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「させません!」
「ヤらせんぞ!!」
突如として上空に現れた影に、咄嗟に散開する俺とラスト。
流石に、魔族だけあって、少し前に『仁王』を喰らっているにも関わらず、咄嗟に動ける程度には回復していた様子だ。
まぁ、とは言え、影を中心に真反対に分かれる事になってしまったのだけどもね?
流石に、もう敵対するつもりは無い、寧ろ配下(と言うか所有物?)にしてくれ!と頼まれていたとしても、さっき殺り合ったのが初対面であった以上、意思疎通に問題が出るのは当たり前だし、息が合わないのも当然と言えるだろう。
そんな俺達の間に降り立って来た何者かによって、砕かれていた地面から土煙が立ち上る。
そのお陰で襲撃者・ラストの双方の姿が見えなくなってしまうが、どうやら気配的には複数のグループが存在し、片方が土煙の中に残り、もう片方がラストの方へと向かった様子だ。
…………別段、ラストは絶対に助けないとならない相手、という訳では無い。
寧ろ、直前まで殺し合いをしていた間柄なのだから、何処ぞの誰とも知れないが始末してくれるのであれば手間が省けて寧ろ良い、と言える。
…………言えるのだが、それでもあんな目を向けられて、あれだけ必死に愛を請われた相手なのだから、流石にこのまま死んでくれ、とは言えない。
ソレに、今思い返して見れば彼女はかなりあられもない姿でいる上に、さっき頭上から響いてきた声の中には男のモノも混じっていた。
コレは、やはり助けるべきだろうか?
そんな風に、俺が若干ながらも既に絆され掛けている自覚が無いままに、謎の独占欲とも取れないナニカと戦っていると、目の前の土煙が風で流されて煙幕が途切れる。
そうして目の前に現れたのは2つの影。
ローブを下ろし、こちらに背を向けている以上、性別も人相も確認出来て居ないが、何となく嫌な感じと覚えのある気配、そして何処と無く見覚えのある気がする背格好に、凄まじく嫌な予感と言うヤツが背筋を駆け下りて行くのが感じられた。
…………なんか嫌な予感がしてきたし、持病の仮病でお腹が痛いから、ラストの事も放り出して帰って良いかな?
なんて誰にも言えないままに、ローブの人影がこちらへと振り向く。
そして、その勢いのままに被っていたフードを取ると、そこには俺の予想通りであり、それでいてそうでは無い顔が2つ収まっていた。
「…………あの時以来ね。
久し振り、キミヒト」
「お久しぶりです、勇者様。
こうして再会できた事、喜ばしく想います!」
…………そう、声を掛けて来たのは、本来ならばここに、この世界に居ないハズの2人の姿。
向こうの世界にて俺を召喚し、婚約者、として共に旅をしながらも、他の男と通じていた者達。
片や、『賢者』として数多の魔法を使い熟す、との謳い文句であった、俺がただ『王国』とのみ呼んでいた国、アンタレス王国の王女でもある『アリス=アリシア・アンタレス』。
そして、もう片方は、あの世界の宗教的権威としてその趨勢を欲しいままとし、世間では慈愛の『聖女』として通っていた回復役たる『フレデリカ』。
俺を無理矢理誘拐し、唆し、その上で裏切ってくれたクソ女2人。
そんな連中が、何故か親しみや愛情、そして罪悪感を滲ませた視線を俺へと向かって送って来ていた。
その状況こそに、俺は首を傾げる。
コイツら、向こうの世界でも態度は良くなかったし、そもそも命懸けで戦っていたのは俺だけで、後は後方でそれぞれの浮気相手と乳繰り合っていただけなのだから、俺からの信頼なんて最初から0であったのは明らかなハズなのに、何故こんなに親しそうなんだ?
しかも、罪悪感?
え、俺が知る限りだと、コイツらがそんな感情を俺に抱くのなんて、ほぼ有り得ない事態なんだけど!?
内心での混乱を面に出さない様にしていると、俄に正面側が騒がしくなる。
ラストが張っていた、と思われる人払いの術式でも崩壊して目撃者でも増えたか?と思って視線を向けると、そこには複数の魔族の姿が。
…………が、何やら様子がおかしいような?
