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最早服なのか、それともベルトや拘束具の類いなのか。
その手の方面に詳しくは無い俺には咄嗟に判断出来ないが、それでも美しい褐色の肌を露出過多な状態で世間に晒しつつ、最早子供でも入れてるのそれ?とツッコミを入れたくなる程に、非現実的なまでの大きさの膨らみをバルンバルンさせながら、推定魔族の女がこちらへと近付いて来る。
当然、膨らみが揺れているのは上半身だけでは無い。
細すぎる腰に反して豊かな臀部は、その膨らみが前から見ていても確認できてしまう為に、重力に逆らって上向きにキープされているソレが、一歩踏み出す事にたぷん!たぷん!と揺れているのが垣間見えてしまっていた。
こんなドエロイ女が、一体人払いまでして俺に何の用だろうか?
いや、こうして俺に用向きがあって会いに来ているのだから、このまま押し倒して一発ヤッちまっても、向こうもその気だろうから大丈夫なハズ…………っ!?
と、そこまで思考が桃色に空転し、女が比較的近くにまで到達した時、俺自身が違和感に気が付く。
アレ?俺ってば、ここまで脳ミソ真っピンクな、発情上等で下半身だけで物事考えて生きてる様な猿だったっけ?と。
そこまで思考が至った事により、下半身に集中していた血液が拡散し、全身へと回り出す。
それと同時に心臓の賢者の石を戦闘状態である高機動状態へと移行させ、一足飛びに最早間近と呼べるレベルにまで近付いて来ていた女から、急速かつ無理矢理に距離を離した。
正に、俺に触れようとして、女が手を伸ばして来た寸前の出来事。
後少しだったのに、と言わんばかりに残念そうな表情を、その艶めかしくも美しく整った顔に浮かべた女は、ここに来て初めて口を開く。
「あら、残念。
もう少しで、私の虜にしてあげられたのに。
なんで、ソコで目覚めちゃうのかしらね?
アナタだって、気持ち良くなりたかったんじゃないのかしら?」
「……残念ながら、そうも言ってられんだろうよ。
確かに、アンタみたいないいオンナとヤれたら最高なんだろうが、生憎とお前ら魔族からすれば、恨み辛みが山の様に積もられているだろう事は、自覚しているんでね。
そんな連中とベッドに入るだなんて、自分から死にに行ってる様なモノだろうがよ。
それと、なんでお前ら魔族がこっちに居る?
どうやって、こっちに来やがったんだ?」
「あらあら、焦る男はモテないわよ?
それに、アッチの方も焦ってばかりだと、白ける上に上達も出来ないから、初めての童貞ちゃんよりも女の子から嫌われちゃうわよぉ?
独り善がり過ぎる、って……ね?」
妖艶な笑みを浮かべつつ、女は唇に指を添える。
厚みがありながら、それでいて瑞々しく柔らかなソレと口付けを交わしただけで絶頂させられるであろう事が、容易に想像出来る程に卑猥であり、再度思考がソッチ側に傾きつつある事を自覚した俺は、背筋を戦慄が駆け下りるのを感じていた。
…………おいおい、コイツマジかよ!?
魔王ですら突破出来なかった、賢者の石によるレジストを、しかも常時展開されている低出力じゃあない、戦闘状態の高出力状態のソレをぶち抜いて来やがった、だと!?
って事は、コイツ…………!!
「………………成程、お前がどうやって来たのか、はまぁ置いておくとしても、お前が誰で、なんで来たのか、はコレでハッキリしたな。
お前、さては【七魔極】の一角だろう?」
俺からの問い掛けに、言葉で答える事はせず、その口元に浮かべた笑みを深くする女。
最早自ら正解!と言っている様なモノだが、俺としてはクソ面倒な事態になった、と地面に膝を突いて嘆きたくなる気持ちでいっぱいであった。
────そも【七魔極】とは一体何ぞや?
その問いに対する最も単純な答えは、1つ。
かつて向こうの世界の魔王に仕えていた、扱いとしては魔王軍の大幹部、と言う形になっていた大魔族達の総称である。
とは言え、連中は普通の魔族では無かった。
要するに、こちらの世界で言う所の『能力』持ちの様な存在であり、それぞれで特殊な力を持っていたのだ。
それこそ、総合力やら戦力やらで見れば魔王の方が上であったが、特定の状況、特定の分野では魔王すらも降し得る、そんな存在が【七魔極】であった。
…………あったのだが、ここで疑問が1つ。
俺が帰還する際に使った魔導具の材料として連中の魔石(魔族の体内にある力の源)が必要だったので、魔王含めて全員殺したので、当時の連中が魔王や仲間の復讐に、と言う訳では無いハズ。
俺としても、ここまで艶やか過ぎる程に艶やかな女が居たのなら、否応無しに記憶に残っているハズなのだから。
まぁ、向こうの世界は、こっちの世界と比べても、魔力さえ有れば何でも出来る世界であったし、その規模も桁違いに大きかった。
だから、俺が殺した【七魔極】の内の誰かが、性転換してまで復活して来た、と言う可能性も、無い訳ではない、と言う事なのだ。多分。
「あら、正解!
