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特別になりたい!と思っていましたが……〜なってみたら思っていた程良いモノでも無かったです〜  作者: 久遠


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唐突な説明会

 


 ガラガラッ……!



 絶妙に建付けの悪い扉を開き、教室へと踏み入る。

 丁度、1限目が始まる直前であった為に、生徒だけでなく教師からも視線が集中し、居たたまれなさとも居心地の悪さとも異なる尻の座りの悪さが襲い掛かって来る。



「おぉい、遅刻だぞぉ。

 一体、何をやっていたんだぁ?」



 1限目の担当教諭が、そんな間延びした言葉を掛けて来た。

 普段であれば、授業開始直後位に教室に来る人であったハズなので、例外的に早く来ている形となるが、恐らくは真名目教諭を俺が拘束する形になっていた為に、代わりに朝のホームルームを担当してくれていたのだろう。



「あぁ、すんません。

 実は、こんな理由が有りまして……」


「あぁん?

 どんな理由だろうと、遅刻は遅刻だから付けさせて……」



 そんな彼へと、俺は1枚の書類を手渡す。

 半ば反射的にソレを受け取った教師は、言葉を途切れさせながら、驚愕に染まった視線を俺へと向けて来る。



「………………え、えぇ!?

 マジで!?本当にぃ!?

 こんな事って、あり得るのかぃ?」


「さぁ?理論やら何やらは詳しくは無いので。

 ですが、こうして認定が出された以上、在り得たんでしょう?

 で、偶々ソレが俺だった、って事ですよ。多分」


「…………あ、はぁ……。

 まぁ、こうして証拠も在るし、こう言う理由なら、仕方無いかぁ。

 取り敢えず、遅刻としては付けないでおくから、早く席に着きなさいよぉ」


「了解です」



 目を白黒させた教師とのやりとりを挟み、俺は唯一空いていた席へと目指して教室を進む。

 そうすると、否応無しに注目が集まると同時に、そうして視線を向けてくる連中の感情が手に取るように見て取れた。


 無論、大半は好意的なモノでは無い。

『無能』の癖に目立って生意気、と言うのが大半を占めているが、残りは『『無能』と同じ教室で授業を受けないとならないなんて最悪』『俺達のお陰で生きていられる『無能』の分際で態度がデカい』『目障りな『無能』はさっさと死んでくれないか?』と言うのが大体。

 殺気すら放っているヤツも居るし、向こうに行く前であればそれらの感情を向けられた事で、下手をしなくとも立ち竦む事になっていただろう。


 が、何度も言うが、向こうの世界で散々な目に、散々遭って来た俺からすれば、この程度屁でも無い。

 寧ろ、こうして殺気や敵意を向ける程度で終わらせ、実行に移せない時点で最早お察し、と言うヤツだ。


 そんな連中に対して俺は、実害も無いのだしガンスルー、のつもりであったのだが、どうやらその態度が気に食わなかったらしく、廊下側の隅に居たヤツが手に魔力を集中させ始めていた。

 学生としては体格も良く、また実戦や兄妹達の戦いを経ている俺からすれば大分稚拙だが、それでも学生でそれだけ出来れば満点、寧ろ天才の類いかも知れない、と言われるに相応しいレベルのソレ。


 自らの力に溺れ、傲り、周囲なんて自身がどうとでも出来る玩具に過ぎない、と過信している、哀れな子羊。

 そんな輩の相手をしてやるのは、些か、と言うには多分に過ぎる程に面倒なのだが、今ソレをやられると周囲への被害だとか、騒ぎの規模だとかがアレな事になる為に、これ見よがしに溜め息を吐いて見せてから、視線をソイツへと向ける。



 俺がやったのは、ただそれだけ。

 殺気をぶち撒いた訳でも、魔力を解放した訳でも無い。

 ただただ、ソイツに視点を合わせて、視線を向け、お前を見ているぞ、と知らせただけ。



 ただのそれだけだったのだが、ソイツは息を呑んだ。

 まるで、今は大人しくしているが、本来ならば途轍も無く凶暴で、凶悪に過ぎる猛獣の本性を目の当たりにしたかの様な表情で固まってしまう。

 そして、片手に集中させ始めていた魔力を霧散させ、遠目から見ても分かる位に額から尋常ではない量の汗を滴らせつつ、ユックリと俺から視線を外して行った。


 …………ふむ、軽い威嚇程度のつもり、だったんだけどな?

 ソイツをこの場でブッパしたら、流石に不味い事になるぞ、と教えてやったつもりだったんだが、何故か心がへし折れた様子だ。

 いや、より正確に言えば、アイツとは格付けが決まってしまった様にすら思える。

 別段、ムカツク、ってだけで、そんなつもりは無かったんだけどなぁ……。


 なんて考えながら、空いていた席に着く。

 すると、様子を窺っていたらしい隣の席の男子が、教師か授業を始めるや否や声を掛けて来た。



「…………おいっ!

