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 ──────スタッ!!!



 軽やかな音と同時に、足裏に衝撃が走る。

 ここ数年、あちらでは感じる事の無かった、非常に硬質な触感に、思わず思考が暫くフリーズした。


 石畳とも、石造りとも違う、足裏から伝わる硬さ。

 更に言えば、多少は素材を選んで作られていたとは言え、基本的には革に滑り止めとして金属片を打ち付けてあるだけのブーツとはなっているナニカとは異なる履き心地に、意図せず視線を落として確認してしまう。


 そこには、スニーカーに包まれた一対の足。

 そして視線を巡らせれば、少し前まで居た魔王の居城とは確実に異なるであろうコンクリートの壁と、アスファルトで覆われた道路と言った、あちらの世界では目にする事は終ぞ出来なかった光景が目に飛び込んで来た。


 思わず、目を擦り頬をつねる。

 が、別段幻覚を見ている訳でも、夢を見ている訳でも無い、との結果が返って来た上に、その手の状態異常は賢者の石が無効化してくれる為に、やはり目の前の光景は夢では無く現実なのだ、と判断せざるを得なくなる。



「…………〜〜〜〜ッ!!!!」



 思わず飛び出る声無き歓声。

 何となく見覚えが在る、一応は路地とは言え周辺は住宅街と思しき場所、となれば、流石に思いのままに叫んで走ってはしゃぎ回る、なんて事をする訳にも行かず。

 更に言えば、路地、と表現はしたものの確実に今居る場所は天下の往来であるのは間違い無い為に、そんな事をしていれば不審者として通報される事間違いなし、である。


 そんな訳で、賢者の石の鎮静効果も駆使して俺自身を無理矢理落ち着かせつつ、先ずは状況確認だ!と自らの身体を見下ろす。

 するとそこには懐かしの制服に身を包んだ、ヒョロリとした身体が目に映っていた。



「…………え?制服?なんで??

 向こうの世界でボロボロになるまで着ていたから、まともな形で残ってるハズも無いのに?

 しかも、体型も変わってる??あれだけ必死で鍛えたマイマッソーボデーは如何に!?

 ってこれ、声も大分若いな!?」



 流石に今回は声を抑える事が出来ずに、全部口から出てしまう。

 が、それも仕方無い事だ、と思って貰いたい。

 何せ、俺の主観的な視点としては、向こうの世界から戻って来たら若返って居たのだから。



「確か17直前位で召喚されたハズだよな?

 んで、そこから数年、感覚的には4年くらい向こうの世界で過ごしてた、と思う。

 …………となると、あっちでの文字通りの必死の日々は、ほぼ全部無駄になった感じかぁ……」



 野郎が鏡なんて持ち歩くハズも無く、ペタペタと触ったりする事で輪郭やらを確認して行く。

 ついでに、俺自身に言い聞かせる事も目的として、声に出して確認する。


 服の上から触った限りだと、命がけで鍛えた身体も元に戻っている様子。

 それなりに太く硬くなっていた腕は元の枝みたいな状態に戻ってしまっているし、密かな自慢であったバキバキのシックスパックと動かせた胸板は、両方共にまな板もニッコリな平坦具合を手のひらに伝えて来ていた。


 まぁ、その辺は服装が何故か戻っている事で予想は出来ていた。

 目線の違いからも、身長も縮んでいるのだろうな、と思い至り、凄まじい迄の成長痛と共に得た180超えの身長とおさらばしてしまった衝撃を複合して、今度こそ地面へと膝を突く。

 …………確かに、帰って来る為にこそ魔王も倒したし、俺を召喚しくさってくれやがった連中の鼻を明かす為に頑張ったけど、その報酬がコレってだいぶん酷くないかね神様よ……?


 と、神に対しての愚痴を零してみたものの、ソレが届くハズも無し。

 何故なら、この手のお話では定番の、召喚される際に神様が割り込んで、謝罪と共にアレ(チートスキル)やらコレ(チート武装)やらをプレゼントしてくれる、だなんて事は無かった。

 その為、平たく言えば神様なんてモノには俺は遭遇すらした事は無いので、存在そのものを信じちゃいないのだ。


 お陰で現状(若返り?時間回帰?)も意味不明だが、向こうの世界でもクソほど苦労した。

 山程死にかけて、山程殺して、山程裏切られて、山程絶望した。

 それこそ、死んだ方が手っ取り早い、楽になれそう、この手のお話だと死んだら戻れた、とかあったハズだから試して見ようか?と思考が偏り、思わず反射的に短剣を手に創り出していた事もあった程だ。


