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特別になりたい!と思っていましたが……〜なってみたら思っていた程良いモノでも無かったです〜  作者: 久遠


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「…………え?きゃぁっ!?!?」



 唐突に発生した、俺の足元から連なる槍襖が裂埼の元へと迫る。

 あからさまに硬質な音と共に発生したソレは、見掛け倒しではない硬度を持っている事が容易に想像する事が可能であり、同時にソレを喰らえば自らの身体がどうなるのか、を容易く想像させるモノとなっていた事だろう。


 思わず、と言った風に裂埼が悲鳴を挙げる。

 普段であれば、幾ら悪辣に振る舞おうと、多少弱々しく振る舞って見せれば周囲に侍る野郎共が事態をどうにかしようと動き出すしだろうし、恐らくは実際に今までそうなって来てくれたのだろう。

 現に、今も決闘の途中であるにも関わらず、フィールドの中へと乱入しようとしている連中がそれなりの数居るらしく、視界の中には入っていないものの、耳には騒々しいざわめきが届いて来ていた。


 まぁ、乱入して来たのなら、死なない程度に物理的に畳んでやるか、と決めるだけ決め、意識をフィールドの中へと戻す。

 すると、複数の連続した爆音と共に、どうにか堪らえようとして、その結果漏れ出した、と言った感じのくぐもった悲鳴が聞こえて来た。


 ふむ?と思って視線を向ければ、そこには立ち上がる無数の槍襖、とそこに纏わりつく幾つかの黒煙。

 そして、砕けた槍の隙間に、身体に無数の傷を作り、服が破れて諸肌が顕になりながらも、どうにか立っている、と言った様子の裂埼の姿。


 …………恐らく、咄嗟に『爆裂』を使ったのだろう。

 槍襖を爆破し、そうして欠けが出来た事で大きくなった槍襖の隙間に、無理矢理に身体を捩じ込んだ、と言った所だろうか。


 だが、その緊急回避も大分無茶の上での奥の手、めいたモノだった様子。

 何せ、大きく張り出した胸元やスカートが破れ、下着すらも破損しかけているのが遠目にも見えているが、ソレを気にするだけの余裕も無いらしく、息を荒げてどうにか立っている、と言った様子だ。

 …………どうせ、槍襖と同時に俺の事も爆破しようと試みたのだろうが、思っていたよりも槍襖の強度が高かった(それなりに魔力を込めておいた)為に、どうにか槍襖を破壊するのに留まる結果となったのだろう。


 そんな裂埼に対して俺は、慈悲の心から和解の手を差し出す…………なんて事はせず、一足飛びに距離を詰め、周囲の槍襖諸共に蹴り砕きながら裂埼に足払いを仕掛ける。

 当然、負傷を気にして、出血にも耐えている様子を見せている彼女がソレに耐えられるハズも無く、呆気なく足を払われて床へと倒れ込む事となる。



「あっ!?が、ぎぃ!?!?」



 ────ボギッ!!!



 その際に、どうやら手加減をミスってしまったらしく、女子が漏らすにしてもどうかと思う様な悲鳴と鈍い音を発した裂埼が、払われた足を抱えて床に蹲る。


 …………音と感触からして、もしかして今の一撃で折れたか?

 あの程度の、軽くは無いとは言え、本気でも無い足払いで??

 魔力による身体強化とか、して無かった訳???

 この程度で、なんであんなにデカい態度取れてたんだコイツ????


 頭の中を疑問符が駆け回る。

 流石に学校の授業でも、身体強化は常時展開しておけ、と習うモノであったハズだろうに、何故?なんて考えていると、痛みと恐怖とで泣き出していたらしい裂埼が顔を上げ、涙で濡れた目でこちらを見上げて来た。



「…………なんで、ねぇ、なんでこんな事するの……?

 ウチとアンタ、キーちゃんは、ずっと仲の良い幼馴染だったじゃない……。

 なのに、なんで?

 なんで、こんなに痛くて酷い事するの?

