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 長い長い階段を降りきった先には、秘密基地が有りました。

 …………うん、まぁ、何と言うか、俺の目の前に広がっている光景を端的に現すと、そう言わざるを得ない訳だ。



「んで、どうよ?

 ここが、オレ達のアジトの1つ、地下訓練所も兼ねた拠点って訳よ!」



 ドヤ顔でこちらへと振り返った兄貴が、両手を広げながらそう言い放つ。

 確かに、地下とは思えない程に広々とした内部は、それまでの階段とは打って変わって人の気配と、温かな生活感に溢れていた。


 とは言え、それも良い方向に表現すれば、と言う話。

 この拠点以外ではまた違うのか、それともそうでは無いのかは分からないが、生活感に溢れている、と言うのはつまる所『割りとゴチャついている』と言う事でもある。

 また、人の気配が多い、とは、即ち狭い空間に人が集まっている『密集地域』と化している、と言う事でもある。

 故に俺の出した答えは



「拠点と言うよりもゴミ溜めでは?

 ごちゃごちゃしていて暑苦しい」



 と、兄貴の言葉をバッサリと切り捨てるモノであった。


 その言葉に、無言で胸を抑えて視線を逸らして来る雷斧。

 流石に、拠点だ!と言い放てる程度にはここには通いなれているらしく、ここがどんな環境なのか、を一応は理解している様子だ。

 となれば、思い当たる節の1つや2つは有るのか、それともそうなる要因の幾つかを、自らが作り出していた、と言う自覚が有ったからか、静かにゆっくりと膝を突いてしまう。


 ふと気配がしたので周囲へと視線を配ってみれば、そこには死屍累々とした屍の群れが。

 恐らく、俺が先に放った言葉の刃が流れ弾として被弾した面々であり、かつ自分達がやらかしている、と理解していた者達であったのだろう。

 現に、その殆どは無言で膝を突いたり、床に蹲っているだけなのにも関わらず、極少数の何人かはいそいそと、或いはノロノロと周辺に散らかる諸々の片付けに動き始めていた。


 そんな中、1人立ち上がる人影が。

 最初に被弾したが故か、それとも自分は違うから、と己の精神を騙す方向に振り切ったのかは定かでは無いが、俺の目の前で兄貴がふらりと立ち上がる。



「…………ク、クククッ!

 流石に、今のは効いたゼェ。

 コレから手合わせだってのに、まさか盤外戦術に手を出して来やがるとは、思って無かったからヨォ。

 正に常在戦場の心得、ってヤツかぁ?」


「いや、純粋に感想を求められたから答えただけだが?

 それと、別段汚ねぇのは事実だろう?

 普段からあんまり使って無いのかも知れないけど、もう少し綺麗に掃除したりした方が良いんじゃないか?」


「…………ゴフゥッ……!!」



 俺からの追撃の刃により、今度こそ床に崩れ落ちる兄貴。

 と同時に、周囲で事の成り行きを見守っていたその他の面々も、同様に追撃を受ける形となり、結果的に全員が全員胸を抑えて床へと崩れ落ちる事になるのであった……。






 ******






「…………さて、チョイとハプニングも有ったが、取り敢えず気を取り直して手合わせと行くかァ!」


「気を取り直すもなにも、取り敢えず掃除した方が良いんじゃないの?

 他の人達、皆やってるけど?」


「……………………さて、チョイとハプニングも有ったが、取り敢えず気を取り直して手合わせと行くかァ!!」


「此奴、何事も無かったかの様に、取り繕おうとしえいる、だと!?」



 俺からのツッコミを掻き消す様に、更なる大声を出す兄貴。

 そんな彼の事を、呆れを隠せなくなった視線で見る俺と周囲とだが、その距離は物理的に開いていた。


 と言うのも、先の兄貴の言葉の通りに、俺達は今から手合わせを行う。

 その為に、柵で囲われたそれ専用の試合場みたいな場所に入っているので、中央近くに居る俺達からは、周囲の見物人と化している兄貴の同僚達とは、物理的に距離が出来てしまっているのだ。


 …………そう、あくまで、この拠点に居たのは、謎の珍走団でも、浮浪者の集団でも、イカれ陽キャ大学生の群れでも無く、兄である雷斧の同僚達。

 つまり、ここは兄貴が所属する『組織』の支部の1つであり、専用の訓練施設である、と言う訳だ。


 今、俺達が入っている試合場も、その施設の1つ。

 何でも、科学と魔力とを組み合わせ、内部で発生したダメージや物理的な負傷を、精神的なダメージへと変換し、結果的に体力に対する消費、へと置き換える装置なのだそうだ。

 なので、この試合場内部であれば、普通なら死ぬ様なダメージを受けたとしても、最悪気絶するか、もしくは倒れて暫く動けなく程度で済むらしい。


 …………正直、そこまでになるのであれば、その程度、とは言えないのでは?と言いたくはなる。

 が、彼らの事情や職務を鑑みると、こうして安全に訓練の成果を見る事が出来る場、と言うのは、やはり貴重なモノなのだろう、と思われる以上、部外者の俺が口出しする事でも無い。


