神秘の魔方陣
アリシアは失望の色を隠さない。
やれやれといった様子。
それは、あなたたちが悪いと言っているようにも見えた。
少なくとも、聖騎士アリオンは……そう感じた。
誰が悪い?
母さんのような、犠牲者が出ない世界。
そんな世界を目指していた彼……
化け物のくせに……
怪物のくせに……
「きいた風な口をきくな!」
聖騎士アリオンは激昂した。
死ななくてもいい人が死ぬ……だと……
「母さんの死を、語るなぁーー!」
アリオンは、アリシアへと一気に距離を詰める。
その勢い、まさに烈火!
剣を大きく振りかぶる。
その勢いで、背中が大きく、くの字に湾曲している。
全力を、ふりしぼり、剣にのせる勢い。
刃が熱気を帯びていくような勢いだ!
聖騎士アリオン……
彼に長く随伴していた兵士たちですら、見たことない彼の姿。
感情のままに……
無駄が多く、すきだらけ……
およそ達人とは言いがたい剣筋だ。
だが、込められた威力が、その欠点をおおい隠してもいた。
だから、素晴らしい斬撃。
でも、悲しみの色が見え隠れもする一撃……
情を剣にのせ、アリシアに振り下ろした!!
なによ、ムキになっちゃって……
力まかせの剣なんて、あたしに通じないんだからね!
ドラゴンズ・ミート、竜の肉質を持つ彼女。
物理的な強打は、通じない。
加えて、アリシアは、不器用ながら腕を動かし、致命打を防ぐような動きをしている。
それでは、聖騎士アリオンの攻撃は、無駄……
アリシアに傷を負わすためには、魔法の力が必要。
それが絶対!
聖騎士アリオンの攻撃は、無駄……
すでに、とっておきを発動するための位置についた、兵士たちは、理性では、そう思っている。
だが、彼らは、静かに見守っていた。
美しくない剣技……それが、熱い。
だから、兵たちの胸を打つ、もしやと思わせる。
敵国から無慈悲のアリオンと恐れられる戦士。
規律に厳しく、それを乱せば、躊躇なく処断する男。
その彼が、激励に身を任せ、およそらしくない猛攻をしている。
まるで、子どもみたい……
アリシアは、そんな彼の振る舞いが嫌いだ。
死ななくてもいい人が、たくさん死ぬ……
あたしの言葉が多分、彼のなにかに触れた……
アリシアに、聖騎士アリオンの剣は、傷を負わすことはない。
ドラゴンズ・ミート、竜の肉質。
その物理耐性は、人の常識を遥かに超えた域外。
本物のドラゴンズですら……
アリシアは、聖騎士アリオンの剣を黙って受ける。
力まかせに振り下ろす斬撃を耐えしのぐ。
斬撃……、そして斬撃、次々と力まかせに、だだをこねる子どものように、とりどめもなく、次々と、斬撃がアリシアに迫りくる。
「死ななくてもいい人が死ぬ……」
アリシアが発した言葉。
聖騎士アリオンは、
「母さんを語るな!」
と激昂した。
ほんとに、この人、女子供に容赦しないのかしら?
その疑問をすぐに否定……
だって……
ああ、あたしは、やっぱり化け物なのか……
だから、誓ったのだ。
慈悲のような感情は捨てよう。
彼女は、剣をつかむ。
でも……、むむむむ……
ちょっと、話を聞いてみてもいいかな。
それから、ぶん殴れば、いいよね。
などという、軽い気持ち。
剣をつかまれたことで、聖騎士アリオンは、我にかえる。
絶好の機会!
ここで、大魔法陣を発動させれば……星の質量、その一部を魔力とし、聖剣に注ぐ……
それが、彼らの作戦。
奥の手だ!
聖騎士アリオンは、腹から声を出す!
「今だ! 発動せよ!!」
アリシアの至近距離での、彼の大声!
「なっ!」
小さくて愛くるしい女の子悲鳴。
びっくりするじゃない、ばかっ!!
これは、アリシアの心の声!
人は、急にびっくりすると、力が必要以上に入る。
それは、仕方ないこと。
ドラゴンズ・ミート、竜の肉質を持つアリシアとて例外ではない。そして、彼女は、物理最強でもある。
アリシアの手に力が入る。
物理最強の加減のない怪力だ。
アリシアは、聖剣を強くつかんでしまう。
圧迫された、聖剣の刃が悲鳴を上げる!
ピキピキという金属音!
そして、ボキという断末魔!
「ななっ!」
若い青年の悲鳴!
聖騎士アリオンは、目玉が飛び出しそうな顔で、折れた聖剣を見る。
「ななななっ!」
兵士たちは、あごを大きく外してしまう。
遅れて大魔法陣が発動。
大地に描かれた巨大な円の紋様。
きっと、それは、神秘に満ちた光景だったのかもしれない。
星の質量は、魔力へと変換をされ、指定された場所に集約をした。
大地に落ちた聖剣の刃へと……
そして、その折れ口から、魔力はだだ漏れな訳で……
壮大な魔力の循環を、この場にいる者たちは、目の当たりにした。
それは、まるで、とっておきの隠し芸のようだった。
無言……
言い換えれば、とても悪い空気といったところ。
アリシアは、
「なんか、ごめんね」
と謝ってしまった。
なんか……だって、しょうがないじゃない!!