32
「よ~し!
じゃあ、公人の覚醒と、初決闘の勝利を祝って、かんぱ〜い!!」
「「「イェ~イ!!!」」」
カチャンッ!!
場所は移ってとあるファミレス。
俺は、友人達とソコで乾杯していた。
勿論、内容としては打ち上げだ。
先の言葉にも出ていた通りに、俺の初決闘、初勝利を祝って、と水連が提案してくれて、現在に至る、と言う訳だ。
既に現在は学業も終えた放課後。
故に、他の席にも俺達と同じ様な学生服に身を包んだ男女が居るし、同じ様な雰囲気でそれぞれで会話や食事を楽しんだり、ノートを広げて勉学に勤しんだりしている。
一応、最初から遊びに行く選択肢もあった。
カラオケだったり、ゲーセンだったりも、こうして魔力による方面の技術が確立され、至る所で科学と融合、または対立する形となってもなお施設や娯楽としては残されており、技術の進化によって昔よりもよりダイナミックでエンターテイメント化が進んでいる、との事だ(円山談)。
だが、ソレに待ったを掛けたのが、俺を含めた男子組の腹事情。
要するに、俺は決闘によるエネルギー消費により、他の3人は、純粋に時間経過による空腹により、取り敢えず遊びに行く前になんか食おうぜ!となった訳だ。
なので、俺の目の前にはジュージューと音を立てて脂を跳ねさせている、鉄板ステーキセット(300g)の偉容。
兎に角、今後の憂いが1つ消えてくれた、との解放感からか、夕食の事は考えずに肉を喰らいたい、との欲望に従った結果こうなっている。
流石に、友人達もコレには唖然。
お前、そんなの頼める金あったのか!?との驚きと、え?ここで本格的に夕食採って行く気なの?と言う困惑が混ざっているのは理解しているが、やはり唸り声を挙げる腹とソレを後押しする食欲には勝つ事が出来ず、1枚とピザとフライドポテトの盛り合わせをシェアしている4人を尻目に肉を切り分け、喰らって行く。
「………………なぁ、ソレ美味いか?」
「ンメェ」
投げ掛けられた問いに対して、言葉少なに返事とする。
ここ数日、こちらに戻って来てから、幾度かの食事を挟む事により、向こうの世界での荒みきった食生活の記憶は徐々に薄れつつある。
が、それでもやはり、それらは向こうでの辛い体験と強く結び付いた記憶であると同時に、ふとした切っ掛けで度々蘇って来るモノでもあった。
故に、と言う訳では無いが、旨いものを食っている間はそれらの事を忘れていられる。
特に、向こうの世界では夢にまでみたり、そもそも存在すらしていなかった様なモノであれば、なおの事、である。
更に言えば、気を許せる友人達と共に、と言うのもまた一入だ。
向こうの世界でも、ほんの数人だけは信頼も出来る者が出来たのだが、そう言う人々に限って、ある者は魔族の策略に嵌って討ち取られ、ある者は王国側から冤罪を吹っ掛けられて処刑されて、と次々に亡くなってしまっていた。
だから、こうして複数人とワイワイ騒ぎながら食を共にする、なんて事は、家族とのそれらを除けば、本当に久し振りの事であり、心の奥底に染み入る様な感覚がした。
それこそ、多少財布を痛め付けても構わない、と思わせられる程度には、懐かしくて温かく、それだけで涙が滲んで来る様ですらあった。
「………………なぁ、ソレ一切れ分けてくんねぇ?」
「あ、俺も!俺も欲しい!!」
「ちょっとちょっと!
公人のお祝いなのに、意地汚い事言うんじゃないわよ!
