表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/38

新作始めてみました

 


 ────この世には、『特別』と呼ぶのに相応しい存在が多く在る。



 単純に偶発性によって誕生し、その絶対数が少ないモノ。


 再現性が困難な、所謂『才能』と呼ぶべきモノを発現させ、錬磨して来たモノ。


 唐突な閃きと、ソレを確実に逃さずに現実へと実現させる、または現実的な落とし所へと出現させるモノ。


 誰もが実現不可能だと諦めた事を、ただ真っ直ぐに突き詰め、諦める事無く実現させたモノ。


 誰しもが絵空事だと、有り得ない空想だ、と切り捨てた事を憂い、ソレに対しての備えを十全に行っていたが故に、自身のみならず周囲までもを救う結果を出したモノ。



 それらを総じて、人々は『特別』と呼び、崇め、憧れながらも時には異端として排除に掛かる。

 しかし、そうであったとしても、人はやはり『特別』に憧れ、焦がれ、ソレになるべく足掻き、努力し、駆け上がり、そして挫けて転がり堕ちる。


 そんな、見方によって普遍的であり、現実と何ら変わりの無い様にも見えて、それでいて少しばかり違いの在る世界にて、誰よりも立場としては『特別』な少年が居た。



 ──父は、観測されている中で最初となる20数年前に、異なる世界から次元の壁に孔を開き、後に『怪人』と総称されるタイプの敵を最初に世界へと解き放ち、己の手中に納めんとして暴れ回り、最後には正義の味方に敗れ、基地諸共に爆散して散ったと世間では言われている元『悪の総帥』。


 ──母は、同じく20数年前に、初めて異世界からの侵略者達に立ち向かうべく結成された特殊な適合者集団『戦隊』のメンバーであり、時に強引に、時に外堀を埋める形で迫って来ていた同『戦隊』のメンバー達を物理的に薙ぎ倒し、悪の総帥であった父へとアプローチを掛けていた女性型怪人幹部達を拳で吹き飛ばし、実力によって全てを横から掻っ攫って行った元『戦隊ヒロイン』。


 ──兄は、魔力・身体能力共に平凡であり、能力の類いも持たないながらも明るい中心人物、と見られるだけの一般人であったが、父の系列とは異なる『悪の組織』によって拉致され、その戦闘員である『改人』へと改造されるも、洗脳が施される寸前に仲間と共に逃げ出して見せ、現在ではソレと戦う組織に所属して日夜闘う現役『正義の改造人間』。


 ──妹は、幼少の頃より常人よりも強大な魔力を宿しており、ソレに目を付けた妖精、通常『マスコット』と契約を結ぶ事で通常の能力や魔力では考えられない規模の現象を引き起こす事を可能とし、その力を以て災害とも言える『悪意在る現象』へと対処する事を義務付けられている代わりに、様々な方面からの優遇措置を受けられる事で憧憬を集める、現役『魔法少女』。



 ………………周囲や家族の血筋や実力であれば、基本的に保持している事が当たり前の魔力を持っている事や、総数としては稀となる能力の保持者と比べても、彼の立場は『特別』だと言えるだろう。

 言えて、しまうだろう。


 だが、そんな彼『主水(もんど) 公人(きみひと)』は、血筋こそ異常なまでに『特別』に満ち溢れていたものの、彼本人は至って普通の人間であった。

 ……いや、この場合、普通である、と言うのが異常、と言うべきであっただろうか。


 何故なら、彼はほぼ万人が持ち合わせるハズの『魔力』を持たず、一定の確率で持ち合わせる『能力』も持ち合わせていない、近年稀に見る『無能力者』であったのだ。


 そうして、立場や血統で言えば誰よりも『特別』なハズであり、結果として誰よりもかつては『平凡』と呼べたであろう存在としてこの世に生まれ落ちた公人は、ひょんな事から異世界へと召喚される事になる。

 理由はもはや使い古されて腐り果てる程に平凡な、魔族に侵略を受けているから魔王を倒してくれ、と言うモノ。

 そんな、小説としては在り来り過ぎる異世界召喚によって別世界へと公人少年が辿り着く事により、物語は幕を上げる事になるのであった……。
















 * * * * * *







 轟ッ!!!!!




 暗く閉ざされた空間の中を、轟音が響き渡ると同時に空気を揺らして行く。

 当然の様に、間近で炸裂された俺の脳も空気同様揺らされる事になるが、脳震盪で気絶や平衡感覚を喪失したりするよりも先に、心臓に仕込んだ『賢者の石』とソレを起因とする万能回復薬(エリクサー)が効果を発揮し、俺の身体に発生していた状態異常とたしょつの負傷を治癒させて行く。


 ソレに遅れる形で咆哮と共に追撃の拳が放たれ、砕けた石畳による散弾と共に俺へと飛来する。

 が、1つ強く踏み込んだ事により靴に仕込んでいた錬成陣が起動し、床へと作用して俺の思考の通りに壁として瞬時に立ちはだかる。


 勿論、特に魔力を通して強化した訳でも、地属性を付与して硬度を上げた訳でも無いので、拳の一撃どころか飛散した散弾すらも防ぎ切る事は出来ずに砕かれてしまう。

 稼げたのは、ほんの一瞬。

 しかし、欲しかったモノこそはその『一瞬』であった為に、特に不満に思う事も無く、寧ろ満足すらして稼いだ時間でアイテムボックスから武装を取り出すと、拳を振り抜いた事で姿勢が崩れた『魔王』の脇腹に間髪入れずにソレを叩き込む!!