良く分かったわね?」
「はっ!
そこまで特殊な魔力ぶち撒いていながら、ソレ以外に思い当たるハズが無いだろうがよ。
となると、こっちに来た目的はズバリ『復讐』か?
一度は自分達を殺した相手を、殺さずには居られなかった、って事だろうよ」
そう言い放った俺の言葉に、女はキョトンとしながら首を傾げる。
その仕草程度ですら、大きく張り出した胸元は柔らかく重たく揺れ、幼さすら感じる動作の中に濃厚な色香が漂っている気すらして来た。
…………しかし、首を傾げる?
向こうの世界でも、ジェスチャーの類いは大体が同じ意味合いを持つモノとして扱われていたのだから、ソレを意味する事とは…………!?
「アナタが殺した、って、じゃあ、こうしてここにいる私は、一体何だと言うつもりなのかしら?
まぁ、確かに『復讐』って面が無い訳でもないけど、自分を殺された恨み、と言うのは流石に見当違いねぇ。
別段、私まだ死んだ事も、殺された事も無いもの」
「……………………は?
お前、【七魔極】なんだ、ろう?
なら、俺が全員殺したハズだが……?」
「ええ、そうよ?
でも、アナタ勘違いして無いかしら?
【七魔極】の称号って、別段1代限りのモノでも無ければ、アナタが倒した当人達が勝手に名乗っていたら定着した自称、って訳でも無いのよ?
言ってしまえば、それぞれの家系に伝わる力と称号、って感じかしらね?」
言われて気付く。
その可能性を失念していた事を。
こちらの世界では、『能力』は今の所遺伝しない、とされている。
当然、『能力』持ちが親であれば、子供も高い魔力を持つ事になり、データの上では『能力』に覚醒する可能性は高くなる、とはなっている。
だが、そうして連続して『能力』持ちになったケースはほぼ確認されていないし、極稀にそうなった場合でも、『能力』の面で見てみれば特に系統が同じ、だとかの遺伝傾向は見られなかった、とのデータが寄せられている。
なので、目の前に現れた魔族が、【七魔極】本人だ、としか認識していなかった。
可能性として、その力と称号とを受け継いだ次世代の者である、と言う認識を、持つ事が出来なかったのだ。
となると、こっちに来た理由は父親の復讐、って所だろうか?
だが、言ってしまえば高々身内の敵討ち程度を目的として、わざわざ世界を超えてくる程の行動を起こせる程か?と考えてしまう。
そんな考えが表情に出てしまっていたのか、目の前の魔族の女は苦笑いを浮かべながら腕を組む。
ただそれだけの仕草で、グニュリと柔らかく形を変えながら、それでもなお!とばかりに存在感を主張する特大の膨らみから意識を必死に逸らす。
「まぁ、そう考えるのが自然、って事なのかもねぇ。
私としても、別段こっちに来られる手段が無かったのなら、諦めても良い、とは思っていたのよ?
それに、アナタにはある種感謝すらしているの。
ウチのクソ親父を倒してくれた事には、ねぇ?」
「…………?
父親を討ち取られた事への復讐として、こうして仕掛けて来ている、って訳じゃないのか?」
「………………?
あぁ、もしかして、まだ私の先代に見当が付いていないのかしら?
まぁ、そうよねぇ。
報告に拠れば、力を使うよりも前に討ち取られた、って話だったから、あんまり印象に残っていないのかしら。
でも、あの見た目は確実に忘れられるモノじゃあ無いハズなのだけど……」
「……………………おい、待て待て待て!?
そんなに特徴的な外見の【七魔極】なんて、俺は1人しか覚えが!?」
「あら、やっぱり覚えていたじゃないの。
でも、一応確認の為に聞いておくわね?」
ソコで一旦言葉を切る魔族。
その瞳からは、少し前までの面白そうなモノを見付けた光は消え失せ、最早ガラス玉か何かかな?と思わせる様な漆黒の闇が広がっていた。
「アナタ、ヤギ頭で筋肉モリモリマッチョマンなブーメランパンツ一丁で戦場に出てくる変態の大男に覚えは無かったかしら?」
────あ、あいつかぁ………………。




