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特別になりたい!と思っていましたが……〜なってみたら思っていた程良いモノでも無かったです〜  作者: 久遠


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15

 


 金色の雷光と、黒色の拳撃。

 ぶつかったタイミングは同時。

 そして、周囲へと破滅的な轟音が響き渡る。


 拮抗は一瞬。

 黄金の神威と漆黒の叡智。

 その双方が威力を発揮した後、どちらから、と言う事も無く、俺も兄貴も弾き飛ばされる事になった。


 そして、俺も兄貴も双方共に、訓練所の縁として設置されていた結界へと叩き付けられる事になる。

 非実在性のモノとは言え、それなりに強度の有る壁に背中から叩き付けられる羽目になり、思わず息が詰まる。

 が、視線はあくまでも反対側の壁に、同じく叩き付けられている兄貴に固定したまま。


 …………当然だが、俺も兄貴も無事では済んでいない。

 俺の方は、ほぼ即座に賢者の石が命の水によって損傷を治癒してくれた事で、現状五体満足を保っているが、そうでなければ確実に右腕は千切れ飛んでいた事だろう。

 そうで無くとも、最盛期の肉体であれば兎も角、今の身体で『金剛』を使えば、少なくと肩が外れるか肘が砕けるか、と言う程度の反動は掛かるのだから、さもありなん、と言うヤツだ。

 まぁ、その分身体強化を強く掛ければ、ソレで済む訳なんだけど。


 一方、兄貴の方は、良く分からん。

 こうして視線を送ってはいるが、未だにその姿は白煙に包まれている為に、確認する事は出来ていない。

 が、予め与えておいた損傷だとか、俺の方にも来た破壊力だとかから鑑みるに、少なくとも無事では済んでいないのは間違い無い。多分。


 そうこうしている内に、兄貴を包んでいた白煙が薄れ、消え始めると、ガシャリ、ガシャリと足音が聞こえてきた。

 と同時に、俺も動ける様になり、何時までも結界にめり込んでいる訳にも行かない為に、床へと足を付けて降り立ち、兄貴の方へと近寄って行く。


 そして、程なくして互いを隔てていた白煙も消え失せ、互いの姿が白日の元に晒される事となる。

 既に無傷へと回帰していた俺とは異なり、現れた兄貴の姿は正しく文字の通りに『満身創痍』。


 全身の装甲には罅が走り、砕け散り、まともに残っているのは末端部分のほんの一部程度。

 兜も砕け、バイザーの部分から覗いていた赤光もその正体をカメラアイだとして、周囲へと晒す羽目になっていた。

 当然、身体がそこまで損傷しているのだから、腕の方はもっと悪い。

 元々千切れかけていた左腕は、上腕の半ばから完全に切断されており、そこから血液を溢れさせると同時に、バチバチと電気をショートさせていた。

 逆に、右腕は何故か比較的無事な様子であったが、それとは対照的に、必殺技を放ち、得物として振るっていたハズの鉞は、その巨大な刃の大部分を喪っており、あれだけ眩く雷光を放っていた結晶体も、その姿を暗く濁らせていた。


 俺も兄貴も、互いに無言で歩み寄る。

 そして、兄貴は砕けた鉞を掲げ、俺は俺で杭を納めていた筒が破裂し、まるで花が咲いている様な状態となっているも、まだまだ籠手としては機能を保っていた『金剛』を掲げて見せる。


 一応は形を保ち、継戦も可能な状態の俺と、最早得物としての体を成していない兄貴。

 それ故に、と言う訳では無いのだろうが、まるで仕方無い、と言わんばかりの溜め息を1つ吐いた兄貴が、手にしていた鉞の残骸を床へと取り落とし、残されていた右腕を頭上へと掲げる。


 それにより、この手合わせは、俺の勝利、と言う形にて幕を降ろすのであった……。






 ******






「ふぃ〜、今日は結構キツかったなぁ…………」



 時刻は夕刻。

 俺は、1人自室にて、膨れて重くなった腹を抱えて呟きを零していた。


 何故1人なのか?と言えば、自室なのだから当たり前、と言われてしまえばその通りなのだが、今回は少し異なる。

 何せ、ほんの1時間程前まで、改造人間達と連戦で手合わせする羽目になっていたのだから。


 兄貴との手合わせが終わった直後、周囲で観客と化していた兄貴の同僚達からは、動揺するざわめきが溢れ出た。

 それもそのハズ。

 何せ、兄貴は同世代型は当然として、更に更新された新世代型の改造人間達と比較してもトップの戦闘力と実績を誇っており、彼らが所属する組織に於いても、侵略組織との戦闘で兄貴が出ればまず間違い無く勝確、と言われる程にはその戦闘力を信頼されていたから、だ。


 それが、自分達の目の前で、完膚無きまでに破壊され、敗北する形となったのだ。

 しかも、自分達と同じ様に改造手術を受け、その上で最新の技術をてんこ盛りにされた魔改造人間であればまだしも、肉体的には真人間であり体格も特に良い訳では無い俺に対して、だ。