 それに、ここには別に監査や視察の為に来ている訳では無い。

 純粋に、手合わせする為に来ているのだから、そこら辺を考える必要性は無いのだから。


 何だかんだと考えたものの、取り敢えずは関係無い、と割り切った俺は、軽く柔軟運動の様なモノを行っておく。

 この身体は諸々が足りていない為に、多少は事前準備をしておかないと、まともに動かせない可能性すらも有る位なのだから。


 一方、兄である雷斧は、特に準備運動等はしておらず、普段と変わりの無い様子。

 寧ろ、周辺に集う観客達に、これからの試合の事は他言無用だからな!と釘を刺していた。


 これは、別段彼が余裕ぶって舐めプしている、と言う訳では無い。一応。

 兄貴には、その手の準備が必要無い。

 そう言う身体に、強制的にさせられているから、だ。


 …………以前にも軽く触れていたと思うが、俺の兄雷斧は所謂『改造人間』と言うヤツだ。

 かつて父が立ち上げたソレとは異なる組織によってこの世界に持ち込まれた技術体系の1つであり、様々な組織が様々な種類で行っている事柄ではあるが、彼の場合は肉体を機械に置換する、と言うモノであった。


 当然、そこには同意なんてモノは無い。

 適当にその辺から人々を攫い、改造を施して、成功したら洗脳して自分達の戦力として扱う。

 そんな、多少高価で手に入るかどうかは確率になる消耗品、と言うのが、彼らを改造した組織の認識にして、彼らの本来の立ち位置であった。


 が、その中で、偶然にも改造手術に適合しながらも、洗脳を施されるよりも前に目覚め、脱出する事に成功した者が現れた。

 ソレが、この雷斧が所属する組織の創設者であり、雷斧を救出した張本人でもある、らしい。


 組織の目標としては、改造人間を作り出す侵略者達の撃滅。

 その為に、判明した拠点は積極的に襲撃し、ソコで保護出来た改造人間達を仲間に加える事は珍しく無いらしく、兄貴もその口で侵略者との戦いに身を投じる事になった。


 …………と言うのが、俺が知る限りの大まかな流れ、と言うヤツだ。

 厳密に分類すれば、現在では機械を内蔵する所謂サイボーグ系統と、別の生物の特徴やらを組み込んだり、遺伝子の操作や投薬等によって人間を辞めさせたりする事も『改造』に相当する。

 オマケに、洗脳されていようがいまいが、法的にな改造人間は『人間』と言う扱いになる為に、彼らは人間であると同時に殺人者にならない様に、日々必死に戦う羽目になる訳だ。


 とは言え、ソレはあくまでも彼らが自身の選択にて選び取った現在地。

 彼らも、雷斧も、理由は様々、身内を殺された復讐であったり、改造された事への報復であったり、功名心に駆られてだったりするか、それぞれの理由でこうして参戦する事を選んでいたのだ。


 所で、話は変わるが、先も少し零した通りに改造人間には大別して2種類あり、それぞれ『身体を機械化したサイボーグ』と『別生物と混ぜたミュータント』が存在する。

 薬物関連に関しては、どちらかと言うと後者に対してドーピングする、と言う形が近いがここでは割愛。

 なので、と言う訳では無いが、実際の所兄貴はサイボーグでは?とツッコミを入れた事が以前有ったりもしたが、本人曰く


『改造人間って響きの方がカッコイイだろうがヨォ?』


 との事と、それぞれで分類してしまうと色々と面倒な事になる、らしいので彼らは『改造人間』を自称し、総称としてもそうなっているのだとか。



「ヨシッ!

 じゃあ、手合わせ開始だ!!」



 なので、と言う訳では無いが、彼らの身体能力は最早人間の域には存在しない。

 互いに離れ合い、10メートルは離れていただろうか?と言う距離を、さも楽しげに試合開始の宣言を下すと同時にほぼ0にまで潰してしまう事なんて、朝飯前に出来てしまう程度には。



「…………まぁ、分かりきっていた事だけどね」



 瞬発した勢いのままに繰り出される拳へと視線を送りながら、俺は用意していた策を起動させる。

 とは言え、別段訓練所に対して何かを仕掛けていた、と言う訳では無く、錬金術に於いて基礎中の基礎である、物質の形状を変化させる術式を仕込んだ靴に、魔力を流すだけ。


 たったそれだけの事しかしなかったが。

 それにより、急に隆起したコンクリ製の槍が、兄貴の顔目掛けて急速に迫り上がるのであった。



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