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「アナタの胤で、より強い次世代の魔族を産む。
ソレが、私がこの世界に渡って来た理由よ!」
そう断言する女魔族が再度バインッ!と胸を張る。
…………確かに、幾らでもポンポンと子を産めそうな凄いカラダをしているが、だからといってわざわざそんな理由で?と言うのが『?』で脳裏を埋められた俺の正直な感想だ。
それなら、向こうの世界の別の男、でも良かったのでは?
次に魔王として立つ魔族だとか、今頃(?)魔王を討伐した英雄、として持て囃されているであろうあの国の騎士団長だとか。
そんな事を考えていたからか、女魔族が何も無い空間へと片手を差し出す。
そして、ある一定の場所にまで伸ばした際に、そこがまるで水面であったかの様な波紋を波打たせながら、彼女の手首が空間に呑み込まれる事となった。
俺は、一気に警戒のレベルを跳ね上げさせる。
アレは空間に作用させる類いの魔術や魔導具を使った際に起きる特有の現象であり、それらを用意出来る、または使用出来る、と言う何よりの証左であると同時に、どの様な不意打ちも可能とする、と言う証拠でもあるのだから。
一体、どんなヤバいブツが取り出されるのか!?と戦々恐々としながら、空間に差し込まれた女魔族の腕を凝視する。
そして、徐に引き抜かれたその手の先には、何故か鎖が握られていた。
…………何故に、鎖?
武器や、爆弾みたいな攻撃する為の魔導具でも無く、鎖?
確かに、俺の知識の中にも、相手を自動で拘束する鎖、みたいな魔導具は存在している。
が、ソレはあくまでも自動で追尾して拘束する、と言う機能を持っている鎖であり、幾らでも迎撃する事は可能だったし、拘束されたとしても破壊して脱出する事も可能であったハズなのだから、使おうと思ったのならば先ず相手を弱らせないと話にならない、そんなモノのハズだったのだが……?
なんて思っていると、彼女の手にしていた鎖が手繰られ、その先に在ったモノごとこちらへと引き寄せられる。
一瞬、道具袋や空間収納の類いでは、生き物は入れられないから、ゴーレムの類いでも入れているのか?と思ったが、引き出されたモノを目の当たりにした瞬間、それらの思考が吹き飛ぶ事となってしまった。
…………ソレは、一目見た瞬間から、人である、と言う事は認識出来ていた。
が、ソレ以外を認識する事を、脳が拒んでいた。
外見は、華奢な人物がソッチ系のボンテージで拘束されている、と言った具合。
露出過多で、必要最低限をギリギリ満たせていない、と言う具合の布?(革?)面積しか無いそれらでは、身体の各所を隠せていなかったが、俺はソレが誰なのか、は当然として、ソレの性別がドッチなのか、すらも良く分からない状態となっていた。
コレは、別段俺の目が節穴だから、と言う訳でも、また外見から性別が判定出来ない種族である、と言う訳でも無い。
普通の人間の外見をしているのだが、双方的な特徴があってどちらなのか判別が出来ないでいるのだ。
先ず体格は先にも挙げた通りに華奢だ。
肩幅は狭いが腰回りはそれなりに広く、身長もそれなりでどちらとも言えない。
そして、胸回りは薄いが丸みを帯びた膨らみも確認は出来るし、尻は大きく全体的なラインは丸みを帯びていて、その上で腹が丸く迫り出しているので、ここまでなら貧乳で孕んでいる露出過多の女、と言えたかも知れない。
…………が、ここからが問題。
その女(?)は下は極小のパンツしか身に着けていないのだが、ソコが膨らんでいるのだ。
かなり小さくだが、確りとモッコリしている。
そして、その上で首輪に繋がる鎖を引かれて、腰をヘコヘコと振りながら息を荒げているのだ。
……………………うん、露出狂でドMなトンデモプレイの真っ最中な男の娘、ってヤツだろうか?
腹の方は…………多分、純粋に他に肉が付かない体質なのか、それともナニカ注いで蓋でもしているんじゃないかな?(ヤケクソ)
その手のプレイだと、割りとありがちだと聞き及んではいるから、多分きっとそうなんだろう。
…………でも、あの男の娘、何となく見覚えがある気がするんだよなぁ……。
革のベルトで目隠しされているから、目の色だとか目つきだとかでの判定は出来ないけれど、髪色だとかは何処かで見た覚えがある、様な気がする、んだけど……?