 コレは、流石に動揺するな、と言う方が酷だろう。

 自分達の最強が、頼りにしていた存在が、圧倒的な巨悪では無く、日常に繋がる存在に敗北したのだから、無理も無い事だろう。


 …………が、ソコで心がへし折れて再起できなくなる、と言う事が無いのが、ある種彼らの強み、と言えるのかも知れない。

 現に、手合わせが終わり、訓練所を囲んでいた結界と共に例の装置が動作を終了し、負傷その他が『無かった事』とされ、兄貴がダメージが置換された疲労によってぶっ倒れた直後、彼ら彼女らは俺に向かって群がって来た。




 曰く、俺達ともヤろうぜ!と。




 普通、あっても仲間の仇!とかお礼参りだゴラァ!!とかじゃないの?と思うのだが、どうやらそうでも無いらしい。強い相手が居るのなら、取り敢えず戦ってみたい、と思う脳筋集団だったみたいだ。

 また、兄貴でこうして負けたんだから結果は見えてるのでは?とのツッコミに対しても、事前情報も何も無い状態ならともかくある程度は見れたし、能力の相性によってはワンチャン有る、ハズ!多分!きっと!と力強く返して来る、所謂『愛されるバカ』も居た。

 が、やはり結果は変わらず、俺が一方的に蹴散らす展開が続く事に。


 そうして、結局午前はそのまま手合わせで潰される事になり、昼頃に俺がハラヘリ(ガス欠)で一時中断。

 その際に、疲労狙いならイケるのでは!?とかの話題も出たが、ソレを実行しようとした兄ちゃん達は、何故か俺を気に入ったらしく猫可愛がりして来たお姉様方によって蹴散らされていた。


 当然、昼を終えたらまた手合わせ。

 既に午前に参戦していた人だとか、それまでじっくり観戦していた人だとかから、良い一撃を貰う事も増えてきた頃、ダウンしていた兄貴が復活。即座に参戦。

 その後も、延々と続けた結果、夕方頃に俺が再度ダウン(ガス欠)

 更に、対侵略組織としていつ怪人が現れても良い様に、常に一定の人員を拠点に配置して居る必要が有る彼らは交代制で持ち回っているのだが、奇しくも兄貴の夜番のシフトが当日でその時間が迫って来ていた。

 ので、お楽しみはここまで、と言う事でお開きになり、俺は肉体年齢は歳上となるお兄様お姉様達に送られ、ついでに今回の手合わせの報酬、としてアレも食えコレも食え!と色々と食わされてこうして帰宅するに至った、と言う訳なのである。


 幸いにしてハズレを引かされる事も無く、満腹と程よい疲労感で幸せな気分。

 残る心配事と言えば、コレから家での夕食が入るかどうか、と言ったところだが、まぁこの10代男子の肉体ならば、元々ハラヘリ状態だったのだから問題無く消化してくれるだろう。

 体型の方も、賢者の石がある程度アジャストしてくれるので、デブる心配もあんまりしなくて良いのだし。


 …………しかし、今日ああして手合わせした結果、となるけれど、もしかしたらもしかするのだろうか?

 一応、あの世界で最強の存在であった魔王を、ほぼ単独で討伐している、と言う実績が俺にはある。

 だから、こちらの世界でもそれなりに強いのだろう、とは思っていた。

 思っていたのだが…………いや、まだ兄貴達と手合わせしただけでしかない。

 言い方が悪いが、彼らがこの世界に於いて、強さの序列で言う所のどの辺りに居るのかにも依るだろう。

 まさか、スライムレベルとか言う事はあるまいな?せめてドラゴン級はあってくれないとチョイと困る事になるのだけど?


 なんて事を考えていると、自室の扉から控え目なノックの音が聞こえて来る。

 はて、今の時間って誰か居たかいな?と思いつつ返事をすると、何故か妹の桜姫(さくら)が入室して来た。


 一応、家族ではあるものの、基本的にあまり話をしない。

 昨晩の会話が、記憶に残る限りではかなり久しいモノであった程の関係性でしか無い為に、こうして訪れたのが意外に過ぎて、思わず無言で彼女の顔を凝視してしまう。


 訪れたは良いものの、特に話を切り出す訳でも無くモジモジとしている桜姫。

 此方からは特に用事がない上に、来訪者の方から切り出してくれないと話を進められない俺。

 そんな両者の揃う空間は無言のままに占められていたが、遂に来訪者たる桜姫がその口を開き、沈黙を駆逐した。



「…………その、今日は大兄と訓練、をしたのですよね?

 でしたら、妹である私とも、訓練しないと不平等ではない、でしょう、か?」



 ────疎遠な妹が部屋を訪れたと思ったら、訓練のお誘いだったでござる?



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脳筋しかいないなのかこの家族
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