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「え、ヤダ」
俺から放たれた再度の否定に、何故か固まる2人。
あれだけ自分達が下手に出て、お前が必要だから、と説けばたちまちに掌を返して跪く事間違いなし!だとか思っていたのだろうか?
虚無に至ったハズの俺の心が、逆に感心を覚えて蘇生する程度にはイカれた事を抜かしてくれてやがったので、敢えてそこを指摘してやる事にする。
「そもそもの話、なんで俺がお前らに協力してやらなくちゃならない訳?」
「…………え?
そ、それは…………貴方が勇者様だから……」
「その『勇者様だから〇〇して当たり前』って思考止めて貰って良いか?
ソレを言うのなら、俺は益々お前らの言う事聞いてやらなくちゃならない理由が無くなるんだが?」
「な、何故!?
貴方は勇者様なのですよ!?!?
私達を救う義務が有るハズです!!!」
「いや、その大前提からしてお前ら間違えてるぢゃん。
俺、お前らが勝手にそう呼んで扱き使ってくれやがっただけで、別段俺自身が『私が勇者です!』と名乗った事も、カミサマに勇者認定された事も、そう言う称号的なモノ持ってる訳でも無いんだぞ?
ただ単に、ほぼ偶然お前らに拉致されただけの俺が、生きて帰って来る、って目的の為にやむにやまれずやった事を、犯人たるお前らの為にやってやらなくちゃならないんだ?
そんなの、理屈が通らないだろうがよ」
「…………で、ですから!
確かに、報酬をお支払いすると!」
「…………あのさぁ、金払ってやるんだからとっととヤれ!って言いたいのなら、益々他に行けよ。
俺は、お前らが嫌いで、信用ならなくて、関わりになりたくないからこうして言ってるの。
分かる?お前らに命令されるのも、扱き使われるのも、使い潰されるのももうゴメンな訳」
「で、でしたら!
今度こそ、共に「共に並んで戦うから信頼しろ、とか抜かしやがったらこの場でその首叩き落してやるぞ?」…………!?!?」
俺が滴る程の憎悪と嫌悪を込めて言葉を返してやれば、流石にフレデリカの方は理解したのか、慌てた様子を見せていた。
その為に、最期には条件になっていない様なアホみたいな事まで口走ろうとしていた為に、先んじて言葉を被せて潰してやれば、顔を青褪めさせて口にしようとしていた言葉を呑み込んでいた。
流石にここまで言えば多少は理解しただろう、と当たりを付けて、今度はアリスの方へと視線を向ける。
すると、それまでは我関せず、と言わんばかりの態度でいたアリスが、気に掛けていた爪の様子からこちらへと意識を向けてきた。
「それと、何だっけ?
婚約者になってやるから、駒として使われろ、だったか?
尚の事、受けてやる理由がありゃしねぇよ。
馬鹿にするのも、大概にしておけよ?」
「あら、何故かしら?
貴方程度の血を、私の高貴で神聖な王家の血に混ぜて上げても良い、と言って上げているのよ?
なら、歓喜に震えて感涙に咽びながら跪くのが当たり前でしょう?
寧ろ、それらの報酬を断った上で、自発的に従う事こそが道理、ってモノじゃないかしら?」
「阿呆かお前。
さっきも言ったが、そうする利が俺に欠片でもあるのかよ?
もう、こっちの世界に帰って来られている俺が、クソッタレなお前らの世界を、ゴミ以下のお前らの為に取り戻してやらなくちゃならない理由が、何処かに在るって言うなら見せてみろ、って言ってるんだよ。
それに、こっちに関してもさっきも言ったが、お前らは信用出来ない。何せ、婚約、って約束事で俺を縛り付けておきながら、自分だけは好き勝手してくれやがっていたからな。
報酬や立場を約束したとして、その約束が守られる保証が何処にある?言ってみろよ」
「そんなモノ、私が支払って上げる、と言っているのだから、それで充分でしょう?
ほら、何時までもグズグズと文句を垂れ流していないで、サッサと行動して貰えないかしら?
貴方は私達に駒として従う。
それは、もう決まっている事なのよ?」
「だから、ソレを断る、と言っているんだが?
ソレに、何時まで俺がお前らの味方、ないし中立的な立場に居る、と思い込んでやがるんだ?」
「はぁ?何を言っているの?