アタシだって、食べたいなぁ〜美味しそうだなぁ〜とは思っても、主賓から貰おうだなんてしてないじゃない!!」
「…………でも、美味そうな事に変わりは無いしなぁ。
お値段の方が、もう少し可愛げの在る額だったら、俺も頼んでシェア出来たんだけど、流石はこの店の最高額品だ。
小遣い日前の俺だと、流石に手が出ないなぁ……」
と、欠食児童共が羨ましそうな視線を向けて来た。
なので、と言う訳では無いが、俺は口の中に入っていた肉を噛み締め、肉汁と脂の旨味を確り楽しんでから飲み下すと、4人に提案する。
「なら、ここの会計俺が持とうか?」
「「「「…………え????」」」」
唐突な主役からの奢り発言。
流石に固まる4人を尻目に、俺はメニューを開きながら店員を呼ぶブザーを押す。
「いや、別段今日これから、を全部持ってやる、なんて言うつもりは無いぞ?
でも、小遣い以外に稼ぎのアテが出来たんでな?
だから、ここの会計位ならどうにかなるだろうから、持ってやっても良いぞ?
ただし!これから行く方は、お前らで割りな?」
事実、稼げるアテはある。
と言うよりも、実は割りと熱烈に兄貴の組織と妹の所から勧誘を受けており、どちらもバイトとして出来高でも良いから!と言われている。
なので、どちらの案件で怪人でも出たのならば、サクッと出動してサクッと倒してやれば、後は1月の小遣いと変わらぬ処か、上回る額が転がり込んでくる、と言う寸法な訳だ。
そんな俺からの提案に、暫し衝撃から固まる4人。
だが、ただ俺から哀れまれて奢られるだけでなく、この後のアレコレでここの借りは返せる、と言わ事に気付いたからか、4人共に涎を垂らしながら肉が運ばれてくるのを待ち受ける事になるのであった……。
******
「いや〜、悪いね。
結局、奢って貰っちゃって」
「「「ゴチになりましたっ!!」」」
そう笑顔で言う水連に連動しながら、笑顔で頭を下げる3人。
流石に肉の力は偉大であったのか、一応は主役、と言う事になっていた俺そっちのけで全員が飛び付き、喰らいついていた。
「…………おう、じゃあ約束の通りに、この後はお前らで頼むぞ?
今の支払いで、俺のサイフは空になったんだからな?」
「「「「勿論ですとも!!」」」」
4人共に、揃って返す。
まぁ、目の前で俺がスッカラカンになったサイフを振って見せているから、と言う事も在るのだろうが、やはりこのノリと反応の良さはこいつらでしか味わえないモノだ、と確信が出来た為に、サイフは軽いのに何故か心地は悪くなかった。
さて、じゃあ何処に行く?
カラオケの方が良いか?
公人の状態を鑑みるとゲーセンは止めとく?
いや、何回、って決めた上でなら寧ろ縛りプレイになって良いのでは?
夕陽として日が傾きつつある中で、あーでもないこーでもない、と話しながら足を進める。
友人達と夕陽に染まる街を、内容なんて何も無く駄弁りながら歩くその一時こそが大事であり、青春とはここにこそ詰まっているのだな、と内心で理解した正にその時。
周辺へと、高硬度のガラスが叩き割られた様でありながら、生肉の塊を無理矢理に引きちぎる様でもある音が、周囲へと響き渡った。
「っ!!!!
総員、確認!!」
「げっ!?
木宮、無事!」
「円山、こちらも問題無い!」
「炎上寺、も大丈夫!!」
「水連も無傷だ!」
「よし、退避するぞ!!」
硬質的でありながらも、湿った要素を兼ね備えたその『音』とも呼べない音を耳にした瞬間、俺達は仲間内での点呼を終わらせ即座にその場からの移動を開始する。
一見、過去の世からすれば不審者丸出しな行動だっただろうが、現在であればそうはならず、寧ろ他に視線を移せば周囲の人々は皆、俺達と同じ様にして足早にこの場を離れようとしている。
それは、何故か?
先の『音』は、何なのか?
…………ソレを説明するのは、至極簡単な事だ。
アレは、現代人であれば必ず聞いた事のある音であり、かつ耳にしたら身に着けている端末から発せられる情報を元に、その場から速やかに避難する、もしくはその場に留まって対処する事が義務付けられている現象。
────そう、先の『音』こそ、この世界の次元の壁に孔が開けられた際に発せられる音であり、同時にソレは、その場に対して侵略組織が姿を現す、と言う何よりも明確な先触れなのであった……。




