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特別になりたい!と思っていましたが……〜なってみたら思っていた程良いモノでも無かったです〜  作者: 久遠


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 まるで、瞬間移動でもされたかの様に感じる程の急加速により、俺の懐に兄貴が入って来てしまう。

 当然の様に、得物は振り被られ、何故か帯電している様にも見える刃は、異次元の速度域にて俺へと目掛けて放たれる事になった。


 咄嗟に、手にしていた短剣を二振り共に兄貴の振るう鉞の軌道へと割り込ませる。

 最盛期の肉体であればまだしも、この身体でソレが出来た事に若干の感動を覚えるが、ソレがどうした!と言わんばかりの勢いと威力によって放たれた一撃により、その場から吹き飛ばされてしまう。


 周囲へと散る雷光と銀片。

 グルグルと回る視界の端にてソレらを視認した俺だが、今気にするべきモノはそちらでは無い。

 どうにかして、追撃を受けずに着地する事を考えないと詰む!と判断した俺は、不格好ながらも兎に角手や足を伸ばして床へと触れさせようと試みる。


 すると、伸ばした左手が床を掠める。

 ので、勢いのままに指先が剥がされるよりも先に魔力を流し込んで錬金術を起動、周囲へと無差別かつ全力にて槍衾を形成する。

 更に、身体へと魔力を流す事で現在の体勢を把握し、左手を中心にどんな状態になっているのか、を瞬時に判断すると、弱く放っておいた魔力波によって背後に突き出ていた槍衾の位置を理解し、そこへと両足を揃えて着地した。


 思わず目が回りそうになるも、先の一撃で受けたダメージごと賢者の石が癒してくれている為に、行動には支障は無い。

 が、特に支障が無いから、と先と同じ事をしていれば、必ず痛い目を遭う事になる、と判断した俺は、未だに手の中に残っている二振りの短剣……であった柄へと視線を落とす。


 ものの見事に刃を砕かれ、柄の部分のみとなってしまっている元短剣。

 賢者の石が有る俺にとっては、幾らでも作り出す事が可能な数打ちにも等しいモノではある為に、破壊された事に対して衝撃を受けたり、なんて事は無い。

 …………無いのだが、この短剣を構成していた物質は、こちらの世界では存在しない、向こうの世界では『魔導金属(マナチタニウム)』と呼ばれるモノの一種であり、かなりの強度を誇るモノとなっている。

 勿論、魔力を流した状態が最も硬く、今回はソレをしていなかったが、そうであったとしても生半可な攻撃では罅1つ入らない程度には頑丈な物質であったハズなのだ。


 …………ソレを、ここまで完膚無きまでに破壊して見せるとは、雷斧の奴何をしくさった?

 変身するとメインウェポンが使える様になる、とは聞いていたし、能力として『雷』が使える様になる、とも聞いていたが、流石に変わり過ぎでは?

 アレか?自身の身体を雷速で動かせる、とか言うのか?んで、武器の鉞に関しては、電磁加速に追加して刃に雷を宿した事で破壊力を引き上げていた、とかか?人に対して、身内に対して使うモノでは無いのでは?


 内心でそう愚痴りつつ、向こうが覚悟を決めたのだから、とこちらも意識を戦闘用のモノへと切り替えて行く。

 そして、ここで初めて俺は、全身に魔力を漲らせて身体能力強化を行使すると同時に、心臓の賢者の石を通常の待機状態から戦闘用の高出力状態へと切り替えてしまう。

 待機状態のままであっても負傷や疲労を適宜回復してくれていたが、ソレを戦闘用出力にまで上げてしまえば、俺が魔力のみで身体能力強化を行使するよりも更に強力になる上に、回復能力が更に向上する事となるのだ。


 久方ぶり……と言う訳では無く、俺自身の感覚では毎日の様に、それこそ向こうの世界ではほぼ常時使っていたとは言え、平時では感じられない全能感が全身を駆け巡る。

 軽く肩を回し、その場で飛び跳ねれば、全盛期の時との感覚の違いに若干ながらも戸惑いを覚えるものの、少し前までとは根本的に異なる身体能力と反射神経に、少しながらも満足から首肯を1つ。


 と、そうして半ば一人遊びに没頭していると、強襲を仕掛けて来る影が1つ。

 至極当たり前の話だが、現在は手合わせの最中であり、相手たる雷斧もそこに居る。

 そして、物語やアニメでは無いのだから、わざわざそうした隙を見逃してくれるかどうかは相手次第であり、兄貴はそんな阿呆では無かった、と言う事だ。


 雷速で駆けて来て、先程と同様に得物を振り被る兄貴。

 が、今回は身体を魔力で強化している為に、その姿も視認出来るだけでなく、確りと反応し、対処する事も可能となっている!!