あの世界で生きていた人間であれば、無条件で私に味方するのが当然でしょう?
それとも、なに?
もしかして、魔族の側に付く、とか言うつもりかしら?」
「いや?
ただ、お前らがご執心で、俺を駒として求めてまで取り返そうとしている愛しの騎士団長様(笑)は既に俺がぶち殺しているから、もう取り戻せないぞ?と伝えておきたくてね」
「「…………………………………………はぁ…………!?!?」」
流石にソレは予想していなかったのか、2人揃って間の抜けた様な声を出し、表情を驚愕に歪めて行く。
その反応を目の当たりにし、やはり俺の予想通りに、俺を駒に出来た場合の第一目標はシュヴァインの野郎だったか、と納得する。
大方、俺を魔族の陣営に突撃させて情報を得るか、もしくは注目を集めさせる。
その間に愛しのシュヴァインを救出し、俺がある程度まで魔族の戦力を削れるかもしくは打倒した場合は、魔王の時の様にシュヴァインの手柄である、と喧伝して俺を暗殺。
それか、俺が撃破された場合には最低限の目的は果たしたから、とシュヴァインを確保して逃走、と言った感じの計画だったのだろう。
そうすれば、どの道俺に報酬を支払わずに済む。
まったく、穴だらけな上に狡いにも程がある計画だこと。
なんて事を考え、企みの大筋を予測していると、アリスがふらりと身体を揺らす。
まぁ、最も頼りとして、唯一愛していたのであろう本命の男が既に死んでいた、と言うのだからショックの1つや2つ受けても当然、と言えなくも無いのだろう。
…………が、ソレを俺に支えさせようとしている、と言う点に関しては俺からはどうやっても擁護してやれそうに無い為に、俺は倒れ込んで来るアリスの動きに合わせて後退し、受け止めて支える、と言った類いの行為を全力で否定する。
結果、万有引力により地面へと吸い寄せられ、倒れ込みこちらを見上げるアリスと、ソレを見下ろす俺。
その手には、暗器の類いでも握られている位は覚悟していたのだが…………どうやら何も持ってはいなかった様子。
それと、何故か倒れ込むままに放置された事に傷付いた様な表情を浮かべてこちらを見ているが、勝手に倒れたのはお前だからな?
あと、何故お前はお前で何処か嬉しそうな表情を浮かべていやがるフレデリカ?
謎の反応を揃って行う2人に、思わず首を傾げる。
伴侶たる男を喪った、と聞かされた割にはショックを受けてもいない様子だし、そこまででも無かったと言う事か?
まぁ、フレデリカに関しては、多分言及していない以上、浮気相手たる神父の『パトリック』はこの場にこそ居ないが多分無事なのだろう。当然、フレデリカと肉体関係があるのは確定だし、自分だけパートナーが残っている、と顕示したいのだろうか?
まぁ、まだ魔族に甚振られた上で殺されていないのは誠に残念ではあるが、生きているのなら見つけ出してブチ殺す楽しみが増えた、と思う事にしておこう。
そうやって、無理矢理に内心での整理を付けていると、漸くアリスが立ち上がる。
その目には、何故か謎の決意が漲っている様子であり、先程までよりはまだ人間としての温かさみたいなモノが感じられる状態となっていた。
流石に、アリスへと駆け寄って助け起こすフレデリカ。
しかし、その表情は嬉しそうなままであり、何故か勝ち誇っている様にすら見えていたが、きっと俺の気の所為だろう。
さて、状況は振り出しに戻されたみたいだぞ?と思っていると、アリスがクルリと背を向ける。
そして
「…………取り敢えず、知りたい事は知れました。
ならば、今回はこのあたりにしておきましょう。
既に、パトリック師がこの国との交渉に入っているハズです。
その結果次第で、私達の動きも決まります。
ですので、ここは一旦引きます。
………………また、会いに来るので、待っている様に」
と言い残し、人払いの術式が切れた故に集まり始めた視線をその身に受けながら、俺から遠ざかって行くアリス。
若干戸惑いながらも、その背に従う形で進むフレデリカにより、この場に俺が1人取り残される結果となる。
「…………結局、あいつら何がしたくてココに来やがったんだ……?」
俺の呟きは、誰の耳にも届く事は無く、夜闇が忍び寄りつつある街中の風に吹き散らされてしまうのであった……。