 ウチ、()()()()()()()()()()()()()?」



 必死に絞り出したのであろう、彼女の声。

 痛みを堪えながら紡がれたその言葉は、幾分か幼い頃のソレを思い起こさせるモノとなっていて、かつての俺の呼び名である『キーちゃん』と言う単語からも、ソレが滲んでいた。



 …………しかし、しかし、だ。

 よりにもよって、何かしちゃった?と来たモノか。



 ブチリ、と頭の何処かで何かが切れる音が聞こえた。

 それと同時に、普段であれば抑制し、平静を保っていたであろうこの場面でも、湧き上がる激情を抑える事が出来なくなり、思わず口から零れ出る。



「………………テメェ、今、何つった?

 何かしちゃったか?だと?

 お前、本気でソレ言ってるつもりか?」


「……………………え?で、でも……。

 ウチ、別に何かした覚えなんて無くって……。

 ただ、仲の良い男の子なキーちゃんと、一緒に過ごしていた、って事しか覚えて無くて……!」


「…………なら、なおの事性質が悪いな。

 お前と一緒に居て、仲の良い幼馴染と過ごせた、なんて事が、幼少の時期以外のどこにあったって抜かすつもりだ?

 お前が『能力』に覚醒してから、精度を上げたいから〜とか言って、嫌がる俺の事を幾度モルモットにしてくれた?

 その度に、俺が何度死にかけて、何度大人に訴えても、女の子の癇癪なのだから、と取り合って貰えずに絶望したのが、いったい何度あった事なのか、お前に分かるか?あぁ!?!?」


「ひぃっ!?」



 思わず罵声が口から飛び出して来る。

 とは言え、それも仕方の無い事だと思って貰いたいモノだ。


 何せ、目の前のコイツの口から出たのは、困惑と疑問。

 苦し紛れであったとしても、自らの行いを自覚しての謝罪や、自身の過去を正当化する為の欺瞞でも無く、本気で自らの邪悪さを理解していない者のみが発する事となる、被害者への問い掛けであったのだから。


 ついうっかり、魔力と殺気の制御が緩んで、無差別に周囲へと荒れ狂う。

 膨大な魔力圧、と言う形で出力されたそれらは、俺の殺気と相まって、まるで唐突に目の前に空腹な状態の巨大なドラゴンが現れたかの様な、根源的な捕食者を前にした恐怖と絶望とを見る者に与えていた様子だ。


 そのせいもあってか、唐突に近くから水音と、謎の異臭が発生する。

 何事か?と思って眉を潜めると、足を抱えて横方向に蹲っていた裂埼のスカートが汚れ、そこから覗く尻の下に水溜りが出来ているだけでなく、心無しか下着が盛り上がっている様にすら見える。


 顔は恐怖と絶望で流された涙と鼻水でグチャグチャとなり、折角の美少女面が台無しとなっていた。

 そんな彼女の状態を目の当たりにした俺は、比較的平気そうな顔をしている真名目先生へと視線を送る。


 まだ、このまま続けるのか?と視線で問い掛ければ、流石に女子を失禁した重傷状態のままで放置するのは不味い、と判断したのか



「この決闘、裂埼の戦闘続行不可能と判断し、主水の勝利を宣言する!

 現在は勝負の『賭け』の履行は不可能と判断し、暫しの猶予を与えるが、キッチリと履行する様に!」



 と、決闘の終了を宣言する。

 その際に覗かせていた真名目先生の視線は裂埼へと向けられており、そこには『ほれ見たことか』と言わんばかりの色が浮かんでいた。



「「「「「……………………」」」」」



 そして、静寂に支配される周囲。

 俺としては妥当な末路、としか見えないが、どうやらギャラリーとして見物に来ていた連中からすれば、予想外も良い所な大どんでん返しを喰らった気分であるらしく、誰も彼も間抜けな面を晒して呆けていた。


 …………コレは、流石にあいつらも、怖がらせる様な事になっちゃったかなぁ。

 だとしたら、久し振りに会えた、っていうのに、少し、寂しい、な……なんて考えていた、そんな最中。

 騒がしい足音が複数、俺へと近寄って来る。


 そして、俺が視線を向けるよりも先。

 あっと言う間に接近し、かつ俺を取り囲むと、まるで我が事の様に口々に祝福してくれるのであった……!




「「「「公人、良くやった!凄かったぞ!!!」」」」




本当は逆さ吊りからの尻叩きでマゾイン入りの予定だったのに、なんでこうなった……?

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