 ────轟ッ!!!!!!!




 先の轟音と比しても遜色無く、寧ろ強烈と評するに値するであろう轟音が、またしても室内に響き渡る。

 俺の背後で小さくない悲鳴が上がった様だが、そちらに意識を割く余裕は無いし、また()()()()()()()()()()()為に、特に反応する事無く視線を前へと固定する。


 すると、立ち込めた白煙を引き裂いて再び魔王がその巨体を顕にするが、その姿は先程までとは大きく異なっていた。

 寸前まで、細やかな傷は多けれど致命的なモノや行動に支障の出るであろうモノは1つも見受けられ無かった強靭な肉体が大きく抉れ、そこから滝の様に紫色をした血液を噴出させていた。


 流石の魔王も、俺のとっておきの1つである『金剛』は喰らえば無事では済まなかった様子だ。

 まぁ、他にもある同コンセプトのシリーズを使えばこうして殺し合う事も無く片を付けられたのかも知れないが、他のは威力の関係だったり効果の関係だったりでこの場では使えないモノばかりだから、ソレを言っても意味は無いのかも知れないが。


 とは言え、魔王の腹に風穴を開き、その上で片膝を地に突かせているのになんの代償も無しに、とはならず。

 普段安全に使える程度に絞っていた出力を大きく超え、理論値でも『ギリギリ自壊せずに済む、ハズ?』のレベルにまで出力を上げた放った一撃により、自慢の得物は白煙を上げて冷却中であり、直ぐ様次の一撃を、とは行かない状況。

 だが、追撃して責め切るには絶好の機会を逃せるハズも無く、手に新たに錬成した槍を構えて飛び込もうとした時、咄嗟に右へと大きく飛び退く。




「はぁあっ!

 喰らえ!『ジャスティススラッシュ』!!」




 俺の真横、寸前まで立っていた所を、魔力によって作られた『飛ぶ斬撃』が走り抜けて行く。

 起こりが静かで、余程集中していないと発動と襲来に気が付けず、それでいて射程は長く威力も直接斬りつけた際とほぼ同等のモノが出せる出し得な技なのだが、使用者のネーミングセンスが壊滅的な上に毎度毎度叫びながら使うのが意味不明過ぎて草も生えない。


 そんな飛ぶ斬撃、正式名称『ディバインスラッシュ』が放たれた方へとチラリと視線を向ければ、そこにはドヤ顔で誇らしげに大剣を掲げる鎧姿のガチムチイケメン。『正義』の名を冠し、俺を召喚した国の騎士団長でもあるシュヴァイン。

 少し前、魔王が膝を突くまでは俺の背後で震える事しか出来ず、他の面子と共に固まっているだけであった自称『仲間』の1人であり、隠そうともせず俺の背中に向けて殺気を放っている者の内の1人であった。


 今回の攻撃とて、そうだ。

 魔王が膝を突いたから、隙が出来たから、と真正面からでは到底太刀打ち出来ない相手に痛手を与えつつ、俺の安全を考慮せず、寧ろ巻き込んでやろう、と企んでの一撃であったのは確認するまでも無いだろう。

 現に、一瞬とは言え向けた視線の先では、自身の攻撃が魔王へと向かって行く事に集中するよりも、寧ろ俺の背中に命中しなかった事を嘆き、『王女』と『聖女』が発した批難によって苛立ちを強めている光景が広がっていた。



 …………まぁ、その程度の攻撃でどうこうなってくれるなら、ここまで苦労して相手しなくても良かったんだけどな。

 何故か2人が深い関係であるハズのシュヴァインに対して食って掛かっている事態に首を傾げながら、内心でそう零す。

 その証拠に、と言うのもおかしいかも知れないが、未だに膝を突く魔王の間近に迫った『ジャスティススラッシュ(笑)』はパシュッ!と何とも気の抜ける音と共に、魔王へと届く事は終ぞ無いままに不可視の結界に阻まれて消滅してしまう。



「なっ…………!?」


「バカなっ!?

 既に、結界は剥がされているハズでは!?」



 俺の攻撃が命中したからか、それとも魔王が膝を突く程に弱っているからか。

 そう判断した材料は不明だが、それなりに根拠があっての行動だったのだろう。多分。

 故に動揺も大きく言葉にも出てしまっているし、自分達に注意が向かない様に、と俺を巻き込む形で広範囲にデバフまで追加でばら撒いている。


 当然の様に、展開された無数の致命的なデバフは俺に対しても降り注ぐ。

 しかし、ソレを見越して、と言う訳では無いが、心臓に埋め込んである『賢者の石』が効果を発揮し、俺に対する状態異常や能力低下を尽く弾き、解除してくれる。


 その結果、結界によってその過半を防いでいるとは言え、残りをその身に受ける事となってしまっている、重傷の魔王と。

 結果的にほぼ無傷に近しい状態にて、魔王を殺し切る手段を確立している俺とが対峙する事となり、その果てが事象として確定するのに、それから時間は殆ど掛かる事は無かったのであった……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お帰りなさい! 久しぶりの新作、とりあえずこれから読みます。 また、完結まで頑張ってください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