新たに追加された魔族は男女2名なのだが、こちらはラストを助けに来たらしく、さっさと撤退しようとしている。
だが、そうして迎えに来られたラスト本人がソレに抵抗し、この場に残ろうとしている様子に見える。
その証拠、と言うには少しアレだが、大柄な男魔族がラストを背後から羽交い締めにし、その前方から小柄な女魔族が宥めようとしている様に遠目に見えているが、それらの説得?を何するものぞ!と言わんばかりに彼女が大暴れしていた。
流石に、まだ力を使うまで回復していないのか、それとも同胞相手に使うつもりが無いのかは定かでは無い。
が、それでも拘束している男魔族に対しては本気で殴り付けている様子だし、女魔族の方も必死に説得している様に見えている。
何より、元々ギリギリ半裸に収まっていた露出度が更に上昇し、そのメロンの域を遥かに逸脱した大玉スイカももろ出しにして暴れるモノだから、そちらも凄まじく豪快に暴れ回っていた。
……………………人体って、あそこまで柔らかでありながら、形を保ったままで大きくなれるんだなぁ……。
なんて風に思いながら取り敢えず眺めていると、左右からジットリとした視線が向けられて来る。
いつの間にか、俺の前から左右に移動していたアリスとフレデリカによるモノだが、別段お前らとはそんな関係では無かったのだから、俺が誰をどんな目で見ていようと関係無いだろう?
それとも、自分達が平原族だから、ラストの様な巨峰族に嫉妬しているとか?身の程を知れ(笑)!
そんな想いを視線に込めて、とある部所へと目線を送ってから鼻で笑う。
すると、片やアリスは怒りで顔を赤らめ、片やフレデリカは羞恥で頬を赤らめるも、先程まで俺が視線を向けていた大玉スイカを視界に収めると、絶望したかのような青褪めた表情を浮かべてみせ、次いで自らの慎ましやかで平坦な部分にそっと手を添えていた。
…………え?
激昂して平手打ちの一つでも見舞って来る、とは予想していたけれど、何その表情??
まるで、女としての格を見せ付けられた、だとか、絶対に勝てない相手と相対してしまった、だとか、絶対に得なくてはならないモノを奪われてしまった、だとかみたいな感じにみえるんだけど???
状況的に、俺の相手として、とか思っているみたいだけど、それこそなんで?
向こうの世界で、俺の婚約者として指名された時、思いっきり顔顰めてくれやがったよな??
しかも、その後も、2人揃って浮気三昧で禄に戦う事すらもしなかったし、寧ろ俺の事殺そうとまでしてやがったよな???
そんな状態だったのに、まるで今ラストが居る位置は本来ならば自分達のモノでソレは絶対的であったハズなのに!みたいな態度が出来る訳????
俺が2人からの精神攻撃を受けて混乱していると、更にラストの方が騒がしくなる。
どうやら、本格的に彼女が拘束を振り解いて俺の元へとやって来ようとしているらしく、仲間であるハズの魔族達へと、かなり本気に近い力で抵抗している様子であった。
だが、流石に『仁王』の直撃を喰らったばかりでは、やはり力の行使も上手くは行かない様子。
まぁ、本来の出力を鑑みれば、生きているだけでも儲け物、と言える程のモノなのだ。
更に言えば、現在彼女の身体の内で、魔臓器が最も深く傷付いているハズなので、状態的には使いたくても使えない、と言うのが正しいだろう。
尤も、ソレを言ってしまえば、ああして暴れるのなんて本来であれば論外であり、立って歩ける状態、と言うだけで奇跡レベル、本来ならば生きていたければ絶対安静、寝たきり必至なのだけれど。
そんな訳で、俺としては早々に抵抗を辞めさせ、早い内に休ませてやりたい、とは思っていた。
俺の近くで、と言うのが彼女としては最適であり、かつ僅かながら絆されてきている自覚が滲んで来た俺としても、症状が心配ではある為にその方が良いのだが、流石に周囲がソレを許してはくれないだろう。
なので俺は、せめてラストを大人しくさせようとダメ元で
「ラスト、お座り!!」
と叫んでみた。
途端に、両隣と前方から、信じられないモノを見た、と言わんばかりの視線が突き刺さる。
が、それと同時に
「ワンッ!!♡♡♡」
と、何故か甘く蕩けきった声色にて、犬の鳴き真似をしながら自らが受けていた拘束をヌルリと脱出しつつ、まるで自らの肉体を視線に晒してアピールするかの様な姿勢で地面へと座り込んで見せたのであった。
…………そのポーズ、どっちかっていうとチンチンの方じゃないか……?




