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破滅の魔女

「女子供とて容赦しない」

 聖騎士アリオンが口にした言葉。


 拳を握る。

 次に、腰を、低く落とす。

 そして、構えた。


 アリシアは、魔法は苦手。


 だから、ぶん殴るの一択。

 だが、それが強い。


 アリシアは、ただ構えた。

 そして、両の目で、聖騎士アリオンを捉える。


 アリシアは、彼が言い放った言葉、

「女子供とて容赦しない」

 を思い返す。


 すぐに、彼女の脳裏に広がる映像。

 それが、彼女を怒らせる。


 目の前の男が、無抵抗の人たちを殺す姿。

 実際に見たわけではない。


 誰からか、聞いた訳でもない。

 ただ、その映像が、アリシアの脳裏に浮かんだ。


 怒り!


 その感情が、アリシアを支配した瞬間!


 アリオンの構える剣。

 それが、わずかに動く。



 アリシアが跳ぶ。


 はやい!


 それは、弾丸!

 そして、砲弾!


 真っ直ぐに、標的まで一直線に!


 聖騎士アリオンは、それを見極めた。

 達人の域を超えた反応。

 そこに、聖剣の力が加わるのだ!


 アリシアと聖騎士アリオンの両者は激突をした。


 アリシアは、感情のままに。

 聖騎士アリオンは、邪悪を滅するものとして。


 互いに最初から全力。


 聖剣のまばゆい閃光!

 そこに、アリシアが放ったこぶしの衝撃波が加わった。


 凄まじい轟音!

 そして、視界を奪い去る強い輝き!

 最後に衝撃波が、あたりに吹き荒れる!


