表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

君は特別

 アリシアの復活。

 その翌日。


 かつての魔の森も、黒い霧が消えると、空気は、清々しく透き通っている。


 新鮮な空気が、森に充満している。

 そこに、木漏れ日がキラキラと揺れていた。


 木々に囲まれた品のある屋敷。

 それが、アリシアの生家だ。


 そして、今は、アリシアの拠点でもあった。


 屋敷の中、アリシアは、ソフィアに座ってくつろいでいる。そして、物思いにふけていた。


 世界征服。

 それが、あたしの夢。

 そして、それが、復讐だ。


 世界の全てを従え、平服させたい。

 天のあれだって例外じゃないんだからね!


 だから、もう一度、みんなに、言っておこう!

「あたしは、世界征服をするために復活したのよ」


 屋敷の中は「あらあら、まあまあ」といった雰囲気だ。

 つまり、それは、まったりとして、のどかという意味。


 絶賛、午後のお茶の時間中。

 それも大事だけど、これは、大問題だわ!


 そう、危機感の欠如!


 昨日まで、酷たらしいしかばねだったとは、思えないていたらくよ!


 ティーカップに入った紅茶を飲む。

 あら、美味しいわね。


 ふと、前を見ると……


 三人掛けソファを一人、いや、今は黒猫だから、一匹……

 いやいや、どっちでもいいのよ!


 とにかく、一匹で偉そうに、三人がけを独占してらっしゃるのが、ルシファー。屋敷といい、森といい、使用人たちだってそう、それに、父さま、母さまも……


 この紅茶だって、きっと……

 廃棄だった屋敷を思い出す。


 調度品は、全て、朽ちて消えていたはずだ。


 さらに、屋敷だけじゃない、使用人たち以外にも、あたしが火刑にあった後、処刑された人たちも、外にいるらしい……


 その全てが生前のまま……

 中々の魔力……


「全部、君の魔力じゃないか」

 背中の可愛らしい羽を、黒猫のルシファーは、パタパタとさせた。


 声を聞いた侍女たちが、落ち着かない。

 それに、なんか、母さままでそわそわとしちゃって……


 アリシアは、ティーカップをテーブルに残した受け皿に戻す。

「勝手に心を見透かすのは、やめてちょうだい」

「さすがに、心を読むなんて真似は、できないさ。ただ、君の表情は読みやすい」


 黒髪のルシファーは、あたしの目をじっと見る。

 その目は、まるでライオンのよう。


 とても、綺麗……なんか、じゃない。


 これは、野生の戦い。

 目をそらした方が、きっと魔けね。


「アリシアたら、ルシファーさんと見つめ合っちゃって」


 ちょっ、母さま、相手は猫よ!


「そうか、アリシアが、男を連れて戻ってきたと思ったら、もう、そういう年頃か……」


 父さま!

 言い方!


 それに、お年頃どころか、数百年経ってるのよ!


「アリシア、そんなに、見つめられると困る」

 先に目をそらしたのは、黒猫のルシファーだ。


 勝ったわ!


 アリシアは、よしっ! と小さくガッツポーズをした。

 これで、あたしの方が上ということを、彼も思い知ったわね。


 ルシファーは、そんな彼女を無視して、

「君の魔力豊富な体は、とても魅力だ。だから、俺をそんなに見つめるな」

 と言った。


 アリシアは、

「なっ!」

 という悲鳴を上げた。


 そして、「とても魅力的だ」というルシファーの言葉が、アリシアの脳内で一往復。


 だから、頭からボンと魂の一部が抜け出た感覚を覚える。

 そして、彼女は、うつむいた。


「魔力豊富な体」というルシファーの言葉。

 ドラゴンズ・ミート、竜の肉親を持つアリシアの体重は重い。それは、常人の数倍、それどころか、人の域を超えた魔力を備蓄している証。


 つまり、あたしの魔力、というよりお肉? が目当てなのね。


 アリシアは、生前を思い出した。

 確かに、アリシアの魔力は、人の域を超えていた。


 ただ、それは、魔力の備蓄量が、という意味で、魔法の威力が強力という意味ではない。


 魔力を放出するための蛇口のようなものは、アリシアは人並みか、それ以下しかなかった。


 魔力の備蓄量は、大きくても、魔法の攻撃力は、さほど大きくない。


 だから、彼女の魔力を勝手に、抱きついて?

 昨日のことを思い出して、また、アリシアは、恥ずかしさで、頭をボンとさせる。


 とにかく、あたしの魔力を引き出して使うルシファーには、油断は、しないわ。


 誰だって、きっと裏切る。

 とにかくルシファーは、奈落の底につながれていた悪魔なんだから……


「全てが、元通りなのだから、たいしたものね」

 アリシアの口調は、少し攻撃的だった。


 黒髪のルシファーに気にする様子はない。

「そうでもないさ」


 アリシアには、そうは思えない。


「本当に、君は、素直だな」


 なにが、素直なのよ!

 これは、アリシアの心の声。


「俺のことを疑ってるんだろう」

 黒猫のルシファーは、やれやれとなり、言葉を続ける。


「元通りではないさ。死人は、死人のまま。生き返らすなんて真似は、誰にもできない。君も、俺も、彼らも、皆、天から見捨てられた死人には、違いないんだ」


「別に、大して違わないじゃない。あなたなら、ゾンビだって作れちゃうんでしょ」

「ゾンビ? 生ける屍なんて、俺には作れないさ。あれには、別の才能が必要だな。あと、もう一つ、俺にとって、アリシア、君が特別な理由を教えてあげよう」


 黒猫のルシファーが、人に化けた。

 それは、少し、ずるい姿。


 空になったティーカップを、下げに来ていた侍女が、見惚れて盆を落とす。


 それぐらいは、ずるい魅力がある青年の姿だ。


「死人に魔法は使えない」

「そんな、嘘は、ダメよ。あたしだって、馬鹿じゃないわ」


 あたしは、どうやら、死人らしい。

 でも、魔力はある。

 器用に扱えば、きっと魔法は、扱えるように……なれるはずよ!


 ばか!


「違う。死人には、魔法が使えない。なぜ、俺が、あそこから抜け出せないでいと思う」

「それは、あなたが……」


 ルシファーは、あたしの言葉に重ねてきた。

「違う! 俺に魔力がないからだ。死肉に、魔力はない」


 死肉に魔力はない……

 でも、あたしは……


「君は、特別だ。そうだな、君は、物理的に重い幽霊といってもいい」


 なっ!

 それって、遠回しに、あたしが、特別にデブってことよね!


「ルシファーのバカ、嫌い、あっちいけ!」


 屋敷に、使用人が駆け込んできた。


「この森に、外から軍隊が攻めてきてます!」


 軍隊?

 どこの軍隊か知らないけど、丁度、いいわ!


 破滅の魔女、その二つ名が飾りじゃないことを教えてあげるわ!


 アリシアは、ソファから立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