派遣して会談を開く様に要請しました。
しかし、曰く『会談とは高位の者同士が同意の元に開くモノ。王族たる我らと平民に過ぎない貴君らとでは存在の【格】が違い過ぎる故に一方的に命じさせて貰う』と言い放ち拒絶。
更に、この国の統治権の要求と国民の奴隷としての隷属化、並びに彼らアンタレス王国の国土を蝕む他民族の排除、拉致された要人の正常な状態での救出、また特定の国民に関する情報と身柄の提供を命ずる形となった、との事です。
当政府は当然それらの要求を即座に却下。
並びに、彼らアンタレス王国を即時に【第参拾七号侵略組織】として認定を掛ける事を決定致しました。
付きましては、今後それらの名称で活動する人員・組織に接触のあった場合、直ちに最寄りの対侵略組織へと通報を────』
……………………正直、言葉が出なかった。
え?アレだけ偉そうな態度を取っておいて、あいつら本格的に亡命するつもりだったの?
しかも、謎の上から目線で?
しかも、タイミング的に俺への襲来と会談未遂はほぼ同時進行だったみたいだけど、俺に対するアレコレはもしかしなくともあの2人の独断だろうか?
それと、何やら特定の誰かの身柄やら情報やら、も求めていた、とか今言っていたが、ソレもしかしなくとも俺の事だったりするんだろうか???
疑問符が、頭の中を駆け巡る。
あいつらが、どうやってこっちに来ていたのか?はある程度ラストからの説明で察する事も出来ていたが、何故こっちに来たのか?に関してもやはり狙いは俺だった、と言う事だろうか?
でも、何故??
アレだけ、召喚してやったのだから、お前は自分達の為に働いて当然!とばかりの言葉と態度ばかり取ってくれていたハズなのに、そこまで俺に執着を見せる理由は何だろうか?
俺の時みたいに、適当な世界からまた適当な相手を召喚して使役すれば良いんじゃないのか?
それともアレか?『俺』と言う成功体験が脳に染み付いているから、他から当たりを探すよりも先ずは成功例をサルベージする方が優先!とかになったのか???
思考がグルグルと空回りし、堂々巡りを繰り返す。
あまりにも出口が遠く、また実りも無い思考は身体の機能すらも停止させる程度には俺に混乱を齎しており、そのお陰で朝食は進まず箸も完全に停止する羽目になってしまっていた。
しかし、無情にも時計は進み、画面は次のニュースを流し始める。
俺にとってはそれなりに重要になりそうな情報であっても、世間様からすれば幾つも湧いては潰されて行く侵略組織の1つであり、精々が主な侵攻場所とその頻度程度にしか興味が無いのだから、扱いとしては仕方無い。
が、俺個人として、せめてもう少し詳しく情報を載せてくれても良かったんじゃないかなぁ!?と若干恨めしく思ってしまったとしても、そこまで責められる様な事では無いと信じたい。
そんな訳で、遅刻しない為に残った朝食を急いで掻き込む。
残すのは言語道断なのは当然として、やはり作って貰った以上完食する事こそが礼儀であるのは間違い無い。
ご馳走でした、と手を合わせ、時間が無いながらもキチンと食器を片付けて洗い、慌ただしく家を後にする。
やはり、考えても分からない事は分からない。
なら、考えないで事が起こってから考える方が吉か。
そう結論を出した俺は、肩に担いだ鞄の傾きを直しつつ、今日も学校へと向かうべく道へと歩み出して行くのであった……。
次回、第一章エピローグ