 まぁ、召喚に際して世界を移動する際に、世界と世界の間に在る混沌とした魔力を(本来ならば)死ぬ程浴びたお陰か、俺が秘めていたらしい魔力が目覚め、同時に能力が覚醒したお陰で死なずに済んだ訳だが、結果から見れば大赤字も良い所だ。

 何せ召喚された先が人も国も常識概念もクソオブクソな状態だった、と言えば俺の積んだ苦労の程もある程度は理解して貰えるだろう。多分。きっと。


 帰す手段も技術も確立させずに召喚し、ベラベラと自分達にのみ都合の良い情報だけをこちらに流して洗脳する。

 その癖して、こちらから情報を収集しようとすれば、都合の良いモノに関しては『流石は勇者様です!』と持ち上げて来るのに、あまり都合のよろしく無いモノだと解るやいなや『ソレは勇者様が知るべきモノでは無いかと』とか言いながらプレッシャーを掛けてくれやがる始末。

 お陰で隠れてこっそりと調べる必要に駆られる羽目になったし、帰還する際に使った魔導具だって、自分で基礎理論から調べて組み立てて、ってする必要があった程だからな。


 尤も、俺としてもソレに関しては嫌がらせしてやったけどな!

 奴らが欲しがっていたモノが、同時に俺にも必要なモノだった、と分かった時点で敵の幹部の連中は派手に殺して『壊れました』と報告しつつちょろまかしてやった。

 そんで、魔王を倒すと同時にソイツからも速攻で採取して、連中の目の前で仕上げて即座に使用、こうして帰還したって流れだからな。


 まぁ、確実に連中は俺の残したブツを使おうと画策するだろう。

 何なら、魔王を倒した、って手柄も横取りして踏ん反り返る事は間違い無いだろう。

 だが、出来てもそこまでだ。

 何せ、俺が最後に使った魔導具は要求する魔力量と効果範囲が反比例する程に巨大なモノとなっており、まともに使おうとすれば連中が『瘴気』と呼ぶ、普通は即座に浄化してしまう分の魔力も含めて、また魔王とその幹部1セット分を討伐する必要が在る。

 何やら対外的には御大層な肩書や二つ名、功績等を吹聴していた様子だが、俺の後ろに隠れてチマチマ誤射援護しか出来なかった連中に、もう一度やれ、と言われた所で実現が可能な様にはとても思えない。


 つまりは、詰んでいる、ってヤツだ。

 自分達で行動を起こそうとも、実力が足りないが為に被害だけを出してる終わる。

 周辺国だとかに協力や助けを求めたとしても、それまで散々広めた評判が足を引っ張り、結局自分達だけでやらざるを得なくなる。


 唯一の心配は俺に対する再召喚だが、まぁソレは多分大丈夫だろう。

 一応、帰還の機能とか付いてないかを確認する為に、召喚に使用された魔法陣を見に行った(無許可)事があるが、アレは特定の条件下の人間を召喚する、だなんて便利な代物では無かった。

 ただ単に、極大の魔力を喰って別の世界からランダムに人間を召喚する、と言う効果しか無かったのだ。


 俺が俺自身をこちらの世界へと送還した様に、その世界を観測・認識する能力や手段が有ればまた話は違うのだろう。

 が、向こうの世界にソレが出来る能力を持った者は、俺の知る限りは居なかった

 で、あれば、完全にランダムな状態で、無限に存在する世界の中でもこの世界を引き当て、その上で何十億と居る人口の中で俺ただ一人をピンポイントで引き当てる、だなんて豪運を発揮されない限り、俺が再召喚されて地獄を作り出す、なんて事態にはならないだろう。多分。きっと。


 とは言え、その辺はもう俺には関係の無い話だ。

 例え、色々と利用されていたり、裏切られていたりして、その腹いせに連中が求めて止まなかった魔王の魔石を帰還の魔導具に使い、内包していた魔力を根刮ぎ使ってやったりだとか、連中の関係に気付いていた事を暴露してやったりだとかしていても、もう終わった話である。


 そんな事よりも、こうして念願叶って戻って来る事が出来たのだから、向こうの事なんて忘れてさっさと家に帰るとしよう、そうしよう!

 ………………まぁ、俺の体感的に、ほぼ数年ぶりに歩く道程と街並みである為に、イマイチここが何処だか分かって無いのだけど。


 と、取り敢えず足に任せて進んでみるか、と決めた俺が一歩前へと歩み出す。

 その際、ふと気になった事が口から呟きとして零れ落ちたのであった……。





「………………そう言えば、何の因果かこうして若返り?した訳だけど、俺の『能力』ってどうなってるんだろうか……?」




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