 周囲に響き渡る轟音。


 雷を宿し、周囲へとバチバチと放電を続けている巨大な刃は、されども俺に届く事は無く、少し離れた所で固定された様に微動だに出来なくなっていた。

 何かしらの特殊な結界で受け止められた訳では無い。

 ただ単に、俺が新たに作り出した短剣の刃によって、その場に縫い留められてしまっている、と言うだけの話である。



【おいおい!

 さっきまでとは、大違いだな!?

 まだ、そんな札を隠してやがったのか?】


「別段、隠してもいねぇし、見せてもねぇよ。

 この程度、札の1つとして数えられるかよ!」



 感嘆からか、鍔迫り合いの最中に兄貴が声を漏らす。

 恐らくは、無茶をしてまで身体強化を行った、とでも思っているのだろう。

 大方、反動として発生するダメージは賢者の石に癒させてる、とか思っているのだろうが、全然そんな事は無いし、寧ろ通常運転の範囲の出力でしか無い。


 まぁ、わざと手札を見せたり、解説してやるつもりも無いが。

 言葉に出さずに胸中にて零した俺は、鍔迫り合いのままで大きく一歩床を踏みしめる。

 すると、それまでと同じ様に、地面が隆起して槍となり、雷斧へと目掛けて伸び上がる。


 当然、ソレに直撃する事を嫌がり、鍔迫り合いを解除して下がろうとして、鉞を振り払って来る。

 それまでの短剣であれば、幾ら魔力を流していたとしても、下手をせずとも砕かれたであろう一撃。

 しかし、今度ばかりはそうはならず、寧ろ振るわれた一撃を跳ね返し、兄貴の腕を跳ね上げるまでして見せた。


 同じ素材の短剣を使っているのに、何故こうも結果が違うのか?

 答えは単純。

 先程までとは、素材と『短剣』と言うカテゴリーは一緒ながらも、形が全く異なるから。


 これまでは、切れ味と取り回しを重視しており、やや小振りで諸刃造りの形をしており、投擲も出来る様に鋒も作っていた。

 形としてはダガーナイフが近いだろうか?

 だが、今使っているモノは切れ味よりも頑丈さを重視した造りとなっており、使い方は短剣と言うよりも寧ろ盾に近しいだろう。

 刃こそ付いており、先端部も尖らせてはいるものの、やはりその重量と厚みにて叩き斬る事を目的とした形状をしており、投擲しようものならば即座に肩をいわすであろうソレは、種類や形状で言えば剣鉈が最も近しい形をしているだろうか?


 そこまで異なる種類の得物であれば、当然扱い方も異なって来る。

 これまでは、速度を出し、リーチを確保する為に、腕全体を撓らせる様にして振るい、刃を走らせる事で攻撃していた。

 が、今回の場合、寧ろ大振りにすれば重量の関係で遠心力によって外側へと向かう力が増し、扱い難くなる為に動作はコンパクトに、手首の返しで最小の円を描きながら兄貴からの攻撃を防ぎ、弾き、産まれた隙へと目掛けて叩き付けて行く。


 当然、兄貴の方もその間、黙って殴られてくれている訳も無く、当たり前の様に反撃してくる。

 俺相手に両手持ちでの全力フルスイングが当たるハズも無い、と判断したのか、鉞は合間合間で放り込んで来る強撃以外は、片手での振り払い程度にしか使わなくなったし、体術に関してもそこまで精緻で極めるに至っている、とは口が裂けても言えない程度のモノでしかなかった。

 が、実際鉞は片手で振るわれたモノですら、下手に受ければ姿勢が崩される事になるし、体術も技術の拙さを雷による加速で補っているらしく、気付いたら有効打を貰って内臓が潰れかけていた、なんて事も何度かあった。

 オマケに、全身を鎧っている装甲もかなりの強度を持っているらしく、全力に近い力で殴って漸く破壊出来る、と言うレベル。正直、直接触って干渉し分解する、なんて荒業の方が余程簡単、と言える程に壊すのが面倒な頑丈さをしていた。


 そんな訳で、互いが互いに有効打を叩き込み合い、例の装置が無ければそろそろどっちか死んでいてもおかしくは無い、程度には場が暖まって来た頃。

 俺と兄貴は、互いに示し合わせた訳でも無く、互いの必殺をぶつけ合うべく、それぞれで準備を開始するのであった……。



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