 今日、どうしたんだよ?

 いつもなら、とっくに来てるハズなのに来ないし、さっきだって、何か見せたらハゲが引いたし何が有ったんだ?」


「そうそう!

 例え、電車や車の事故に二次的に巻き込まれて、踏み切りや信号で立ち往生喰らっても、ソレを予期してもっと早く出ない方が悪い、って抜かしながら遅刻付けてくれやがるあのハゲが、紙ペラ1枚で黙るなんて、余程だろう?」



 声を潜めつつ、興味を隠せない様子で、両隣から問い掛けられる。

 先程集中した視線とは異なり、そこには俺の安否と無事を気遣う色と同時に、事態を把握したい、との好奇心が滲んでおり、その根底に在るのは『親しみ』であるのが容易に察せられた。

 更に言えば、その顔、片やキノコを彷彿とさせる髪型によって台無しになっているイケメンフェイスと、痩せればモテるのでは?と常々思わせる福々しい丸顔な毬栗頭によって、2人が俺の友人であった事も記憶にハッキリと蘇って来る。



「まぁ、それなりに、な。

 でも、こうして話す事でも無いし、ハゲの視線もこっち向いてるから、授業終わったらだ。

 だから、『木宮(きのみや)』も『円山(まるやま)』も、今は前向いておけ、前」


「…………了解。

 でも、約束だぞ?」


「そうそう。

 ちゃんと、説明して貰うからな?」


「分かってる、分かってる。

 だから、休み時間に、な?」



 ソレを最後に、一旦会話が途切れる。

 寸前、教師がその禿げ上がった頭部を光らせつつこちらに視線を向けて来ていたが、そこには他の生徒や教師から向けられていた『嘲笑』や『見下し』等の感情は無く、寧ろ『怯え』や『動揺』の感情が色濃く滲んでいる様に見えた。



「…………じゃあ、今日は今までのお浚いから入るぞぉ。

 以前、説明した通り、大体30年位前まで、先生が学生だった頃までは、異世界云々は本当に夢物語だったんだぞぉ」



 こちらから視線を切った教師が、教科書を開きながら語り始める。

 その表紙には、『近代侵略組織学』の文字。



「こちらからしてみれば、唐突に。

 だけど、連中からすれば、計画的に、最初の侵略は行われたぁ。

 当初、空間を割って現れた彼らに、日本政府は目的等を確認する為に使節を送った。

 が、彼らは、侵略組織の尖兵、今で言う所の『怪人』に変えられ、送り返されて来た訳だぁ。

 ソレにより、日本政府は対応を『対話』から『攻撃』に変え、ここから最初期の対侵略組織の戦闘が開始される」



 以前やった内容だからか、それとも内容自体は普遍的なモノであるからか。

 周囲の生徒達は両隣の木宮と円山を含めて退屈そうにしていた。



「そこから数年間、それこそ最初のスーツが開発され、後に『戦隊ヒーロー』と呼ばれる数人の小隊が組まれるまではぁ、侵略組織との泥沼の戦いに突入する訳だぁ。

 因みに、私達はあくまでも彼らの事を『侵略組織』としか呼ばない。

 が、向こうは向こうでぇ、自分達の組織の名前を名乗ったりする事もある。

 と言うよりも、大概はそうだなぁ。

 でも、私達はそれでも『侵略組織』としか呼称しない。

 それは、何故かぁ。分かるかなぁ?」



 ソコで説明を切った教師は、グルリと教室内を見回しながら問い掛ける。

 一瞬、遅れて来た俺の事を指名してやろうか、とも思ったのだろうが、向けられて来た視線は僅かな時間のみ俺の方へと向けられ、その後スィっとずらされた。


 が、他に標的にしたい生徒が居なかったのか、それともあまり時間をかけてはいられない事情でもあったのか、教師はその禿頭を明かりに光らせながら、何処か冷ややかに答えを口にするのであった……。




「正解はぁ、連中の存在を認めない為、だねぇ。

 総称としての呼び名は必要だし、ラベル分けする為にも名前は必要だぁ。

 でも、一方的にこちらの世界に土足で踏み込み、混乱を振り撒き、犠牲を生み出した。

 魔力の概念を持ち込んだ事は評価出来るかも知れないが、それ以外は基本的に被害しか出さない『害獣』だよ。

 なら、個々の名前なんて付けてやる必要は無いし、覚えてやる必要も無いだろう?」




次回も説明会

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