 それはまるで、嵐を超えた災害。

 木々が、なぎ倒される。


 砂煙と共に、吹き荒れる強風。

 兵士たちは、体を持っていかれまいと、大地にしがみつく。


 ルシファーの金髪が、風に乱れる。

 目を大きく見開いた彼の表情は、笑い声でも聞こえてきそうなぐらい、愉快でたまらないといった様子だ。



 討伐軍の兵士たちは、強風をこらえるのに必死。

 だが、彼らは、さっきの女の子が粉微塵になったと思い込む。聖騎士アリオンの一撃、その威力を彼らは知っていたからだ。


 魔物の集団暴走(スタンピード)を、一瞬で全てを消し去る威力。


 生身で受けきれる訳がない。

 ましてや、相手は、可愛らしい女の子だ。


 聖騎士アリオンは、やりすぎだ。

 聖剣を抜くまでもない。


 討伐軍の誰もが思う。

 舞い上がった土煙が晴れても、女の子の姿は消えているだろうと、思っていた。


 砂煙が晴れた。


 荒廃。

 森の木々はなぎ倒され、大地は荒れていた。


 聖騎士アリオンの背中から扇状に伸びる風景。

 かろうじて、被害が少ない場所。


 討伐軍の兵士たちは、それに気付き、あらためて、聖騎士アリオンの強さを知った。


 アリシアは、健在。

 しかも、無傷。


 彼女のこぶしを、聖騎士アリオンが受け止めている状況。しかも、彼の方が、分が悪そうに見える、


 聖剣が震えている。

 聖騎士アリオンは、押されていた。


 聖剣の背が、ジリジリと、彼のひたいへと寄っていく……


 討伐軍の誰とはなしに、声がもれ聞こえる。

「そんな……バカな……」

「破滅の……魔女」


 化け物を超えて化け物。

 怪物のなかの怪物……


 アリシアは無傷。

 こぶしやいばを押し返す姿は、尋常ではないが、女の子だ。


 可愛らしい女の子。


 それでも、兵士たちは、彼女を化け物と思う。

 怪物だと恐れる。


 なんでも風景が、感情で、様々な色に見えるように、アリシアもまた、兵士たちから、怪物だと恐れられる。


 常識を外れた存在。

 人のことわりから逸脱した存在。


 ドラゴンズ・ミート、竜の肉質を持つ女。

 世界の均衡を崩し、破滅へと導く魔女。


 破滅の魔女、アリシア……


 兵士たちの声と感情は、大気を漂い、アリシアにも、やがて届く。


 それは、火刑で焼かれ、殺された彼女のよく知る、声と感情だった。


 群れをなし、軍となって、ニブルヘイムに攻めてきたのは彼らだ。

 話あいにも応じるそぶりを見せない。

 かと思えば、剣を抜き、敵意をむき出しにする。


 終いには「女子供とて容赦しない」だ。


 暴力を振るおうとして、通じぬと知れば、恐れ、やれ化け物だ、怪物だと罵倒をする。


 昔の彼女なら、泣いていた。

 だが、そんな感情は、あの時、焼かれて無くしてしまった。


 だから、平気……

 最初から、世界を敵に回すつもり。


 アリシアは、

「そろそろ、あきらめなさい」

 と言った。


 聖騎士アリオンは、アリシアのこぶしを受けて、後悔をしていた。


 強い。


 これは、彼の率直な感想。


 その強さが、七人の魔法少女たちにとって脅威。

 世界に輝く七つ星、フレアデスの魔法少女。

 彼女たちが、恐れたアリシア。


 世界の均衡を崩し、破滅に導く、それがアリシアの罪だ。


 聖騎士アリオンも、そのアリシアの罪を実感した。


 今も、聖騎士アリオンは、押されている。

 両者で握る聖剣は、アリシアのこぶしに押され、彼のひたいまで、すぐ近く、紙一重まで、その背が迫っている。


「エレクトラさま! 力をお貸しください!」

 聖騎士アリオンは、両腕に力を込めて、さらに、

「黙れ! 邪悪には、屈しない!」

 と叫んだ!


 エレクトラ?

 アリシアが聞きたくない名前だ。


 最初は、親切だったと記憶している。


 寛容の魔女、エレクトラ。


 罰を与えない寛容は堕落と言い切った女。

 大嫌いな、仲良しだった女の子……


 アリシアに、わずかな隙。

 そこを、聖騎士アリオンは、見逃さない。


 集中、そして詠唱!


「汝の罪を罰せよ! クレメンス・ルクス!」

 聖剣が放つ、まばゆい光。


 その密度が先ほどより濃い!


 聖なる力、その魔力が集約する。

 それは、全てを両断するための力だ。


 七人の魔法少女が同時詠唱てなした、あの火刑の炎、アリシアを焼き尽くした、あの、忌々しい炎に近い力……


 アリシアは、本能で下がる。

 刃より疾く! が彼女が意図したところ。


 それでも、クレメンス・ルクスは、刹那だ。


 アリシアは、全身で、それを迎えることとなった。

 痛み、ダメージを負うという感覚。


 それでも、耐えた。

 昔とは違う。


 すぐに泣いていた、あの頃とは、全然違う。


 屈しない。

 その意志は、強い。


「ねえ、一つ聞いていい、あたしの罪ってなんなの?」

「世界の秩序を乱すことだ!」


 聖騎士アリオンは、アリシアを、今の一撃で倒せなかったことに動揺はない。討伐軍は、動き始めている。


 この地に、魔方陣を出現させる。

 その為の、遠征軍だ。


「なら、その秩序ってなに? どうせ、あたしが、いない間も戦争をしてたんでしょ?」

「ふん、そんな惑わしには、動じんぞ!」


 兵士たちは、訓練通りに動く。

 いずれ魔方陣は完成する……


 ルシファーは、それを気配で知っていた。

 だか、あえて言わない。


 彼は、アリシアが他人の命を奪う瞬間が見たかった。

 すぐに、それは実現すると、堕天して悪魔になった彼は確信もしてもいる様子。


 アリシアの方は、聖騎士アリオンを相対したまま。

 彼女は長いため息をはいた。


 まったく、世界は変わっていないのね……


「そんなだから、死ななくてもいい人が、たくさん死ぬんだわ」


 アリシアは、うんざりしていた。

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