なんて思っていると、首輪に繋がれた鎖を手繰られ、推定男の娘が地面へと倒れ込む。
猿轡を嵌められてベルトで目隠しをされている顔面を下に、相対的に跳ね上げられた尻を上に。
そんな状態となっている彼?の差し上げられた尻へと向けて、女魔族が踵を下ろして踏み躙る。
「フッ、フヒィッッッッッッッ♡♡♡♡!!!」
俺からでは良く見えていなかったが、どうやら踵が鋭く尖っているピンヒール型のブーツを履いていたらしく、踵は差し上げられていた尻肉にガッツリとめり込み、最早刺さっている、と表現して然るべき状態となっていた。
通常ならば、激痛に悶えるハズの状態の彼であったが、しかし漏らされたのは悦楽に浸る喘ぎ声と、身に着けているパンツ越しに染み出すナニカのみであった。
…………俺は、一体何を見せられているんだろうなぁ……。
こうして意気揚々と連れ出して、見せ付けて来た、って事は、多分俺に対しての人質だとかだろうから、確実に俺の関係者か、もしくは知り合いではあるハズ。
でも俺、金髪の知り合いとかあんまり覚えが無いんだよなぁ。
少なくとも、こっちの世界には居ないハズなんだけど、誰なんだろうなぁ……?
踏み躙る方は妖艶な笑みで唇を舐め上げ、踏み躙られる方は悦楽の声を挙げながら表情を蕩けさせる。
そんな、確実にソッチ系のプレイを見せ付けられながら、何処か他人事の様に思考を巡らせ、ある意味少し前のフラグを自ら回収しておく。
そうしていると、どうやらある程度は満足したらしく、女魔族がピンヒールを尻から抜く。
その際の痛みでか、またしても男の娘が啼き声を挙げるが、ソレに構う事無く頬を赤く染め、長い髪を色気たっぷりに振り払いながら、こちらへと向き直って来た。
「あら?
お待たせしてしまった、と思っていたけれど、もしかして混ざりたかったのかしら?
そうなのだとしたら、早く言ってくれれば良いのに!
さぁ、一緒に楽しみましょう?」
「断固として断る。
お前を痛め付ける側での参加ならまだしも、なんでわざわざお前に嬲られなきゃならんねや」
「あら、残念。
私、別段ソッチ側も嫌いでは無くってよ?
まぁ、こちらの方が好みであるのは、間違い無いし否定出来ませんけど♡
しかし、そうなると困りましたわねぇ」
またしても言葉を切ってから、妖艶に溜め息を漏らす。
それだけで、賢者の石によるサポートが無ければ下半身が元気になって暴走していたかもしれない、濃厚過ぎる程に濃厚な色香をどうにか堪え、今だけは若い身体を憎らしく思いながら視線で続きを促す。
「いえ、ねぇ?
私達魔族って、強者こそを尊ぶ気質が在るでしょう?
別段、ソレは腕力や魔力やらに限った事では無いし、策略や謀略を得手とする者も少なくは無いのだから、そちらの方面での評価とちゃんとする事にはしているのよ?」
「………………まぁ、思い当たる節が無いでもないが、ソレがどうした?」
確かに、例のド変態ヤギをブチ殺した時だとか、他の【七魔極】を倒した時だとか。
その他の魔族連中が、弱っているのだからヤッちまえ!とばかりに襲い掛かって来る、なんて事は無かったなぁ、と思い出す。
平時だと、常に強襲される心配ばかりしていたのに、そういった時だけ特に何も無かったのは、そう言う事だったのか、と今になって納得した。
「なので、魔王陛下の弔いも兼ねて、我々魔族を倒して戦争に勝った!とまだ停戦協定も終戦条約も結んでいない段階で馬鹿騒ぎしていた王国の首都を襲撃した際に、魔王を倒した!と吹聴していた『彼』が、本当に陛下を倒したのか?を確かめてみたかったの」
「…………お、おぅ、そうか。
俺的には、なので、で繋がる話でもなかったとは思うが、続けてどうぞ?」
「あら、ご親切に。
で、私達としましては、実際に実力で倒していたのならば、討ち取って名を上げるも良し、種馬として次世代を富ませるのも良し。
謀略の類いでどうにかしたのなら、そのどうにかした相手、であり、消息を絶っていた『勇者』の居場所を吐かせるか、最悪コチラの下に付かせるか、と思っての行動だったって訳なのよ」
「ふぅん?」
「で、試してみたら、見事に後者。
でも、陛下をどうこう出来るレベルの知恵者では無い、とは私達の共通認識だったから、こうして貰い受けた、って事なのよ。
お分かり?」
「………………って事はつまり……?」
ここ、この段に至って、俺は嫌な予感が背筋を支配している事に気が付いた。
だが、有り得るのだろうか?
体格だとかも全然違うし、ソレに性癖だってアイツたしかオラオラな責めっ気バリバリだったハズ……。
「えぇ、ここで喘いでいる『彼』こそ、アナタを追い落とした騎士団長のシュヴァインそのモノですよ。
もしかして、気付いていなかったのですか?」
なんて希望は呆気なく打ち砕かれる事となるのであった…………。
いや、コレは分からんて。
変わり果て過ぎてて。




